高齢ドライバーの操作ミスが原因と思われる交通事故への注目が高まり、対策として、運転免許の自主返納が進められている。

本稿では、自主返納の地域差、およびその他の課題を紹介する。

高齢ドライバーによる事故の特徴とその対策の現状

運転免許返納,高齢ドライバー
(画像=PIXTA)

警察庁交通局の「平成30年における交通死亡事故の特徴等について」によると、免許保有人口あたりの死亡事故発生数は、時系列で見るとすべての年代のドライバーで減少している[図表1]。

運転免許返納,高齢ドライバー
(画像=ニッセイ基礎研究所)

しかし、ドライバーの年代別に見ると、85歳以上でもっとも多い。

75歳未満ドライバーによる死亡事故は「安全不確認」が多いのに対し、75歳以上ではハンドル操作やブレーキの踏み間違い等の「操作不適」が多い。また、死亡事故をおこした75歳以上は、認知機能の低下が指摘されるケースが75歳以上全体と比べて多く(1)、加齢による身体や認知機能、判断スピードの衰えによる事故の発生が指摘されている。

対策として、免許の自主返納(申請による免許取消)が進められているほか、71歳以上は免許の有効期限が短縮され、免許更新時には、70歳以上は高齢者講習の受講が、75歳以上は認知機能検査の受検が、義務づけられている。認知機能検査の結果、必要があれば専門医を受診し、免許の停止・取消となることもある。

返納率は上昇。課題は見極めるタイミングと代替する移動手段

2018年に運転免許を自主返納したのは42.1万人と、増加している[図表2]。

運転免許返納,高齢ドライバー
(画像=ニッセイ基礎研究所)

しかし、課題も多い。まず、特に75歳以上で返納は増加しているが、それでも免許保有者の5%程度に留まる。年齢が高いほど、自分の運転技術に自信をもっている傾向がある(2)ことや、自由な移動は、高齢者の自立した生活に欠かせないこと等から、子どもでも親に自主返納を説得するのは難しいと言われる。

次に、都道府県別の75歳以上の返納率は、最高が東京都の8.0%、最低が茨城県の3.7%と2.16倍の差があった。人口あたりの自動車保有率とは、△0.67と比較的強い逆相関がみられる[図表3]。

運転免許返納,高齢ドライバー
(画像=ニッセイ基礎研究所)

つまり、生活をする上で免許を返納できない地域があると考えられる。

さらに、運転を止めることで、歩行や自転車など、高齢者にとってより危険な手段で移動せざるを得なくなることも課題とされる(3)。

全国の自治体で、自主返納時に希望者に発行される運転経歴証明書で、公共交通の運賃を割引く等、運転に替わる移動手段を提供しているが、すべての課題が解決できるわけではない。

諸外国でも試行錯誤が続く

諸外国でも高齢者が安全に運転するための環境整備や身体・認知機能の検査が行われている(4)。日本にはない制度として、日常での身体・認知機能に関する情報を、かかりつけ医や家族からも得たり、健康状態によっては、運転可能な地域や時間帯を限定する国や地域もある。

一方で、各国で行われている高齢ドライバー対策のすべてに事故を減らす効果があるわけではないといった報告がある等、試行錯誤が続いているようだ。

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(1)警察庁「平成29年における交通死亡事故の特徴等について」
(2)所正文「超高齢社会と自動車交通」国民生活センター『国民生活』2016年
(3)岡村和子「各国における運転適性と安全に運転できる能力の評価方法」国際交通安全学会、2017年
(4)警察庁「外国の高齢者に対する運転免許制度の概要」第5回高齢運転者交通事故防止対策に関する有識者会議、2017年

村松容子(むらまつ ようこ)
ニッセイ基礎研究所 保険研究部 准主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

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