中国のHNWI(150万~3100万ドル資産を家族で保有する富裕層)の9割が、「老後の国外移住」を検討していることが、富裕層に関する研究所Hurun(胡潤)の調査から明らかになった。国際的租税回避・脱税行為対策「CRS」の導入が、富裕層を国外へ流出させる最大の要因となっている。

これらの富裕層に最も人気のある移住先として、米国が4年連続で1位を維持。英国とアイルランドがそれぞれ順位を1つ、4つ上げて2位と3位になった。

中国人富裕層に人気の移住先とスコア

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(画像=GaudiLab/Shutterstock.com)

10位 キプロス共和国 6.3ポイント
9位 マルタ共和国 6.4ポイント
8位 スペイン 6.5ポイント
7位 ポルトガル 6.7ポイント
6位 ギリシャ 7.0ポイント
5位 オーストラリア 7.5ポイント
4位 カナダ 7.8ポイント
3位 アイルランド 7.9ポイント
2位 英国 8.5ポイント
1位 米国 8.7ポイント

トランプ政権の減税政策、ポンド安も歓迎

ランキングはHurunが2018年3~6月、Visas Consulting Groupと共同で実施した調査で、平均資産450万ドル以上を所有する、既に国外に移住した・あるいは移住を検討している中国人HNWI224人から回答を集計したもの。

8つのカテゴリー(教育・投資・移民政策・不動産購入・個人課税・医療・渡航ビザの必要性・暮らしやすさ)に基づき、中国人富裕層に人気の国・地域を順位付けした。

2017年のランキングから首位を維持した米国を筆頭に、英国とアイルランドが各0.1、1.6ポイントのスコアを上げ、トップ3以内にランクインした。

米国が 中国の富裕層を魅了する最大の理由は、2017年版と同じく「教育」。「渡航ビザ」「暮らしやすさ」の他、トランプ政権による「減税政策」もプラス効果だ。

Brexitが目前に迫っているにも関わらず1つ順位を上げた英国は、今後もロンドンが世界の金融中心地の地位を維持するという期待に加え、「英国式エリート教育」を子どもに施したいと願う親が多いため人気だ。また質の高い医療・福祉システムも理由として挙げられている。

EU離脱を問う国民投票以降、低迷から抜けだせないポンド安の影響で、国外から投資しやすい環境であることも、中国人HNWIの関心を高めている。

最も大幅にスコアと順位を上げたアイルランドは、広大な自然、確立された社会福祉システム、税負担率の低さで、「移民産業のダークホース」となる可能性を秘めている。コンピューター科学など、最先端のテクノロジー分野で世界をリードする存在でもあることから、今後さらなる成長を遂げると期待されている。

日本はアジア圏で最も人気の高い不動産投資先

HNWIが国外への移住を検討する際キーポイントとなる不動産投資。人気の都市・国都市トップ5を、ロサンゼルス、ニューヨーク、ボストン、サンフランシスコ、シアトルと米国の都市が占めている。他にはバンクーバー、トロントとカナダから2都市が、ロンドンが英国から、メルボルンがオーストラリアからトップ10入りした。

日本は12位で、アジアとしては最も人気が高い。しかし「日本で不動産を購入したい」と答えた回答者の割合は2017年版から1.1ポイント減った。14位のシンガポール、17位の香港への不動産投資を望む回答者も各1.0、0.8ポイント減っており、中国人HNWI間でアジア圏における国外不動産投資への関心が弱まっているものと推測される。

対照的にロサンゼルス、ニューヨークは各2.5ポイント、ボストンは3ポイント、ロンドンは6.5ポイントも増えた。

HNWIにとって、国外での不動産購入の決め手となるのは「コスト対効果」だ。ポンドが下がったロンドンへの関心が高まっているのも不思議ではない。「投資価値」「財産権」「ロケーション」「移民としてのアイデンティティの獲得しやすさ」なども考慮されている。

中国人HNWIの9割が「余生を国外で過ごしたい新たな理由」

今回の調査で注目すべきは、90%以上の回答者が、定年退職後 の余生を国外で過ごすことを検討している点だ。

教育や社会福祉システム、交通の便の良さといった従来の「移住したい理由」に加え、最新の調査では「中国版CRSの導入」が最大の理由となっている。「CRS(Common Reporting Standard)」は国際的な租税回避・脱税行為の防止策として、2014年、OECDで策定された共通報告基準だ。

参加国・地域の金融機関が非移住者の金融口座情報を税務当局に報告し、税務当局間で共有するという試みである。2018年7月13日のプライスウォーターハウスクーパースの情報 によると、現時点で中国を含む42カ国が参加している。

恐らく他国の富裕層にも該当するだろうが、中国人の富裕層にとって、租税回避・脱税行為に対する取り締まり強化は老後の平和な生活を脅かす存在であり、「母国を離れてでも資産を守りたい」という気持ちが強まっているのだろう。

同社の別の調査報告書「Chinese Luxury Consumer Survey 2018」によると、既に12%の中国人HNWIが国外に移住、あるいは手続き中で、37%が老後まで待たず、今すぐに移住することを検討している。今すぐの移住を検討している割合は、2017年より10ポイント減っている。(アレン・琴子、英国在住フリーランスライター)