国際市場の原油価格は、11月30日にOPEC(石油輸出国機構)総会を控え「減産延長への期待感」から上昇傾向にある。ただし、ウオール街の市場関係者からは「ファンダメンタルズそのものは弱く、地政学的リスクが相場を支えている」との意見も聞かれる。OPEC総会が予想通りの結果となれば、むしろ中長期的には下値を探る展開となる可能性も否定できない。

「きな臭さ」を増す中東情勢、原油価格は2年半ぶりの高値

11月に入り原油価格が急伸しているが、その背景には「きな臭さ」を増す中東情勢がある。

サウジアラビアでは5日、ムハンマド皇太子が率いる汚職対策委員会が王族ら多数を逮捕。当初は政情不安との見方が原油価格を押し上げたが、その後は王位継承に向け「政敵排除による権力基盤の強化」との観測が広がり、政情不安は後退している。ただ、ムハンマド皇太子は世界の原油需給均衡に向けた減産に積極的とされており、減産政策が推進されるとの期待が高まっている。

もっとも、原油価格を上昇させている最大の要因として、筆者は「サウジとイランの対立激化」の影響が大きいと考えている。

逮捕劇が伝えられた前日の4日、レバノンのハリリ首相がサウジで突然の辞意を表明した。同首相がレバノンのシーア派民兵組織ヒズボラの勢力拡大を封じる手段を取らなかったことで、サウジが辞任を迫ったことが原因とされている。

4日夜には、イランとの代理戦争を展開中のイエメンからサウジの首都リヤドに向けて弾道ミサイルが発射された。ミサイルはサウジ軍によって撃退されたが、ミサイルを供給したのはヒズボラであり、ヒズボラを支援しているのがイランとみられている。サウジのムハンマド皇太子は、イランがミサイルを供給したと主張し「戦争行為とみている」と激しく非難した。

9日には、レバノン情勢悪化により、同国に滞在するサウジアラビア人は即時退去するようにサウジ政府が呼び掛けたことで、レバノンとサウジとの間に緊張が高まった。さらに、10日にはサウジからバーレーンへのパイプラインで火災が発生し、イランが関与したテロ活動であると発表されたことでサウジとイランとの対立の激化が心配された。

こうした一連の動きが中東地域からの原油供給に影響することが懸念され、原油価格は2年半ぶりの高値を付けているのだ。

トランプ大統領、イランと核合意を破棄し制裁復活へ?

10月13日、トランプ米大統領はウラン濃縮問題を巡り、2015年7月にイランと米欧など6カ国が結んだ核合意について、イランが遵守しているとは「認めない」と表明。米議会に制裁を再開することの是非について検討するよう要請した。

議会の審議期限は60日となっており、(議会が)問題点を解決できなければ「核合意を破棄する」と警告している。米国がイランへの経済制裁を再開する可能性もあり、その場合にはイランからの原油供給が減少する恐れがある。

ちなみに、トランプ大統領は今年5月にサウジを訪問した際にイランに対抗するグループの先頭に立ちイラク、シリア、レバノンにまたがるシーア派勢力を分断する取り組みを主導するよう促している。6月にはサウジとUAE(アラブ首長国連邦)がカタールに対する禁輸措置を実施。その背景には、カタールを統治するサーニ家がイランとイスラム主義によるテロを支援しているためと見られている。

こうした中、11月17日にはイスラエル軍のトップが国交のないサウジに対し、共通の敵となるイランに対抗するために「イスラエルは経験や情報を共有する用意がある」と述べ、異例の連帯を呼びかけた。中東での対立構造として、イラン対イスラエル、サウジ対イラン、イスラエル対ヒズボラが挙げられるが、ヒズボラを支援するイランに対して、米国を介してイスラエルとサウジが手を組もうとしている。

4日にイエメンからサウジに発射されたミサイルについて、トランプ大統領は「イランの仕業だ」と強調している。米国とサウジ、イスラエルによるイラン包囲網が整いつつあり、今後の展開が注目されよう。

在庫は増えていないが減ってもいない

ファンダメンタルズに目を向けると、IEA(国際エネルギー機関)は14日、2017年・2018年の世界需要見通しを下方修正しており、需給見通しは総じて弱い。

また、2017年1月から始まった協調減産で過剰在庫が減っているイメージがあるかもしれないが、実際のところ在庫は減っていない。増え続けていた在庫が増えていないという意味では「改善」と呼べるが、在庫水準はおおむね横ばいで推移している。

ただし、過去の平均値に対して「過剰在庫」が減少していると報道されている点には注意が必要かも知れない。

原油市場では平年の在庫とは「過去5年の平均値」を意味する。たとえば、2016年に利用されるOECD諸国の石油在庫の過去平均(2011年から2015年)は27億バレルだが2017年に利用される過去平均(2012年から2016年)は28億3000万バレルとなる。

実際の数字で確認すると、2016年12月の在庫は29億8000万バレル、2017年8月の在庫は30億2000万バレル、9月は29億7000万バレルとなっている。統計上、過剰在庫は昨年12月の2億8000万バレルから9月には1億4000万バレルと半減しているが、在庫の水準そのものは昨年末からほとんど変わっていない。変わったのは「過去平均」のほうである。

ところで、IEAは2018年3月で期限を迎える協調減産が延長されなかった場合「2018年は日量130万バレルの供給過剰になる」と予想している。したがって、協調減産の延長が見送られるようだと、世界の原油在庫は再び増加に転じることになる。

ちなみに、今年5月の見通しでは2017年10~12月期は日量167万バレルの需要超過が見込まれていたが、9月には33万バレルにまで縮小している。こうした修正も起こり得ることから、たとえ協調減産が延期されたとしても楽観視は禁物といえる。

米シェールオイルの生産動向は?

需給のポイントを握るのは引き続き米シェールオイルの生産動向となる。11月17日現在の米原油生産高は日量966万バレルと昨年末の877万バレルから89万バレル増加した。先行指標とされるリグ稼動数は11月22日現在で747基と前週から9基増加した。原油価格が50ドル割れとなったことで一時は減少していたものの、11月入って再び増加基調に戻っている。

採算ラインは50ドル程度が見込まれており、原油価格が堅調に推移した場合には米原油生産が加速し、相場を冷ますことになるだろう。

「期待が先走っている」嫌いも

ところで、11月24日現在のNY原油は1バレル=58ドル台後半と60ドルの節目をうかがう展開となっている。30日のOPEC総会での減産延長が確実視される中、中東情勢の緊迫化で売り手が不在となっているようだ。

また、世界的に株価が上昇しており、リスクオンの流れで原油市場へと投機資金が流入しやすい地合いの中、キーストーンパイプラインの原油漏れが資金流入に拍車をかけた可能性もある。

その一方で、2018年12月限を見ると55ドル台前半にとどまっており、期近が期先を上回る「逆ザヤ」となっていることがわかる。短期的な買われ過ぎ観は否めず、生産者からのヘッジ売りも出やすい状況だ。市場参加者の期待がやや先走っている嫌いもあるわけで、OPEC総会が想定の範囲内で閉会するようであれば、むしろ利益確定の売りも出やすい環境にあるようにも見受けられる。

筆者は米シェールオイルの増産に伴い、中長期的には45ドルから50ドルのレンジに戻ると見ているが、サウジでの政情不安やイランとの地政学的リスクが意識されているうちは50ドル台を維持することになりそうだ。

もちろん、中東情勢の緊迫化で実際に供給障害が起きるようだと、短期的に60ドルを突破する可能性は十分にあるので、これまで同様「地政学的リスク」への警戒は必要だろう。(NY在住ジャーナリスト スーザン・グリーン)

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