5月に入り、米政権が対中国関税引き上げや中国通信機器大手に対する禁輸措置を打ち出し、米中摩擦の緊迫感が急速に高まっている。従来であれば、米利下げ観測やリスクオフによって円が急伸してもおかしくない情勢だが、円高は小幅に留まり、足元でも110円台前半にある。

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米国の年内利下げ観測は7割まで高まっており、円高圧力になっている反面、利下げ観測が内外株価を下支えすることでリスクオフの円買いを和らげ、円高進行を抑えている。リスクオフに伴って、多くの通貨に対してドルが買われていることも、円高ドル安を抑制している。

今後3カ月の方向感はやや円安と予想。米中問題は難航しそうだが、その点は市場でも織り込み済みだ。むしろ、最悪の事態が回避されることでリスクオフの緩和や利下げ観測の後退に伴ってドル円はやや持ち直すだろう。3カ月後の水準は112円前後と予想している。ただし、市場のマインドが改善する前にFRBの情報発信などによって利下げ観測が後退してしまうと、内外株価の下落を通じてリスクオフの円買いが進みかねない点には注意が必要になる。

5月入り後のユーロ円は、リスクオフの円買いや欧州議会選・英EU離脱への警戒に伴うユーロ売りによってユーロ安に振れており、足元では123円付近にある。ユーロ圏の経済指標は相変わらず冴えないが、既に市場の期待が下がっているうえ、投機筋のユーロ売りポジションも積み上がっているため、底堅さもみられる。今後はリスクオフの緩和に伴って持ち直しに向い、3カ月後の水準は126円前後になると予想している。

長期金利は、5月に入り、米中摩擦の緊迫化や米利下げ観測に伴って若干低下し、足元は▲0.06%付近にある。今後も大幅な上昇は見込み難いものの、リスクオフの緩和や米利下げ観測の後退に伴ってやや持ち直すだろう。日銀もタイミングを見計らって国債買入れ減額を試みるはずだ。3ヵ月後の水準は0.0%付近と予想している。

(執筆時点:2019/5/23)

マーケット・カルテ6月
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上野剛志(うえのつよし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 シニアエコノミスト

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