米株式市場は、減税への期待から最高値を更新するなど投資人気に熱を帯び始めている。しかし、ウオール街の市場関係者からは「根拠なき熱狂」を警戒する声も少なくない。実際のところ税制改革の行方はまだ流動的で、市場の期待感がやや先走っている嫌いは否めない。首尾よく法案が通過したとしても、それで材料が出尽くす恐れもないとはいえないのだ。来週23日の感謝祭から12月のクリスマスにかけては高値調整リスクに備える必要があるのかも知れない。

「割高でも買い増す」投資家、「根拠なき熱狂」を懸念

14日、BAML(バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチ)が公表した11月のファンドマネージャー調査によると、投資家の48%が「株価は割高」と回答する一方で、ネットで16%が「平均以上にリスクを取っている」とも答えており、いずれの数字も過去最高値を更新した。また、キャッシュ・ポジションは4.4%と10月の4.7%から低下し、2013年10月以来、4年ぶりの低水準となった。

BAMLは今回の調査結果を受けて、株式市場は「根拠なき熱狂」の状態にあり、近い将来にその反動が来ると予想している。

投資家の誰もが株価は高過ぎると思いながらも、現金を減らして株を買い増している背景には「ゴルディロックス(適温経済)」への強い確信がある。これまで投資家の多くが世界経済は「低成長・低インフレ」が続くと予想してきたが、最近では「高成長・低インフレ」が続くとの予想が過半数を超えているとの観測もある。

BAMLと類似の統計であるAAII(米個人投資家協会)のセンチメント調査でも、11月9日現在で株式の強気が45.1%、弱気が23.1%となっている。過去平均は強気が38.5%、弱気が30.5%であることから、強気に傾いている一方で、弱気が後退していることが分かる。

ジャンク債の下落は「株価調整の前兆」なのか?

ところで、ウオール街のファンドマネジャーがいま最も警戒しているのがジャンク債(信用力の低い企業の社債)の下落だ。9日までの1週間でジャンク債からの資金流出が約6億ドルとなり、過去8週間で最大となっている。

株価とジャンク債は歩調を合わせて上昇することが多く、実際に年初からの値動きもほぼ同じ方向で推移してきたが、ここ最近は真逆と言っても良い展開となっている。

先に述べた通り、株価は税制改革への期待から上昇しているが、ジャンク債は逆に「税制改革への不安」から下落しているのだ。一般的には減税により経済活動が活発化することで企業業績も上向くと考えられているが、その反面インフレが加速して金利が上昇する局面では信用リスクの高い企業への投資は「リスクに見合わない」と判断される側面もある。

ちなみに、ジャンク債の代表的なETF(上場投資信託) である「SPDRブルームバーグ・バークレイズ・ハイイールド債ETF」は10月下旬から軟調に転じ、11月13日には約7カ月ぶりの安値に沈んでいる。

ウオール街では、こうしたジャンク債の下落が「株価調整のサインではないのか?」と警戒するファンドマネジャーも少なくない。

利回り曲線のフラット化で景気の先行きを懸念

また、長短金利差が縮小し、利回り曲線がフラット化していることも懸念材料だ。

たとえば、11月13日時点と年初とを比べると、米2年債と米10年債の利回り格差は125bps(1bps=0.01%)から72bpsへ縮小しており、5年債と10年債では52bpsから33bpsへと縮小している。

FRB(米連邦準備制度理事会)は、昨年12月に続き、今年は3月と6月に利上げを実施しており、来月の追加利上げも確実視されている。また、今年9月にはバランスシートの縮小も決定した。

一方で、実際のインフレ率は年初と比べるとやや弱含んでおり、インフレ懸念が後退していることから、短期金利に比べると長期金利の上昇が限定的となり、長短金利差の縮小を招いている。

長短金利差の縮小は金融機関の収益を圧迫し、経済成長を抑制する恐れがあることから、利回り曲線のフラット化は景気の先行きに暗い影を落としているとも考えられる。

賃金の上昇が「企業収益を圧迫する」可能性も?

経済指標に目を向けると、7~9月期の雇用コスト指数は前期比0.7%上昇と前回の0.5%上昇から伸び率を加速させている。前年同期比では2.5%上昇と2015年1~3月期以来、2年半ぶりの高い伸びとなっている。

金融危機以前と比べてしまうと、水準そのものは決して高いとは言えないが、物価の伸びが2%を下回っている状況を踏まえると、相対的な賃金の伸びは低いとも言い切れない。雇用統計などで「賃金の伸びは低調」と指摘されるのは、2%の物価目標を達成するには力強さを欠くという意味だ。

企業収益への影響を見る場合には、全体的な物価の伸びと賃金の伸びを比べる必要がある。賃金の伸びが低調であっても、売上と連動する物価の伸びも低いのであれば、企業収益を圧迫する恐れは十分にある。

物価の基調的な上昇率が1%台半ばとなる中で、賃金の伸びは2%台後半となっている。賃金の伸びが物価の伸びを1%程度上回っており、賃金の伸びがさらに加速するようだと企業業績にも悪影響を及ぼす可能性も否定できない。

こうした中で、10月の米失業率は4.1%と16年10カ月ぶりの低水準となっており、完全雇用に達しているとの見方も大勢を占めていることから、賃金の伸びも加速してくるのではないかと予想されている。

「感謝祭からクリスマスにかけて」が危ない?

誰もが「株価は割高」と思いながらも株式への投資比率を高める……そのような展開は昔から何度も繰り返されてきた。そう考えると「すでにチキンレースは始まっている」(ファンドマネジャー)と言えるのかも知れない。

政治的な日程を確認しておくと、税制改革法案は23日の感謝祭までに下院での通過を目指しており、最初の山場を迎える。12月に入ると、8日には債務上限の適用停止期限を迎える。本格的な議論は年明け以降になる見通しだが、リスク要因としてくすぶる恐れもないとはいえない。さらに12日・13日のFOMC(米連邦公開市場委員会)では追加利上げも見込まれている。マーケットの信任が厚かった「イエレン議長の退任」が決まったことで、FRBは当面レームダックとなる可能性もあり、波乱含みだ。

海外に目を向けると、中国経済が怪しくなっている。10月の党大会を無事に通過したが、党大会後に発表された経済指標が軒並み予想を下回っている。インフレの勢いが加速しており、金利も上昇中だ。想定外の成長鈍化に見舞われる恐れがあり、中国発の世界同時株安も警戒されよう。

「押し目待ちに押し目なし」とは相場の格言であり、トレンドに乗ることも大切ではあるが、税制改革法案が首尾よく通過したとしても、その後に株価を押し上げる要因は見当たらず、材料出尽くしとなる恐れも否めない。その一方で、リスク要因は目白押しとなっており、「感謝祭からクリスマスにかけて」は株価の一時的な調整リスクを警戒する必要もありそうだ。(NY在住ジャーナリスト スーザン・グリーン)

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