世界知的所有権機関(WIPO)、フランスのビジネススクールINSEAD、米国のコーネル大学が共同で作成した「世界の技術革新力ランキング(GII)」で、日本は昨年の順位から2ランク上がり、127カ国・地域中14位となった。

このランキングでは「公共機関」「人的資材と研究」「インフラ」「市場要因」「ビジネス環境」「知識と技術のアウトプット」「創造的なアウトプット」の7項目、79指標を評価基準に、各国・地域における技術革新に向けた環境整備や実績を調査している。

日本以外でトップ30入りしたアジア国・地域はシンガポール(7位)、韓国(11位)、香港(16位)、中国(22位)などだ。

技術革新力の高い30カ国・地域と2016年の順位

トップ3は不動のスイス、スウェーデンに加え、オランダが9位から浮上した。昨年3位だった英国は5位に転落。大幅に順位を上げたのはベトナムで12ランク上げてトップ50入りを果たした。

30位 キプロス 46.84(31位)
29位 イタリア 46.96(29位)
28位 スペイン 48.81(28位)
27位 ベルギー 49.85(23位)
26位 マルタ 50.60(26位)
25位 エストニア 50.93(24位)
24位 チェコ 50.98(27位)
23位 オーストラリア 51.83(19位)
22位 中国 52.54(25位)
21位 ニュージーランド 52.87(17位)

20位 オーストリア 53.10(20位)
19位 ノルウェー 53.14(22位)
18位 カナダ 53.65(15位)
17位 イスラエル 53.88(21位)
16位 香港(中国)  53.88(14位)
15位 フランス 54.18(18位)
14位 日本 54.72(17位)
13位 アイスランド 55.76(13位)
12位 ルクセンブルク 56.40(12位)
11位 韓国 57.70(11位)

10位 アイルランド 58.13(7位)
9位 ドイツ 58.39(10位)
8位 フィンランド 58.49(5位)
7位 シンガポール 58.69(6位)
6位 デンマーク 58.70(8位)
5位 英国 60.89(3位)
4位 米国 61.40(4位)
3位 オランダ 63.36(9位)
2位 スウェーデン 63.82(2位)
1位 スイス 67.69(1位)

上位国も改革の時期?欧米勢の中でも順位入れ替え

人々の生活の改善に役立ち、世界をより良い方向へ変えるための技術革新力をもった国のトップ10は欧米諸国が独占。スイスは2011年以降、首位の座を維持している 。

上位の順位には大きな変動が見られないものの、6ランク上がったオランダを筆頭に、フランスやデンマーク、ドイツといった国が着実に革新力を強化している。

しかし一向にBrexitの先行きが定まらない英国、スイスに座を明けわたす以前は首位だったアイスランドのほか、フィンランド、ニュージーランド、オーストラリアなど、かつては革新力の高さを誇っていた国が順位を下げた。

上位国間でなんらかの革新力の変化が現れていることは間違いなさそうだ。

アジア勢が拡大?シンガポール、中国、インド、韓国、日本

勢力に不安定さが目立ち始めた欧米を追い上げているのはアジア諸国だ。安定した強さを維持するシンガポール以外にも、香港、中国、韓国、日本などがトップ30で健闘。今後さらに勢力を拡大すると予想されている。

特に目につくのは中国、インドだろうか。中国は29位(2015年)、25位(2016年)、22位(2017年)と継続的に安定した革新力をつけており、このまま順調に進めば来年あたりは確実にトップ20に食いこむと期待できる。

インドは76位(2015年)、66位(2016年)、60位(2017年)とさらに伸びが大きい。「強いインド」実現に向け、モディ政権が実施中の大規模な改革は賛否両論を巻き起こしているものの、跳躍を期待できる要素はふんだんにある。機動力となる優秀な人材の宝庫である点も強みだ。

順位の変動とR&Dへの支出は比例する?

各国の革新力には、国を挙げての強力な促進体制が後押しが欠かせないことはいうまでもない。最も分かりやすい一例として、研究・開発(R&D)への投資が挙げられる。

世界を揺るがした前金融危機(2008~2009年)時、各国のR&D支出へのスタンスは大きく分かれた。多くの国が支出を引き締めたのに対し、中国、ロシア、インド、ポーランド、韓国、ノルウェー、メキシコなどは支出を減らすどころか逆に強化した。

これらの国は2ランク後退したロシア(45位)や順位に変動が見られない韓国をのぞき、インドは前年から6ランク(60位)、ノルウェー(19位)とメキシコ(58位)は各3ランク、ポーランド(39位)は1ランク上げている。

具体的な例を見てみよう 。2008年の各国における研究開発国内総支出(GERD)を100%とした場合、中国は126%(2009年)、165%(2010~2012年)、212%(2013年)、231%(2014年)、253%(2015年)と2.5倍の増加が見られる。ポーランドも同様、113%、145%、167%、187%、207%と2倍に増えている。

他国にはそこまでの拡大は見られないものの、韓国は106%、133%、155%、166%、168%、メキシコは105%、113%、117%、127%、134%。ロシアは浮き沈みがあるが、111%、107%、114%、118%、118%となっている。

企業によるR&Dへの支出にも同様の傾向が現れている。ここで最も支出を増やしたのはポーランドで、2008年の100%から翌年には104%、2010~2012年にかけて一気に149%まで増やし、その後236%、281%、312%と、最終的に3倍以上に拡大させた。

中国は126%、169%、222%、244%、265%と2.6倍に、韓国は105%、135%、162%、172%、173%と1.7倍に。ロシアやフランスは1.1倍だ。

ともにインドのデータが不完全な点が残念だが、インドは2012年までの時点ですでにR&D支出を1.2倍にまで増やしていた。その後の経済成長を考慮すると、革新力が後退しているとは考えにくい。総合ランキングでは前年から6ランク上がり、60位(35.47ポイント)だった。

5年でR&D支出を6割にまで減らしたアイスランドと順位の後退

逆にアイスランド、フィンランド、オーストラリア、ルクセンブルグなどランキングの順位が下降傾向にある国は、支出を減らしている。

アイスランドはキューバとルーマニアに次いでGERDを減らした。2009年以降は5年間で68%にまで急激に減らし、その後ルーマニア、スペインと同水準の89%まで引き戻している。支出の減少とともに、首位から13位へと転落した。

それと比べるとフィンランドの減速は穏やかではあるが、2009~2012年にかけて97%まで引き下げ、2015年には77%に縮小させた。フィンランドは企業によるR&D支出の縮小幅が大きく、69%にまで落ちこんでいる。

ルクセンブルクはさらに引き締めており、2010~2012年の期間は51%と半分にまで縮小。2015年に60%まで引き上げたものの、ランキングの順位は低迷している。

一概にはいえないものの、各国のR&Dへの投資動向が、時間の経過とともに革新力に反映し始めたとも考えられる。そうした背景とランキングがまったく無関係とはいい難い。

日本は金融危機直後の水準へ回復?科学・エンジニア系の人材育成が弱い

ここで日本の革新力に焦点を当ててみる。日本の順位は13位(2009~10年)、20位(2011年)、 25位(2012年)、23位(2013年)、21位(2014年)、19位(2015年 )、16位(2016年)、14位(2017年)と過去数年で変動している。

一見したところ、時間をかけて金融危機直後の水準に戻りつつあるとの印象を受けるが、実際はどうなのだろう。

日本はGERDがイスラエルと韓国に次いで世界3位、R&D企業による支出が米国、ドイツ、スイスに次いで4位。

人材の育成という点では常勤の研究員数が9位、QSの大学ランク入りしているトップ3大学の平均スコアは8位、基盤となる読み書き・数学・科学は3位だが、高等教育以上のレベルになると、たちまち37位へと落ちこむ。

政府による教育への支出 は生徒一人当たりに対する支出が29位(2014年データ)。しかし総体的な教育への支出は85位と極端に少ない。スコアは31.31ポイントで、ボツワナ(100ポイント)やデンマーク(88.03ポイント)の約3分の1だ。

科学・エンジニア系の新卒生の割合では59位。香港(5位)や韓国(8位)、インド(10位)に大きく差をつけられている。

またICT(情報処理や通信に関連する技術、産業、設備、サービスなどの総称)へのアクセスや利用などではトップ10に入っているにもかかわらず、政府のオンラインサービスの発展は15位とばらつきが目立つ。

今後革新技術関連の教育も含め政府が人材育成を煽動して強化することで、上位国に負けない競争力が期待できるのではないだろうか。

PCTに基づく「地方の革新力」は東京・横浜が世界一

日本の革新力強化を期待できる要素はほかにもある。PCT(特許協力条約/世界各国における特許権の取得を簡易にするための条約)に基づいた各地方(都市)の革新力では、東京・横浜が1位となっているのだ。

10位 ストックホルム(スウェーデン)
9位 テルアビブ(イスラエル)
8位 ロンドン(英国)
7位 アイントホーフェン(オランダ)
6位 フランクフルト・ミュンヘン(ドイツ)
5位 パリ(フランス)
4位 ソウル(韓国)
3位 サンノゼ・サンフランシスコ(米国)
2位 深セン・香港(中国・香港)
1位 東京・横浜(日本)

GIIは初の試みであるこうした測定法を、「地域的革新力の精密な分析は困難だ」と、まだまだ改善点が必要であることを認識している。各地域のデータにかたよりがある上、革新力自体が国境を越えて国外へ流れる場合が多いためだ。

しかし少なくとも「地域的集合体としての革新力」の目安になることは疑う余地がない。世界中が革新力の維持・発展の重要性をより強く意識し始めた近年、お互いをいい意味で刺激し合う新たな競争が生まれそうだ。(アレン・琴子、英国在住フリーランスライター)

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