総選挙の結果
オーストラリアでは、5月18日に連邦議会総選挙が実施され、上院の約半数(定数76のうち、40議席)と下院の全議席(定数151(1))が改選された。5月21日(日本時間9時)時点で判明している結果では、事前の予想を覆し、保守連合(自由党・国民党)が下院で過半数を確保し、2013年から続く政権を維持する見通しとなった(2)(図表1)。一方で、上院では保守連合は過半数獲得には至らなかった(図表2)。
選挙前の二党間の支持率の推移を見ると(3)、前回の総選挙(2016年7月2日)終了後間もない2016年9月以降、一貫して野党の労働党が与党の保守連合を上回ってきた(図表3)。保守連合は、2013年に政権を獲得して以降、堅調な経済や財政収支の改善を実現したものの、党首(首相)が2度も交代するなど党内の対立が国民の不信感を招いた。終始劣勢であった保守連合は、選挙直前に盛り返し、その差は縮まったものの、市場では依然として労働党が優勢と予想されていた。
下院の獲得議席数を州別に見ると、ビクトリア州など労働党の獲得議席数が保守連合を上回った州の方が多かったものの、クイーンズランド州で保守連合に大きく差をつけられ、これが全体の結果へ響いた(図表4)。同州を拠点とする統一オーストラリア党やワンネーション党が前回の総選挙から大きく得票数を伸ばす中で、2党が保守連合を支持したことが影響したと推測される。
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(1)有権者数の格差を是正するため、下院の定数は定期的に見直されている。今回の定数は人口の増加に伴い、2016年の選挙時から1議席増加した(150→151)
(2)オーストラリアの連邦議会は、英国と同様に議院内閣制を採用しており、憲法上の慣習に基づき、下院で過半数を獲得した政党(連合)の党首が首相となる。
(3)下院の選挙方式は、選挙区の候補者すべてに優先順位をつけ、第1順位票で過半数を獲得する候補者が選出される。過半数獲得者が現れるまでは、第1順位票の得票が最小の候補者の得票を、投票者の指定した優先順位に従って、残りの候補者に配分することを続ける方式であるため、全政党間支持率よりも上位二党間の支持率が重視される。
今後の展望
モリソン政権の存続は、減速するオーストラリア経済にとっては、プラスに作用するだろう。両党が公約として掲げていた政策を比較すると、労働党は税制改正では低所得者層への減税を重視する一方で、富裕層向けの増税を盛り込んだ他、環境問題の対策としてより急進的な目標を掲げたため、経済への影響が懸念されていた(4)(図表5)。一方で、保守連合は、4月上旬に発表した2019/20年度(2019年7月1日~2020年6月30日)予算案において、2018/19年度予算案で既に示していた低・中所得者層への減税やインフラ投資の規模を拡大するなど(5)、2019/20年度における財政収支の黒字転換見込みを背景に、より拡張的な財政政策を志向し、減速する景気を下支えすると期待される。
また、選挙の大勢が判明した20日には、代表的な株価指数であるS&P/ASX200指数が年初最高値を更新し、米中貿易摩擦の影響で軟調だった豪ドルが持ち直すなど、予想に反して保守連合が勝利したことが市場で好感されたと見られる。ただし、対外政策では中国寄りとされた労働党に対して、保守連合は米国寄りとされる。これまで保守連合は、中国の影響力拡大の抑止を念頭に、外国人の政治献金の禁止や諜報活動への監視強化、さらに華為技術(ファーウェイ)に対して、5G通信網への参入を禁止したことで、中国との関係が悪化している。中国は最大の輸出先かつ投資元であるため、関係悪化による経済への悪影響の懸念は引き続き残るだろう。
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(4)特に、ネガティブギアリングの適用厳格化は落ち込む不動産市場をさらに悪化させる懸念がある。
(5)2018/19年度予算案比で、低・中所得者層向けの所得税額控除は2倍以上、インフラ投資は1.3倍にまで拡大した。
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神戸雄堂(かんべ ゆうどう)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 研究員
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