2017年のノーベル賞各賞が相次いで発表されました。経済学賞は、シカゴ大学経営大学院のリチャード・セイラー教授に決まりましたね。セイラー教授は行動経済学の権威であり、私たちに「お金とどう向き合うべきか」について様々な気づきを与えています。本連載でもセイラー教授の研究を度々取り上げていますので、覚えている人も多いことでしょう。

セイラー教授は「人間の経済的な意思決定(行動)」について心理学的な側面からアプローチしたことでも知られています。なぜ、「人は常に合理的に行動できるとは限らない」のか。その理由を分かりやすく解明し、ひとり一人の経済行動が社会全体(市場)にどのように影響を及ぼすかを示しました。

ちなみに、ノーベル経済学賞の賞金は900万クローナ(約1億2400万円)になるといいます。インタビューで賞金の使い道を聞かれたセイラー教授は「できるだけ『非合理的』に使おうと思います」と述べたとか。

今回は、本連載でも度々取り上げたセイラー教授の研究についておさらいしましょう。

人は無意識に「お金に色をつけている」

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(写真=Thinkstock/Getty Images)

セイラー教授の研究成果の一つに「メンタルアカウンティング」があります。メンタルアカウンティングは「心の家計簿」とも呼ばれます。

たとえば、一着2万円のスーツを購入する際に「30円の価格差」は大した金額に感じないのですが、1本100円のボールペンを買うときの「30円の差」は大きな金額に感じられるものです。いずれも30円であることに変わりないのに不思議ですよね。人は無意識に心の中で「お金に色をつけている」ためにこうした差異が生じるのです。これが、すなわち「心の家計簿(メンタルアカウンティング)」です。

「一生懸命働いて稼いだお金は大切に使うのに、あぶく銭は無駄遣いしてしまう」「旅先ではつい財布の紐が緩んでしまう」そんな行動もメンタルアカウンティングが作用しているためと考えられます。なぜ、人は常に合理的に行動できるとは限らないのか? その理由の一つが「お金に色をつけている」からと考えられます。

人は「将来の価値」を割り引いて考えてしまう

セイラー教授は「現在価値」あるいは「時間割引」という概念を示したことでも知られています。

たとえば、読者の皆さんは「今日1万円をもらえる」のと「2年後に1万5000円をもらえる」のでは、どちらを選ぶでしょうか?

今日1万円が欲しい、と考えた人は目先の利益を優先している人です。人間というものは、将来得られる価値を必要以上に割り引いて考える傾向にあります。「2年後の1万5000円」よりも「今日の1万円」のほうが魅力的に感じられるのは、将来の価値が「実際の価値」よりも小さく感じてしまうからだと考えられます。これを「現在価値」「時間割引」といいます。

必要のない商品を買ってもらうテクニック?

また、セイラー教授は「ナッジ理論」の提唱者としても有名です。ナッジ(nudge)とは英語で「肘で人を軽く押したり、突いたりする」意味で、ビジネスの世界でも活用されることが多いです。

たとえ必要のない商品でも「いまから30分限定のタイムセール」「本日のお買い得商品」「人気ナンバーワン」といったコピーに誘われてつい買ってしまった経験はありませんか? こうした体験は、ナッジによって購買意欲が刺激された結果と考えることができます。

人間は常に合理的に行動できるとは限らない。だからこそ、必要のない商品と分かっていても、ナッジによって購入に誘導することが可能なのだと考えられます。

秋の夜長の一冊にいかが?

ところで、セイラー教授はウォルストリートジャーナルのインタビューで行動経済学の大きな成果の一つとして「老後への備え」を指摘しています。

誰もが定年退職後に備えて「貯蓄の必要性」を感じているはずです。にもかかわらず、貯蓄を実践するのはなかなか難しい側面もあります。そうした状況でセイラー教授は「ナッグ(しつこく文句を言う)」よりも、「ナッジ(軽く肘を突く)」ほうがより高い効果を得られると考えたのです。

セイラー教授の著書は日本でも何冊か翻訳されていますので、秋の夜長に一冊読んでみるのも良いかも知れませんね。

長尾義弘(ながお・よしひろ)
NEO企画代表。ファイナンシャル・プランナー、AFP。徳島県生まれ。大学卒業後、出版社に勤務。1997年にNEO企画を設立。出版プロデューサーとして数々のベストセラーを生み出す。著書に『コワ~い保険の話』(宝島社)、『こんな保険には入るな!』(廣済堂出版)『怖い保険と年金の話』(青春出版社)『商品名で明かす今いちばん得する保険選び』『お金に困らなくなる黄金の法則』(河出書房新社)、『保険ぎらいは本当は正しい』(SBクリエイティブ)、『保険はこの5つから選びなさい』(河出書房新社発行)。監修には別冊宝島の年度版シリーズ『よい保険・悪い保険』など多数。

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