データを利活用するインターネット広告
FacebookのようなSNS、Googleのような検索サービス等、無料で使えるサービスがある。無料なのにビジネスモデルとして成立しているのは、ちゃんと収益源があるからだ。その典型例として、「ユーザーからは課金せずに、ユーザー向けの広告を手掛けて広告主から収入を得る」、というビジネスモデルがある。FacebookもGoogleもインターネット上の広告が収益の柱になっている。
昨今、インターネット広告が高い伸びを見せている。株式会社電通の推計(図表1)によれば、2018年における日本のインターネット広告費は2012年の2倍にもなった。新聞、雑誌、ラジオ、テレビの広告費と比べると、その勢いは歴然としている。消費者向けの製品・サービスを扱う企業の多くが、インターネット広告を強化し、当たり前のように使っているのが現状だ。
それぞれのユーザー(消費者)の興味や関心に合致するような広告を出せる広告商材があることも、広告主にとっては魅力の1つである。Googleの検索サービスであれば、具体的に検索した単語の内容に関連した内容の広告が検索結果とともに表示される。Facebookであれば、登録している内容(居住地など)、「いいね!」や「シェア」している内容等から、それぞれのユーザーが興味を持つと思われる広告が表示される。多くのユーザーを抱え、そのデータを十分に活用した広告が打てる媒体・サービスであれば、広告の価値が増し、多くの広告主を獲得できる。インターネット広告の分野は、データ利活用で新たな価値を生み出す「データ駆動型(データドリブン)」のコンセプトがいち早く示現し、収益化に成功した分野の1つだろう。我々が便利なサービスを無料で使える背景には、インターネット広告の市場拡大や技術革新があるとも言える。
仮に、データを活用して広告収入を得るのではなく、ユーザーから課金(有料化)するとなったらどうなるのか。公正取引委員会がデジタル・プラットフォーマーの実態調査の一環として行った消費者向けアンケート調査(図表2)で、SNSや検索サービスが有料化されたらどうするかという設問がある。調査の結果では、多くのユーザーが利用をやめる、他の無料サービスに乗り換えると回答した。他の代替サービスが全く無い、代替サービスがあっても無料サービスが無いということであれば少し話は変わるかもしれないが、ユーザーから課金するのはそう簡単ではなさそうだ。その意味では、ユーザー(消費者)の「紐が固いお財布」を狙うより、マーケティングに積極的な企業の「大きな広告予算」を狙うのは理にかなったやり方と言える。
高まるプライバシーへの懸念
ただ、こうしたユーザーのデータを活用して収入を得るビジネスモデルに対して、風当たりが強くなりつつある。有力な代替サービスが無い中でユーザーに個人情報の提供を実質的に「強要」して収益を上げているのではないか、個人情報の管理方法に問題はないのか、個人情報がどのように使われているのかよく分からず不安だ、といった懸念の声が世界中で上がっており、具体的な規制やルール整備に向けた動きも加速している。巨大IT企業もプライバシーへの配慮を示すなど、方向転換の兆しが見られつつある。また、デジタル化やデータ利活用を進めようとする日本企業にとっても、プライバシーへの配慮は今まで以上に避けて通れないポイントになりそうだ。
インターネット広告に代表されるように、データの積極的な利活用によって、イノベーションが産まれ、市場は拡大する。便利なサービスも提供されるようになる。一方、プライバシーへの配慮を求める声は日に日に高まっており、企業はその声を無視できない。ただ、過度な規制やルールは新しいイノベーションの芽を摘む可能性がある。データの利活用に向けては、消費者の便益向上、イノベーションの推進、プライバシーへの配慮等、バランスの取れた議論を進めていくことが必要だろう。成長戦略でデータ利活用が前面に押し出される中、政府が謳う「データ駆動型社会」がより良い形で実現するよう、前向きな議論が進むことを期待したい。
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中村洋介(なかむら ようすけ)
ニッセイ基礎研究所 総合政策研究部 主任研究員・経済研究部兼任
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