要旨

米中摩擦,日本株
(画像=PIXTA)

10連休明けの日経平均株価は7営業日連続で下落した。2016年4月以来、約3年ぶりだ。令和の株式市場はほろ苦い幕開けとなったが、この先はどうなるのだろうか。株価の基礎となる企業業績から先行きを見通す。

「見た目」は悪くない20年3月期予想

はじめに、主要企業の経常利益(合計額)は、年度初めの予想に比べて期末の実績値が上振れする傾向がある(図表1)。2014年3月期以降で「下振れ」に終わったのは、チャイナショックが起きた16年3月期、米中貿易摩擦が激化した19年3月期だけだ。よく「日本企業の業績予想は慎重」と言われるが、その様子がデータでも確認できる。

先週ほぼ出揃った20年3月期は1.6%の増益予想で、悪くないように見える。前述の経験則に従えば増益幅の拡大も期待できよう。実際、市場では「業績悪化の最悪期は脱した」という見方もある。それにもかかわらず、日経平均は上昇基調を取り戻すどころか、再び2万1000円の節目を割る可能性すら危ぶまれる。

米中摩擦,日本株
(画像=ニッセイ基礎研究所)

主な要因は米中貿易摩擦の再燃だ。米中関係がこれ以上悪化すれば影響は中国にとどまらず、世界的な景気減速や株価下落に繋がると懸念する投資家は少なくない。

見通しが厳しい業種が株価の重荷に

実は、その様子が業績予想に表れている。全体では1.6%の増益予想でも、業種別にみると良いところと悪いところがハッキリ分かれているのだ。

業績見通しが良い業種は、電力・ガス、建設・資材、小売など主に国内で稼ぐ「内需セクター」が多く、軒並み大幅増益の予想となっている。

一方、株価への影響が大きい「外需セクター」については厳しい内容が多い。自動車・輸送機こそトヨタ自動車など一部企業が業種全体の数字を良く見せているものの、厳しい予想の企業も多い。

機械、電機・精密も米中貿易摩擦や欧州の景気減速などの影響を受け、市場の事前予想より悪い内容を発表した企業が目立つ。先行き不透明感が強いため例年以上に慎重な見通しを出した企業が多い可能性もあるが、「思った以上に悪い」というのが市場の受け止め方だろう。

米中摩擦,日本株
(画像=ニッセイ基礎研究所)

円高リスクも株価の重荷に

さらに、米国の金融政策の動向も日本株のリスク要因となりうる。トランプ氏に加えてペンス副大統領まで利下げに踏み込んだ発言をし始めたことを考えると、FRB(米国の中央銀行)に対する政治的な圧力が強まる可能性はある。

ましてや、米中関係の混乱が米国の景気を冷やしたり米国株を急落させることになれば、米政権は公然とFRB批判と利下げ要求を繰り返すことになろう。

FRBのパウエル議長は昨年12月まで利上げ見通しを示していたにもかかわらず、株価急落を受けて1月には方針を急転換した“前科”があるだけに、市場では「FRBが利下げに舵を切る→日米金利差縮小→円高」という思惑が働きやすい状況だ。実際、米国の短期金融市場が織り込む「年内の利下げ確率」は、5月以降急上昇している(図表3)。

仮にFRBが利下げ方針に転換しても日銀は打つ手が限られるため、円高に拍車を掛けかねないことも株価の懸念材料となる。ただでさえ外需企業の20年3月期業績は厳しい見通しであるうえ、想定為替レートの1ドル=108円87銭(3月日銀短観ベース)と実勢レートの差は1円強しかない(執筆時点=110.19円)。

米中摩擦,日本株
(画像=ニッセイ基礎研究所)

秋までは一進一退か

仮に現時点の業績見通しが例年以上に慎重だとしても、慎重過ぎるのかどうかを確認できるのは、早くても半年後に中間決算を発表する時まで待たされる可能性が高い。

言うまでもなく、カギは米中関係が進展するかどうかだが、中国の国営メディアが「中国は米国との貿易交渉に関心がない」と報じたり、米国などから“締め出し”を受けている中国企業(ファーウェイ)のCEO(最高経営責任者)がケンカ腰のコメントをするなど、ここ数日、中国側から強気な発言が相次いでいることを踏まえると、短期決着の期待は薄い。

さらに日本とアメリカの貿易交渉がこれから本格化する。2020年に大統領選を控えて成果を急ぎたい米トランプ政権が日本に矛先を向けないとも限らない。現時点では日本企業が中間決算で業績見通しを引き上げる余地は小さいと見ておくのが賢明だろう。

こうした状況では、20年3月期も「過去と同じように業績が上振れする」とタカをくくることはできない。中長期の投資家は様子見姿勢を強め、株式市場では短期志向の投資家が取引の中心にならざるを得ないだろう。

ただ、米中がいつまでも妥協点を見出せなければ、双方とも国内の景気悪化や支持率低下を招きかねない。今年の秋、米国は大統領選が1年後に迫り攻防が本格化するのと同時に、10月1日には中国が建国70周年を迎える。

米中の歩み寄りと業績上振れ期待が出てくれば、日経平均は再び上昇基調を取り戻すとみられるが、当面は2万1000円を挟んで値動きがやや荒っぽい展開が続くのではないか。

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井出真吾(いで しんご)
ニッセイ基礎研究所 金融研究部 チーフ株式ストラテジスト・年金総合リサーチセンター兼任

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