はじめに
「二次医療圏」という言葉を、聞いたことはあるだろうか? 聞いたことはあっても、実際に、自分の住む場所がなんという二次医療圏に入るか、知っているだろうか?
日本では、1985年より医療計画が立案・実施されている。現在は、第7次医療計画(2018~2023年度)の途中だ。医療計画では、医療圏が設定されて医療圏ごとに計画が立てられる。本稿では、二次医療圏の比較を通じて、二次医療圏への理解を高め、各地域の医療の姿を眺めることとしたい。
医療圏
●二次医療圏は一般的な保健医療を提供する区域
医療圏には、大きく一次医療圏、二次医療圏、三次医療圏の3種類がある。一次医療圏は、日常生活に密着した保健医療を提供する区域で、概ね市町村単位となっている。三次医療圏は、先進的な技術を必要とする特殊な医療(1)に対応する区域で、都道府県単位(北海道のみ、6つ)となっている。
二次医療圏は、健康増進・疾病予防から入院治療まで一般的な保健医療を提供する区域で、一般に複数の市区町村で構成されている。医療計画は、この二次医療圏を中心に立案される。具体的には、二次医療圏ごとに、医療体制(病床数、医師・看護師等の数、診療所施設数など)が計画される。
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(1)例. (1)臓器移植等の先進的技術を必要とする医療、(2)高圧酸素療法等特殊な医療機器の使用を必要とする医療、(3)先天性胆道閉鎖症等発生頻度が低い疾病に関する医療、(4)広範囲熱傷、指肢切断、急性中毒等の特に専門性の高い救急医療 等
●全国に344の二次医療圏が設定されている
実際にどのくらいの二次医療圏があるのだろうか。現在、全国には344の二次医療圏が設定されている。本稿末に一覧表を付している。この表から、自分の住む地域がどの二次医療圏か、確認できる。
二次医療圏の数を都道府県別にみると、最も多いのが北海道で21。最も少ないのは鳥取県と徳島県の3となっている。多くの二次医療圏は複数の市区町村で構成されている。なかには、1つの市が複数の二次医療圏に分かれていたり、1つの市がそのまま1つの二次医療圏となっているものもある。
●91の二次医療圏が見直し基準に該当している
二次医療圏の設定は、都道府県ごとに異なる。たとえば、東北6県では、最も人口の多い宮城県が、二次医療圏の数は山形県と並んで4つと、最も少ない。また、関東地方では、栃木県と群馬県は人口や面積がほぼ同じだが、二次医療圏の数は、栃木県が6、群馬県が10と異なっている。
二次医療圏は、都道府県が設定する。その際、人口規模や入院患者の流入・流出割合を考慮することが求められている。入院に係る医療を提供する一体の区域として成り立っていないと考えられる場合は、見直しが必要とされている。厚生労働省は、つぎの内容の見直し基準を示している(2)。
このうち、人口の基準には約半数、入院患者の流出入の基準には60%程度の二次医療圏が該当している。そして、3つの基準のすべてに該当(見直し基準に該当)している二次医療圏の数は91となっている。(なお、人口と入院患者の流出入については、次章で二次医療圏の比較をみていく。)
しかしながら、これらの二次医療圏の再編は、ほとんど進んでいない。その理由として、再編すると、医療圏が広大となり、患者の医療施設へのアクセスに時間がかかること。再編せずとも、隣接する医療圏との広域連携により横断的な医療提携が可能であること。離島などのために、再編することが難しいこと。などが、医療計画のなかで挙げられている。
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(2)この基準は、20という数字が3つ用いられていることから、「トリプル20基準」と呼ばれている。
二次医療圏の比較
二次医療圏への理解を高めるために、データをもとにいくつかの比較をしてみよう。
●人口最多の医療圏と最少の医療圏では、100倍以上の人口格差がある
人口、75歳以上割合、面積、人口密度のランキングをとると、つぎのようになった。
圏内人口最多の大阪・大阪市と最少の島根・隠岐では、100倍以上の違いがある。ひとくちに二次医療圏といっても、大小さまざまな規模の医療圏があることがわかる。
また、75歳以上割合も地域ごとに異なる。大分・豊肥と石川・能登北部は、人口の4人に1人が75歳以上となっている。地域の高齢化の状況を踏まえた医療体制の整備が求められるものと考えられる。
二次医療圏の面積は、北海道・十勝が突出して広い。住居の分布が広域に及ぶため、在宅医療などで交通移動の費用や時間が大きくなる。また、緊急医療での患者搬送体制の確立も容易ではない。
人口密度では、東京の区部など、都市部の医療圏が上位を占めている。こうした地域では、特定の医療施設への患者の集中を避けるなど、医療資源を上手に共有するための調整が必要となろう。
●医師や歯科医師は、都市部に集中している
つぎに、医療関係者の体制をみてみる。医師や歯科医師は、都市部に集中している。特に、東京・区中央部への集中はすさまじい。上位をみると、医師は島根・出雲、群馬・前橋など地方都市部にも集中地域がある。一方、歯科医師は、東京、福岡、大阪といった大都市部への集中が顕著となっている。逆に、北海道や青森などの農村部では、人口あたりの医師や歯科医師の数が少ない地域がある。これらの地域では、地域医療を進めるにあたり、医師の確保が大きな課題といえる3。
看護師は、西日本で多い。東京・区中央部を別にすると、上位を、九州地方や、山口、高知の地域が占めている。その反面、愛知、京都や首都圏には看護師が少ない地域がある。看護師の拡充には、地元での育成がカギとなる。医療系大学での看護学部の設立など、長期的な人材育成が求められる。
療法士のランキングは、特徴的だ。上位にも下位にも大都市の地域はない。山梨・峡東が一番多く、療法士の育成・拡充が進んでいる。その他、高知、九州地方の諸地域が上位を占めている。一方、療法士が少ない地域には、東北、北海道の地域や、東京・島しょが入っている。地域包括ケアシステムにおいて、療法士が果たす役割は大きい。これらの地域では、療法士の拡充が望まれるといえよう。
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(3)医師については、人口構成等を補正した医師偏在指標が公表されている。詳細は、「医師の需給バランス-医師の偏在は是正されるか?」篠原拓也(ニッセイ基礎研レター, ニッセイ基礎研究所, 2019年5月10日)を参照いただきたい。
●病院数のランキングの上位には九州、四国地方や北海道の諸地域が入っている
続いて、病床と医療施設の様子をみてみる。病床は、総じて九州地方や北海道に多い地域がある。一方、福島・南会津を筆頭に、関東地方や愛知には病床の少ない地域がある。
病院については、九州、四国地方や北海道で多い地域がある。反対に、関東地方や近畿地方には少ない地域がある。一般診療所は、比較的都市部に多く、北海道の農村部などでは少ない。
訪問診療施設は、中国地方や和歌山、鹿児島などで充実している地域がある。一方、関東地方には、少ない地域がある。
●入院患者の流入割合は都市部で高く、流出割合は山間部や島しょで高い
最後に、二次医療圏の入院患者の流出入と、医療費についてランキングをとってみる。
まず、推計流入入院患者割合は、入院のための施設や設備が揃っている都市部の地域で高い。一方、推計流出入院患者割合は、福島・南会津などの山間部や、東京・島しょなどの島しょ地域で高い。東京・区中央部や愛知・尾張中部のように、流入、流出がともに高く、患者の移動が激しい地域もある。
つぎに医療費の比較。医療費には、各地域の人口の年齢構成による違いがある。そこで、その違いを調整して、医療費の全国平均を1としたときの地域差指数が「医療費の地域差分析」(厚生労働省)として公表されている。その指数を用いて比較を行う。
概して、九州、中国、四国地方や北海道に、医療費の高い地域がある。75歳未満が対象の市町村国保、75歳以上が対象の後期高齢者医療制度とも、これらの地域が上位を占めている。
一方、医療費の低い地域をみると、市町村国保は沖縄・宮古が最も低く、中部地方で低い地域が挙げられる。後期高齢者医療制度では、東北地方で低い地域がみられており、75歳未満と75歳以上でやや異なる傾向がうかがえる。
おわりに
地域医療について考える際は、二次医療圏がベースとなる。本稿では、その二次医療圏に焦点を当てて、いくつかの点で比較を行った。本稿末に、各医療圏の一覧表を付したので、自分の住む場所の医療圏の確認等に活用していただければ幸いである。
日本では、今後、高齢化がさらに進んでいく。高齢者の医療を考える上で、各地域の医療体制を整備することが必要不可欠といえる。その際には、二次医療圏を単位として考えることが重要となろう。引き続き、その動向に注視していくこととしたい。