Google、Appleといった多国籍IT企業の過剰な租税回避に対する、本格的な取り締まり強化が始まった。

多国籍企業による過剰な節税防止策として「Google税」と呼ばれる迂回利益税を導入している英国が、秋期予算案でこれらの企業から年間2億ポンド(約296億円)の徴税を目標とする意向を表明したほか、EU委員会がIT企業の税制を改正する可能性が高まっている。

G20(G7加盟国、EU、ロシアなど)財務大臣・中央銀行総裁会議でも、悪質な租税回避ケースおよび課税逃れ対策に非協力的な国・地域を罰する制裁措置などが議論されている。

Googleの税金は売上の166分の1?「Google税」導入の英国

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(画像=Thinkstock/Getty Images)

英国は2015年4月、「Google税」と呼ばれる迂回利益税を導入した。通常「Google税は多国籍IT企業に適用されるもの」と見なされているが、英国政府の定義では多国籍IT企業にかぎらず、英国内で利益を上げているすべての事業が対象となる。

迂回利益税とは、国内での納税額が不自然に少ないと見なした利益に対し、追加税を課すものだ。例えば英国では最高25%(石油企業の迂回利益には最高55%)の税率となっている。

基本的には事業基盤拠点(国内・国外)、運営内容、利益を上げた商品・サービスの形態など一切無関係という、非常に厳格かつ広範囲な徴税システムだ。

例を挙げると英国を含む他国に拠点を持たない日本の企業が、オンラインを利用して直接英国内に商品やサービスを提供しているとする。ここで英国歳入税関庁(HMRC)が「英国内で得た利益の税金を公平に納めていない」と判断すれば、Google税が適用されることになる。

導入の引き金はGoogleが英国で上げた利益の国外流出だ。ガーディアン紙の報道 によると、2013年、Googleは英国で34億ポンド(約5040億円)の売上を得たにも関わらず、税金を2040万ポンド(約30.2億円)しか納めていなかった。売上の166分の1という計算になる。

Googleは英国で上げた利益のほとんどを、タックスヘイブンであるアイルランドに「合法に」移動させていた。「ダブル・アイリッシュ」と呼ばれる租税回避策で、AppleやFacebook、Microsoftなども同じ手段で相当な額を減税している。

印税収入に所得税を追加、オフショア申告義務化など検討

フィリップ・ハモンド財務大臣は、「多数の多国籍IT企業がタックスヘイブンを利用し、英国で納めるべき税金を納めていない」とし、2017年11月の新予算案でこれらの企業への締め付けをさらに強化する意向を明らかにした。

「国際的義務に従い」、2019年4月以降、英国内で得た利益がタックスヘイブンに流出していると判断した場合、対象企業の英国内の売上に関連する印税収入に所得税を課す構えだ。

また租税回避に利用できる「オフショア構造の設計者」に、英国歳入税関庁(HMRC)への優遇措置の仕組みおよび利用者の届け出を義務付ける提案について、協議が行われる予定だ。

長年にわたり反租税回避キャンペーンを進めてきた労働党のフランク・フィールド議員は、こうした動きを「最も言語道断かつ道徳的に腐敗しきった脱税行為と戦うための第一歩」とし、今後ますます締め付けを強化する方向性を打ちだしている。

「Google税発案国」イタリア、「平等税」を呼びかけるフランス

そもそもGoogle税を発案したのはイタリアである。2013年にGoogle税の案を盛り込んだ2014年度の予算案が、上院・下院で可決された。

Googleが2002〜2015年にわたり、同国での納税義務を怠っていたとし、3.3 億ドルの追加税の支払いを命じた。Googleはこれに応じる意向を示している(ニューヨーク・タイムズ紙より)。

イタリアは2015年、Appleにも3.1億ドルの追加税を命じるなど、大手企業の租税回避行為に取り組んでいる。

フランスも特にGoolgeへの圧力を増している。2014年からは、アイルランドの子会社で計上されていた自国関連の所得に関し、Googleに11.2億ユーロ(約1482億円)の更正課税を求めていた。この一件は2017年7月、同国の裁判所が、「対象となる期間(2005〜2010年)、アイルランドの子会社からフランスが徴税する権利はない」と訴えを退けたことで、ふりだしに戻っている(フィナンシャル・タイムズ紙より )。

しかし今回の敗北に屈することなく、通常の法人税ではなく、全国売上高に基づいた税制「平等税(equalisation tax)」を多国籍IT企業に適用することを検討中 だ。この案はすでにドイツやイタリア、スペインなどG10加盟国に支持されている。

EU委員会はIT企業向けの税制改正検討中

さらには今年9月、EU委員会が「デジタル事業向けの公平で効率的な税制」と称する報告書 を提出し、IT企業から公平な税金を徴収する手段として、税制の改正を検討中であることを明かした。

EU委員会は報告書の中で、2006年には株式時価総額トップ20企業に1社しかランクインしていなかったIT企業が、2017年には9社に増えていること、これらのIT企業の株式時価総額がトップ20企業の54%を占めていることなどを指摘。

2008〜2016年にかけて、EU圏全体の小売産業の成長率がわずか1%程度にとどまったのに対し、eコマース小売業者トップ5の売上は年間平均32%の伸びを見せた。

税率からして大差が開いている。EU圏の一般的な企業の税率は23.1%だが、多国籍IT企業の平均税率はその半分の10.1%だ。しかも多くの多国籍IT企業が、実際はさらに少ない税金しか納めていないという。

英国の経済・ビジネス調査センター(the Centre for Economics and Business Research)の調査 によると、2016年の売買高がほぼ15億ポンド(約2224億円)も増えたAmazonは、どういうわけか法人税の納付額が1580万ポンドから740万ポンド(約23.4億円から10.9億円)と、2分の1以下に減っている。首をかしげるどころのレベルではない。

この数字に基づいて算出すると、英国の一般的な書店が売上100ポンド(約1.4万円)につき91ペンス(約134.8円)の税金を納めているにも関わらず、Amazonはたったの8ペンス(約11.8円)しか納めていないことになる。

こうした例は氷山のほんの一角だ。AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)が今後さらにIT企業の成長に拍車をかけると予想されている近年、EU委員会は本格的な租税回避対策を打つべき時期に突入しているとの意気込を見せている。

同じEU圏でも対照的なタックスヘイブン、アイルランド

同じEU圏でも、タックスヘイブンとして知られるアイルランドでは、英国やイタリアのように積極的な動きは見られない。アイルランドは2016年、Appleに最大150億ドルの追徴課税を請求するようEU委員会から命じられているが、常に難色を示してきた。

2017年11月に入り、レオ・バラッカー首相がAppleに追徴課税の支払いを正式に求めるなど、ようやく処分に進展が見られるものの、あくまでEU委員会の圧力に耐えかねた結果である点を主張している(ロイターより )。

米国、英国が法人税引き下げ合戦の火付け役に?

G20(G7加盟国、EU、ロシアなど)財務大臣・中央銀行総裁会議でも、悪質な租税回避ケースおよび課税逃れ対策に非協力的な国・地域を罰する制裁措置などが議論されている。 しかし現状として、G20が一丸となって悪質な租税回避に立ち向かうという勢いはあまり感じられない。各国がそれぞれの思惑で動いており、足並みが今ひとつそろわないという印象だ。

特に米国では昨年以降、法人税をめぐる環境が不安定な方向へと転じる兆しが見られる。「各国間で法人税引き下げ競争や、税収の奪還合戦が勃発するのではないか」との懸念も聞かれる。

米国はトランプ政権誕生後、自国の企業が国外に保有する留保利益を奪還する意図で、法人税を大幅に引き下げるほか、「国境税」を導入して米国企業による輸出品を非課税扱いにし、代わりに国外企業の輸入品への関税率を引き上げるという方針を打ちだしている。

日本は「タックスヘイブン対策税制」の見直しを実施

アジア圏はどうだろう。日本では「タックスヘイブン対策税制(外国子会社合算税制)」が、1978年度の改正租税特別措置法で規定されている。定期的に改正しており、今年に入ってからも大幅な見直しが実施された。

対象となるのは、直接あるいは間接的に保有する株式・出資の割合が合計50%を超える国外法人(子会社など)で、現地での税負担が極端に軽いもの(20%未満)に対し、一定の適用除外の場合をのぞいて、合算課税するというものだ。(経済産業省投資促進課平成29年資料より )。

中国は2015年、租税回避課税を強化しているが、矛先は国内の企業や資産家に向けられているようだ。自国経済発展の軸となっていた不動産税収が、急速に鈍化したことが引き金となり、それまで黙視されていた国外所得が強化の対象となった感が強い。

法人税引き下げで国外への利益流出防止?

法人税引き下げに関しては賛否両論が聞かれるが、否定派が主張するように本当に経済成長にとってマイナス影響なのだろうか。

米国の平均法人税率は28.29%と、国際平均(24.25%)や欧州(21.51%)、アジア(21.28%)などよりはるかに高い(KPMG、2017年データ )。日本は30.86%とさらに高く、中国(25.00%)、インド(30.00%)、フランス(33.33%)、マレーシア(24.00%)など。

国際連合大学の調査からは、法人税が高めに設定されている国で、企業の租税回避額が大きくなる傾向が高いことも明らかになっている。

そこで米国のような高税国で法人税を引き下げれば、「企業への負担を軽くすると同時に、タックスヘイブンなどへの利益流出の防止を期待できる」との目論みだ。英国でも2020年、法人税が現在の19%から17%へと引き下げられる 。しかし果たしてそう計算通りに物事が進むのだろうか。

米国の企業が租税回避戦略に長けている理由として、国外子会社からの利益を本国還流時に課税する「全世界所得課税」が頻繁に挙げられる。

多くのOECD加盟国が、国外の利益を免除する「テリトリアル税制」に切り替えているにも関わらず、米国では高税率の全世界所得課税を実施している。米国企業が国外で利益を保留したくなっても不思議ではないという理論だ。

しかしこうした行為を黙認していては、問題の根本的な解決にはつながらない。「自国が高税率国だから、国外の税優遇措置を過剰なまでに利用する」という利益最優先的な価値観を改革しないかぎり、例え法人税を大幅に引き下げても大した改善は期待できないのではないだろうか。

法人税引き下げとともに、VAT(付加価値税)を引き上げることで バランスをとっている英国やドイツを例に挙げ、米国でも法人税引き下げの代替案としてVATの導入を提案する声も聞かれる。(アレン・琴子、英国在住フリーランスライター)

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