米国時間10月31日、11月1日に開かれるFOMC(米連邦公開市場委員会)では金融政策の据え置きが見込まれている。今回は記者会見や経済見通しの公表がないことから、金融政策の行方を探る手がかりは声明文に限られる。

ちなみに、前回のFOMCでイエレン議長が「インフレ低下は謎」と発言したことから、今回はこの発言を受けたその後の議論がまず注目される。FOMCと直接の関係はないが、金融政策の方向性を探る上では次期FRB(米連邦準備制度理事会)議長の行方も気になるところだ。

気になるイエレン議長「謎」発言のその後?

FOMC,見通し
(写真=Getty Images)

27日現在のフェドウォッチでは今回のFOMCでの現状維持が99%、12月FOMCでの利上げは「ほぼ100%」と予想されており、今回は見送り、次回の利上げが確実視されている。

10月からバランスシートの縮小が始まったが、これまでのところ大きな混乱は見られず、今後の予定に変更はないだろう。

そうした中、前回9月のFOMCではイエレン議長が「インフレの鈍化は『謎』だ」と発言して注目を集めた。声明文では「短期的には目標の2.0%を下回る状況が続くが、中期的には目標に落ち着く」との文言が残されたが、議事録では多くの委員が低インフレが一時的な要因ではないかも知れないことに懸念を示している。

端的に言えば、物価と失業率の関係に疑念が浮上しているということだ。

9月のCPI(米消費者物価指数)はコア指数が前年同月比1.7%上昇と5カ月連続で1.7%の伸びにとどまっている。FRBが重視しているコアPCE(個人消費支出)物価指数の伸びも2月の1.8%から8月は1.3%と低下している。一方で、失業率は年初の4.8%から9月は4.2%とこちらも低下傾向にある。

FRBは失業率と物価は逆相関の関係にあり、失業率が低下しているのだから物価は上昇する「はずだ」としている。しかし、実際には物価と失業率は歩調を合わせてともに低下しており、失業率の低下が続いているにもかかわらず、物価は一向に上昇しない。つまり、物価を予想する上で失業率は「当てにならないのではないか」と疑い始めているわけで、今回の会合ではこの議論がどう進展するのかに関心が集まっている。

インフレ鈍化の謎についての追加的な情報が声明文でうかがえるのかどうか、また声明文にない場合でも3週間後に公表される議事録に注目したい。

ウォール街で注目されている「UIG」

ところで、物価に関して最近のウォール街で関心が高まっているのが「UIG(基調的な物価指標)」だ。UIGはニューヨーク連銀が9月から公表を始めた物価指数で、長期的に振れの少ない243指標で構成される「価格指数」と、物価以外の情報、たとえば企業景況感や金融指標などを加えた346指標に基づく「総合指数」がある。

9月の価格指数は前年同月比2.27%上昇と8月の2.17%上昇から加速しているが、これはほぼCPIの内容に沿っておりサプライズはない。注目度が高いのは「総合指数」で、9月は2.83%上昇と8月の2.74%上昇から伸びを加速しており、水準もCPIを大きく上回っている。

市場関係者の間では、UIGが高い水準で上昇基調にあることから、物価は今後加速するとの見方を裏付ける客観的なデータとして受け止める向きもあるようだ。

ちなみに、UIGはFRBおよびニューヨーク連銀の公式統計ではなく、ニューヨーク連銀のスタッフが独自に算出した指標との位置づけである。

「屋根を修理するなら、晴れているうちに」

ところで、先週はケネディ元大統領暗殺事件の機密文書公開が話題となったが、ケネディ氏の言葉を借りるなら「屋根を修理するなら、天気の日に限る」というのが現在のFRBのスタンスを端的に表現しているかも知れない。

7〜9月期のGDP成長率は前期比年率3.0%と潜在成長率とされる1.8%を大きく上回った。また、9月の失業率も4.2%とFRBが長期的な完全雇用水準と考えている4.6%を下回っている。

雨が降り出してから雨漏りを修理しても遅いのと同様に、景気が良いうちに金利を上げておかないと、景気後退が始まってから金利を下げようとしてもその余地が少ない。

たとえインフレの低下は謎のままであっても、手遅れになる前に金利を上げておく、という姿勢に変化は見られないだろう。

FRB議長、誰がなっても利上げペースは同じ?

金融政策の行方を探る上では、FOMC以上に注目されているのが次期FRB議長の行方だ。市場ではテイラー氏がFRB議長になったらタカ派、パウエル氏ならハト派になると見られており、実際にテイラー氏の可能性が報じられると金利が上昇してドル高・円安に、パウエル氏優勢と伝えられると金利が低下してドル安・円高となっている。

しかし、この認識は正しくないと筆者は考えている。結論から言えば、どちらが議長になってもFRBの金融政策に大きな変化はなく、テイラールール採用に向けて前進することになるだろう。

テイラー氏自身が繰り返し述べているように、テイラールールは唯一絶対の関係式ではなく、採用したからといって機械的に政策金利が決まるわけでもない。

テイラールールのオリジナル版を利用すると、適正な金利水準は3.75%となり、したがってテイラー氏が議長となった場合には利上げペースが加速するとの見方は後を立たないが、テイラー氏自身はこうした見方を否定している。

オリジナル版が発表されたのは1990年代前半であり、推計値はそれ以前の経済変数に基づいている。たとえば、オリジナル版での実質均衡金利は2.0%と推計されているが、これは1980年代のデータから推計された数字であり、現在とは異なる可能性をテイラー氏は排除していない。

アトランタ連銀はオリジナル版を修正したテイラールールに基づく金利水準を公表しており、10月13日現在は2.94%となっているが、このモデルでは実質均衡金利は2.0%とされている。ただし、FRBの推計では実質均衡金利は0.75%程度に低下していると考えられていることから、この数字を当てはめると適正金利は1.69%にまで低下する。

テイラールール導入の主眼は政策の透明性と説明責任にある。モデルを明示することで何を根拠に金利を決めているのかが至極明快になるからだ。重要なことは、モデルとは異なる政策金利を選択した場合にその説明が容易となることにある。たとえば、モデルでは2.0%と計算されているにもかかわらず、政策金利として1.0%を選択した場合、なぜ2.0%ではなく1.0%なのか、その根拠をはっきりと示す必要があり、そのためには「モデルが必要だ」というのがテイラー氏の主張である。

したがって、テイラールールが導入されたとしても、政策金利が機械的に決定されるわけではない。テイラールール採用なら利上げペースが加速するとの見方は勇み足となる可能性が高く、テイラールールが採用されたとしても利上げペースは現在の見通しと大差ないのではなかろうか。

ルールベース導入の流れにも変化なし

パウエル氏が就任したとしてもテイラールールの導入、すなわちルールベースの金融政策導入という方向性に変化はなさそうだ。

まず、今回から参加するクオールズ副議長がテイラールールを支持しており、パウエル理事とクオールズ副議長は旧知の友人である。パウエル氏は共和党政権下で財務次官を務めた経験があり、共和党主流派とは考え方が近く、共和党が求めるルールベース導入に反対する理由は見つけづらい。

また、イエレン議長が来年2月の議長の任期切れとともに退任した場合、トランプ大統領はあと4名の理事を指名できる。この4名がルールベースの導入を支持した場合、7名の理事のうち反対に回る可能性があるのはブレイナード理事1名となる。

テイラー氏は副議長としてFRB入りする公算もあり、その場合にはルールベース導入に大きく前進することになるだろう。また、テイラー氏が正副どちらの議長にも指名されなかったとしても、今後指名される理事は共和党が望むルールベースの導入を支持することが見込まれる。結局のところ、誰が次期FRB議長になってもルールベース導入の流れに変化はないと筆者は考えている。(NY在住ジャーナリスト スーザン・グリーン)

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