森六ホールディングス <4249> が2017年12月20日に東証一部に上場する。

1663(寛文3)年創業というから、350年以上の歴史を持つ超老舗企業である。これほどの老舗企業の新規上場は珍しいが、老舗だからといって成熟産業にしがみつく老成した企業とは限らない。

森六ホールディングスのメインの事業はケミカル事業と樹脂加工製品事業である。

森六ホールディングスの財務諸表を斬る

森六ホールディングス
(画像=Webサイトより)

企業の財務諸表は、人間で言うならば精密検査のデータに近いが、それにとどまらず、その人物の気質・能力までトータルで示してくれる人物図鑑のようなものである。

この重要なデータベースである財務諸表は、森六ホールディングスのHPの電子公告や東京証券取引所のHPにて確認できる。

連結損益計算書を見てみよう。売上高が真っ先に目に入るが、売上高は人間でいえば「体の大きさ」のようなものであって、これだけではその企業の成長性は見極められない。

連結経常利益がプラスで推移しているので、事業が継続的に利益を生み出していることはわかるが、効率的に利益を生み出しているかというところまではわからない。

成長性を見極めるために注目すべきは「ROE(株主資本利益率)」「売上総利益」「販売費及び一般管理費」「純利益」などだ。

最初にあげた「ROE」は「純利益」を「純資産」で割り、100を掛けたもの(%)である。この数値が高いほど、企業が自己資本を元手に高い効率で利益を生み出していることになる。

森六ホールディングス 2016年4月1日~2017年3月31日(第102期)の連結ROEは1.9%、第101期が6.4%、第100期が7.8%、第99期が8%であった。第102期を除いて概ね7%前後で推移している。

一般的な目安としては15%以上で優良企業だと判断される場合が多いが、業種によってその目安が若干異なることがあるので注意が必要となる。

化学工業全体のROE平均が5%程度であるから、同業種の中では優良企業といってよいであろう。

2番目にあげた「売上総利益」とは「売上高」から「売上原価」を差し引いたものである。 この「売上総利益」を「売上高」で割り、100を掛けた数字(%)を「粗利益率」と呼ぶのであるが、成長が停滞している企業はこの「粗利益率」が極めて小さい傾向にある。

森六ホールディングス の2016年4月1日~2017年3月31日の連結粗利益率は12.2%、その前年は12.1%、前々年は12.3%であった。極端に小さいわけではない。

3番目にあげた「販売費及び一般管理費」とは販売経費と管理経費を合計したもので、宣伝費、従業員の給与、出張費などが含まれる。「販売費及び一般管理費」を「売上総利益」で割り、100を掛けた数字(%)が100%近い場合はその競争優位性に疑問符が付く。

森六ホールディングスの数値を確認してみると、第102期が69.6%、第101期が69.7%、第100期が69.7%となっている。

この指標において重要なのは数値の大小とともにその一貫性である。70%を切る数値は100%を大幅に下回るよい数値であるし、一貫性においても驚異的な安定性を誇っている。「純利益」が基本的には右肩上がりに増えているのも好ましい傾向である。

ここまでの分析で、すでに「安定成長をコンパクトな経営で着実に続ける堅実な企業」という姿が浮かび上がってくる。

さて続いて貸借対照表を分析する。まずは、資産と負債の比率を確認すると、2017年3月31日現在の資産合計が1180億4100万円に対して、負債合計が645億1700万円となっている。負債合計が資産合計の半分程度であるから、財務状況は基本的には良好と言ってよい。

貸借対照表の分析によって、先ほど述べた「安定成長をコンパクトな経営で着実に続ける堅実な企業」という姿がさらに裏付けられた形となった。

森六ホールディングスの事業戦略はどうか?

事業の柱はケミカル事業と自動車向けの樹脂加工製品事業であるが、それぞれの事業戦略について財務諸表に記述されていることを元に分析する。

ケミカル事業については単なる化学素材や化学製品専門の商社から脱却し、高付加価値製品を提供することが掲げられている。

具体的には、最大4室の構造になっており、それぞれに薬液を閉じ込めて使用直前に強く押すと薬剤が混合できる機能性点滴バッグなどの開発が挙げられる。

次に樹脂加工製品事業についてはホンダ <7267> 向けの自動車部品が大半を占めるというのが現状である。

経営リスクをヘッジするためにもホンダ依存からの脱却は必要と思われるが、その動きが財務諸表の記述から読み取れる。

その動きとは、電気自動車をはじめとする次世代自動車の台頭により、自動車メーカー各社は車体の軽量化にしのぎを削っているが、その技術力でその実現に貢献していくというものである。

この情報から次世代自動車向けの部品を、ホンダにこだわらず提供するという姿勢が読み取れる。

将来の成長分野はあるか?

将来的にこの分野は成長していくのではないかと思われる点について述べたい。

森六ホールディングの公式Webサイトの製品情報を細かく見ていくと、フード&ヘルスケア製品の中にレスベラトロール、βグルカンの名前があることは注目に値する。

レスベラトロールは赤ワインなどに含まれ、美肌・老化防止・メタボ予防に効果を発揮する成分である。

一方、βグルカンはキノコ類に含まれ、免疫機能の向上や強い抗腫瘍効果が確認されている。

最近はTVでアンチエイジングや健康増進法に関する番組が流行のようになっており、番組内で紹介された健康食品が、次の日には売り切れになるなど日常茶飯事である。

その中でレスベラトロールを含有したサプリメントはまだあまり存在していないこともあり、ブームとなれば大きなマーケットとなる可能性を秘めている。

また、日本においてガンにかかる人の数は年々増加しており、3人に1人がガンを発症するとも言われている。

βグルカンを含有したサプリメントはかなりの種類が販売されているので、マーケット自体は飽和状態に近づきつつあると思われる。

しかし、例えば吸収率が極めて高いβグルカンを低価格で提供できれば、販路を拡大できる可能性がある。

環境・エネルギー分野では生分解性樹脂に注目したい。生分解樹脂とは地中に埋めるとバクテリアなどによって分解される樹脂で、これを用いたプラスチック製品はゴミとして地中に埋めても分解される。

ゴミ問題は特に大都市圏では深刻な問題となっており、さまざまな対策が取られてはいるものの、プラスチック製品に関してはペットボトルなど一部の製品がリサイクルされるにとどまっている。

そんな中、2010年代の終わりにはプラスチック製品の売り上げの約10%が生分解プラスチックになるとの声も聞かれる。

マーケットとしてのポテンシャルはかなりのものであると言える。

以上のことをから判断すると、森六ホールディングは安定した経営の元に、新たな戦略を生み出していける、いわば「古くて新しい企業」だと言える。

競合企業と業界動向はどうか?

競合企業としてよくあげられるのが日産化学工業 <4021> とトクヤマ <4043> である。

事業内容を比較してみると、どちらもファインケミカル事業と医薬・農薬事業をはじめ、共通の分野が結構あるのが分かる。

しかしながら、日産化学工業のコア技術は「精密有機合成」「高分子設計」「微粒子制御」「生物評価」であり、半導体基板原料製造を除けば、森六ホールディングの技術領域とほとんど被っていない。

さらに森六ホールディングが化学素材や化学製品そのものの販売から、付加価値のある製品の販売へと舵を切りつつあるが、日産化学工業は技術そのものを利益につなげる高技術製品にこだわっている。

ディーゼル車の排ガス規制対応の浄化システムに用いる高品位尿素水の製造などが、その一例と言える。

一方、トクヤマは創業時に主要事業であったソーダ工業を母体とする「化成品部門」「セメント部門」の売り上げが現在においても大きな割合を占めており、「特殊品部門」「ライフアメニティー部門」がそれに続く。

いずれの分野にしても、半導体基板原料製造以外は森六ホールディングスの技術領域とほとんど被っていない。これは化学工業の業界構造によるものであると思われる。

どういうことかというと、第一に化学といってもその分野は多岐にわたり、創業時のメイン事業によってはその分野が被ることが意外に少ないことが挙げられる。

第二に成熟産業から脱却する企業が増えているということが挙げられる。

特に尿素やナフサなどの汎用化学品は合成樹脂・肥料などの原材料になることから、かつては競合他社が生まれやすい環境にあった。

しかしながら、現在では成熟産業となったため、エレクトロニクスやライフサイエンスなど利益率の高い高機能製品の開発に事業を転換する企業が増えている。

その際、できるだけ競合の少ない独自技術が活用できる新規分野への進出を考えるのは当然の動きとも言える。

以上から、3社の実質的な競合分野は半導体基板原料製造を除いて、ほとんどないことが分かる。よって競合状況よりは、むしろ事業戦略の転換の進捗と新規事業の状況をチェックしたほうが投資機会を探しやすいと思われる。

年末年始の株式市場・為替市場・商品市場(主に原油)はどうか?

2017年12月18日時点の日経平均株価終値は22,901.77円である。

この日は350円近く伸びたものの、前週はアメリカFRBの利上げ観測や、トランプ米大統領によるエルサレムのイスラエル首都認定などでリスク回避の動きが強まり、4日続落して終わっている。それに伴うドル安によって、相対的に若干円高に振れている。

輸出関連企業であるホンダと取引の多い森六ホールディングスにとっては、あまりよい状況とは言えない。

もっとも、アノマリー的には12月は日経平均が一時的に下落しやすい傾向にあり(税金対策の影響とも言われる)年末年始にかけて上昇しやすい環境にある。

足元の企業業績も良好なことから、ファンダメンタル的にはあまり問題ないというのも追い風である。日経平均の上昇に伴い円高も解消されていく公算が大きい。

ただし、FRBの金利政策には引き続き注意が必要である。化学工業にとって原油価格は重要である。特に石油化学分野はナフサを主原料とする製品が多く、ナフサ価格の下落による商品単価の減少はダイレクトに業績に影響する。

そして、ナフサと原油の価格は極めて高い相関性を持っている。現在の原油価格はガソリン在庫増加の影響もあって下落傾向にあり、それに伴いナフサ価格も低迷している。

ただし、下げ過ぎではないかとの声も聞かれるので今後反転する可能性も高いと思われる。

以上のことを総合すると、日経平均安、原油安、円高と3つの悪条件がそろっているということになる。

しかしながら、いずれも遠からず反転する可能性を秘めていることから、年末に逆張りで買いを入れるという戦略が立てられるかもしれない。(ZUU online編集部)