超売り手市場と言われた2018年卒の就職前線。希望の就職先に内定が決まり、現在、残りの大学生活を満喫しているA君(23歳)に、大学が主催するライフプランセミナーで将来の人生設計を描いてもらった。

「ぜいたく」せずとも、人生には約3億円必要!

副業,給料,お金
(写真=PIXTA)

「そうですね。結婚はしたいです。子どもも1人は欲しいかな。自分も大学まで出させてもらいましたし。マイホームも欲しいです。実家は地方で、一応戸建てなんですけど古くて。便利なマンションがいいな。生命保険にも入っておかなくちゃいけないですよね。病気とか、何かあったとき大変でしょう?まだ老後のことなんて全然イメージできませんけど、新聞とかニュースを見てると心配です。僕たちが老後を迎える頃は、何とか最低限の生活ができれば御の字じゃないでしょうか?」

こんな希望を述べるA君に提示した金額が「2億8488万円(※)」だ。この数字を見て驚きの声をあげるA君。これは、A君の人生で起こるであろうライフイベント(できごと)に沿って、主な支出を合計した金額である。

「え?これって、ほとんど3億円ですよね。僕がこれから送る人生って、こんなにお金かかるんですか?すごい金額。でも、ここには自動車とか旅行の費用とかは含まれてませんよね。僕、ドライブが趣味ですし、旅行も色々行きたいところあるんです。就職したら、海外にも行きたいな、と思ってたんですけど……」

この金額の内訳は、以下の通り。統計資料などから一般的な平均額を算出している。もちろん、A君が指摘したように、この試算に含まれていない費用もたくさんあるし、想定外にかかる分も少なくないだろう。

2億8488万円=(結婚費用約436万円+出産費用約49万円+教育資金約950万円+住宅購入費約3968万円(マンション)+現役時代の生活費1億4318万円(31.4万円×12ヵ月×38年)+老後の生活費約6480万円(高齢夫婦無職世帯約27万円×12ヵ月×20年間)+介護費用約547万円(平均介護期間59.1ヵ月×介護費用7.9万円(毎月)+80万円(一時的))+葬儀費用約200万円+生命保険料1540万円(年額38.5万円×40年間))

大学卒・男性の生涯賃金も約3億円!収支はプラス165万円のみ

その一方で、収入はどうだろうか?

大学卒・男性の退職金を含めた生涯賃金は、約2億8653万円(厚生労働省「平成28年賃金構造基本統計調査」「平成25年就労条件総合調査」)となっている。前述の支出額との差は、「165万円」のプラスが生じているに過ぎない。その上、1990年代後半から生涯賃金は減少傾向にある。その要因は、バブル崩壊後に景気が落ち込み、デフレ状態に陥ったこと。

賃金は景気に左右されやすい。最近は、政府が企業に対して賃上げ要求を強めているため、若干の微増となっているものの、今後の水準もそう変わらない可能性が高い。

もちろん、一生で得られる収入を考える場合、生涯賃金に公的年金等の受給額をプラスする必要がある。その額は、現行制度で試算すると5220万円(夫婦の受給額226万円(夫婦世帯の年金支給額平均)×15年間+夫死亡後の受給額226万円×3/4×10年間)だ。
これを前述の生涯賃金に加算しても3億3873万円。

就職前のA君にとって、実感が湧かない数字ばかりだが、所得だけでなく、年金水準も減少傾向にあることを踏まえると、何となく心許ない気がするのはA君ばかりではない。

若い世代が不安に駆られて、生活防衛にばかり走るのも大問題!

「じゃあ、結婚とか子どもとかマイホームってあきらめた方が良いんでしょうか?」

この試算を見てA君は言う。しかし、若い世代が不安感ばかりに駆られるのも考えものだ。経済成長が滞り、賃金も上がりにくいのは、少子高齢社会の進展によって、将来に対する漠然とした不安が若い世代にまで広がり、節約・貯蓄志向が高まっているからに他ならない。

実際のところ、A君のように、昔ながらのライフプランを描く若者は多くない。最初からムリだとあきらめて、「結婚もしませんし、子どもも別に欲しくありません。マイホームなんてトンデモナイですよ」とのたまう。

生まれた時からモノに囲まれているから、そんなに欲しいモノもないらしい。若い世代が将来に夢や希望を持てなくなり、目先のことしか考えなくなったら、日本はこの先、どうなってしまうのだろうか?

分岐点(1)「配偶者の働き方」 長期に安定して収入を増やす

そこでA君に有効な解決策として提示したのが、長期に安定して収入をふやすことだ。その具体案の1つが「配偶者の働き方」である。世帯に稼ぎ手が複数いれば、一人分の負担は確実に減る。

1990年代半ば以降、世帯主の雇用者所得が減少傾向にある中で、それを補う形で共働き世帯が急増。統計によると、夫婦世帯に占める共働き世帯の割合は、1997年の41.5%から2014年には60.8%と約1.5倍にものぼる。

そして、1997年から2014年にかけて、夫婦世帯の1世帯当たり平均総所得金額を見ると、世帯主の雇用所得の減少(590.4万円→517.3万円(▲12.4%))に比べて、世帯全体の減少(813.5万円→751.3万円(▲7.6%))の方が減少幅は小さい。

要するに、所得減少のトレンドにあっても、夫(あるいは妻)が1人で収入アップに励むよりも、妻(あるいは夫)も一緒に稼いで世帯収入を増やす方が家計防衛につながるということだ。

さらに、毎月、配偶者の収入が増えれば、将来の受給できる公的年金額アップにもなる(もちろん、社会保険料を負担することが前提条件)。

「共働き世帯」が増えても、それぞれが働きやすい「共働き社会」となっているかは別問題なのだが、とにかく、前向きに検討すべきだ。

分岐点(2)本業以外の収入源 「副業」で多様な収入源を生み出す

しかし、結婚せず、配偶者やパートナーを持たないという選択肢も考えられる。そこでもう1つの具体案として挙げられるのが、「副業」である。

大企業の中にも副業を解禁する会社が登場し、政府が推し進めている働き方改革の一環として副業を容認する方向にある。長生きリスクを考慮しても、本業以外に収入源を作るというのは効果的だと思う。

趣味や特技を活かすのも良し、本業のスキルやネットワークを活用するのも良し。最近では、インターネットやIT関連を活用して、自宅で業務委託を行っている人も多いという。もちろん、会社が副業を禁止しているところも少なくないし、本業との調整や時間管理、上司や同僚の理解といった諸問題もある。その上、副業で得られた年間所得が20万円を超えた場合、会社員であっても確定申告が必要になる。

会社員の多くは確定申告など未経験者がほとんどなので、ハードルが高く感じるようだが、これを機に、税金や社会保険料のしくみを知ることも大切だ。

FPとして独立して20年ほどになる筆者だが、実は前職はまったく異業種。SEとして会社に勤務していた。FPの仕事を始めたのも、会社を辞め、次の就職先を探そうとしていた頃で、ほんの副業感覚でスタートしたと言っていい。それがこんなに長期に渡って食べていけるようになるとは、その当時、予想もしていなかった。

副業も、構えず「やってみようかな」くらいの軽い気持ちでやってみてはどうだろう。上手くいかなければ、また別の方法を考えれば良いのだ。筆者自身も、もうそろそろ50代に入るので、次はどんな仕事が面白いかなと考えている。人生は長い。いくつであっても、何かを始めるのに遅いということはない。

黒田尚子
黒田尚子FPオフィス代表
CFP®資格、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CNJ認定乳がん体験者コーディネーター、消費生活専門相談員資格を保有。立命館大学卒業後、日本総合研究所に入社。1996年FP資格取得後、同社を退社し、1998年FPとして独立。新聞・雑誌・サイト等の執筆、講演、個人向けコンサルティング等を幅広く行う。2009年末に乳がん告知を受け、「がんとお金の本」(Bkc)を上梓。自らの体験から、病気に対する経済的備えの重要性を訴える活動を行うほか、老後・介護・消費者問題にも注力。著書に「がんとわたしノート」(Bkc)、「がんとお金の真実」(セールス手帖社)、「50代からのお金のはなし」(プレジデント社)など。

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