「勉強は最初が肝心」というのは理由があった
ちなみにこのSカーブは、個人にも当てはまります。たとえば、ある能力を高めようとすると、まさにこのSカーブを描きながら習熟度が高まっていくものです。
どんなものを学ぶ際にも、最初はなかなか効果が上がらず、苦痛なことが多いでしょう。それでも、我慢してトレーニングを繰り返していると、ある瞬間からSカーブの急上昇局面に入っていきます。すると、学んだことが全身に吸収されるような感覚となり、学習効果が一気に高まります。学んでいて非常に楽しい時期です。
ただ、その後は再び習熟曲線がなだらかになり、かけた時間と効果が釣り合わずにイライラする時期が訪れます。しっかり時間をかけたのに結果が出ない……。これもまた、多くの人が体験したことがあるのではないでしょうか。
学習効果がSカーブを描くということを知っていれば、なかなか上達しないからとすぐにやめてしまったり、伸び悩みを迎えて余計なフラストレーションを溜めたりすることはなくなるはずです。
「同じことを何度も語る」は、実は正解
ちなみにSカーブは「人に伝える」際にも応用できる考え方です。
会議や朝会などで、いつも同じことばかり言っている経営者やマネージャーをしばしば見かけます。「またこの話か」「新しいことが言えないのか」と批判的に捉える人もいるかもしれませんが、このSカーブの観点からは、同じことを何度も言い続けることは、実は正解なのです。
たとえば「顧客第一主義」などと社長が大声で言ったところで、それが一瞬で全社員に伝わることなど、まずありません。同じことを何度も言い続けて、ようやく少しずつ浸透していく。そして、あるとき一気に社員の意識が切り替わるタイミングが訪れるのです。
自覚があるかどうかはともかく、「同じことを言い続ける人」は、Sカーブの理論をうまく活用していると言えるのです。
裏を返せば、あなたが何か伝えたいことがあるならば、それを「言い続ける」のが大事だということがわかります。
これは営業などでも同じこと。大事なことは何度も言い続けないと、伝わらないと考えたほうがいいでしょう。
テレビ通販などでよく、商品名をこれでもかと連呼したり、同じ情報を何度も何度も流したりするのを見かけると思います。「うっとうしいなぁ」と思うかもしれませんが、これもまた、Sカーブの視点からは意味があることなのです。
(斎藤広達著『数字で話せ』より一部編集・抜粋
著者紹介:斎藤広達(さいとう・こうたつ)
シカゴ大学経営大学院卒業。ボストンコンサルティンググループ、ローランドベルガー、シティバンク、メディア系ベンチャー企業経営者などを経て、経営コンサルタントとして独立。その後、上場企業の執行役員に就任し、EC促進やAI導入でデジタル化を推進した。現在は、AI開発、デジタルマーケティング、モバイル活用など、デジタルトランスフォーメーションに関わるコンサルティングに従事している。
数字で話せ
斎藤広達(シカゴ・コンサルティング代表取締役) 発売日: 2019年04月11日
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