佐古野 道人
佐古野 道人
一般企業で不動産運用や税務を経験後、ファイナンシャル・プランナーとして独立。マネー専門ライターとしてWEBライティングの他、書籍の企画・構成にも携わる。得意分野は資産運用。日本FP協会資格認定会員(AFP)。

不動産の価値を算出する評価方式にはさまざまなものがあり、一般的に投資用は「収益還元法」、居住用は「取引事例比較法」、ローンの担保価値を測る際には「原価法(積算)」が使われています。ここまではご存じの人もいるのではないでしょうか。しかしこれら3つを補完する「開発法」という評価方式はあまり知られていないようです。

目次

  1. 開発法の考え方
  2. 「開発法による価格」の構成について――開発法の計算式
  3. ほかの評価方法との違い
  4. こんなときに使う
  5. 開発法は土地活用に有効な評価方法
  6. 開発法に関するよくある質問

開発法の考え方

不動産,評価方式,開発法
(画像=beeboys/Shutterstock.com)

開発法は、土地を取得してマンションや分譲住宅などを建てるデベロッパーの目線による評価方式です。主に広大な更地を評価する際に使います。簡単に述べると、「この土地にマンションなどを建てて販売したら、いくら儲かるか」を基準に評価するのが特徴です。

このとき想定されるマンションなどは、「最有効使用」という考え方にもとづきます。つまり土地を最大限活用して最も収益を上げられる建物を建てるという仮定です。

開発法で想定される収益不動産には、「一体利用」と「分割利用」の2種類があります。国土交通省の『不動産鑑定評価基準』の宅地の評価の項目には、次のように記載されています。

当該更地の面積が近隣地域の標準的な土地の面積に比べて大きい場合等においては、さらに次に掲げる価格を比較考量して決定するものとする(この手法を開発法という。)。

(1)一体利用をすることが合理的と認められるときは、価格時点において、当該
更地に最有効使用の建物が建築されることを想定し、販売総額から通常の建物
建築費相当額及び発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を控除して得た価格
(2)分割利用をすることが合理的と認められるときは、価格時点において、当該
更地を区画割りして、標準的な宅地とすることを想定し、販売総額から通常の
造成費相当額及び発注者が直接負担すべき通常の付帯費用を控除して得た価格
なお、配分法及び土地残余法を適用する場合における取引事例及び収益事例は、
敷地が最有効使用の状態にあるものを採用すべきである。

つまり、広大な土地をそのまま利用して規模の大きなマンションを建てて販売することを想定するのが「一体利用」、土地を分割して宅地として販売したり、戸建て住宅やアパートなどを建築して販売したりするのが「分割利用」です。

「開発法による価格」の構成について――開発法の計算式

開発法のおおまかな計算式のイメージは「マンションの販売価格-(建築費+経費)=開発法の評価額」です。

開発法の基本式

国土交通省の『不動産鑑定評価基準運用上の留意事項』によると、開発法の基本式は次のとおりです。

P= S/(1+r)n1−B/(1+r)n2−M/(1+r)n3

P:開発法による試算価格
S:販売総額
B:建物の建築費又は土地の造成費
M:付帯費用
r :投下資本収益率
n1:価格時点から販売時点までの期間
n2:価格時点から建築代金の支払い時点までの期間
n3:価格時点から付帯費用の支払い時点までの期間

計算式に各項目を当てはめると、次のようになります。

開発法による試算価格=(価格時点に割り戻した)販売総額-(価格時点に割り戻した)建物の建築費又は土地の造成費-(価格時点に割り戻した)付帯費用

以降で各項目について解説します。カッコ書きにした「価格時点に割り戻す」については、最後にまとめて説明します。

「開発法による価格」とは?①販売収入(不動産の販売総額)

販売総額(販売収入)は、開発によって得られる収益のすべてを合計したものです。

例えば一体利用し、分譲マンションの建築・販売を想定した場合は、全戸の販売価格の総和が販売収入にあたります。

分割利用した場合も同様に、対象土地を区画したり分譲住宅を建設したりして、販売した場合の収入を総合計して求めます。

販売価格は周辺の価格相場や需給動向などを分析し、合理的に成約価格を想定しなければなりません。

「開発法による価格」とは?➁販売費用(建物の建築費又は土地の造成費)

ここでいう販売費用とは、建物を建築したり土地を造成して整えたりして販売できる状態にするためにかかる費用のことで、いわゆる原価のようなものです。合理的な利用方法が一体利用か分割利用かで、次のように異なります。

・一体利用の場合
評価対象の土地を最大限有効に活用してマンションを建築した場合を想定します。例えば容積率いっぱいに建築し、その地域に合った間取りで構成するなど、なるべく「高く・多く」売れる建築物を考えます。

・分割利用の場合
対象となる土地を、その地域で戸建用の土地として取引されている標準的な広さに区画したときの造成費用を計算します。

造成とは、土地に住宅などの建物を建てられるように、でこぼこの地面を整地したり、雑草を除去したりする作業を指します。

「開発法による価格」とは?➂付帯費用(販売経費)

開発に直接かかる費用ではなく、開発した不動産を販売するためにかかる費用です。

具体的には広告宣伝費や販売時の仲介手数料、営業部門の人件費、モデルルームを建築する場合はその費用などが挙げられます。

大規模な開発では新聞折込広告や広告代理店への委託など、多額の費用がかかることも少なくありません。

「価格時点に割り戻す」とは?――投下資本収益率

上記のとおり、計算式の要素には販売価格や建築費、造成費、経費には管理費や広告宣伝費などがありますが、計算はこれで終わりではありません。一般的に土地の取得からマンションや分譲住宅などの建築・販売までは、年単位の長期にわたって行われます。

このような時間による差を価格に反映させるため、販売価格や建築費、経費などは、期間に応じて一定の利率で割り引くことが必要です。利率は投下資本収益率といい、デベロッパーの利益率やローン金利などで構成されます。一般的には年10%前後が多い傾向です。正確に計算したい場合は、不動産会社や不動産鑑定士事務所に依頼したほうがよいでしょう。

また、建物の完成時期と販売時期、付帯費用の支払い時期はそれぞれ異なるため、割り戻す期間も一律ではありません。

基本式をご覧になるとわかるように、価格時点(どの時点の価格を評価するか。現時点や土地の売り出し時期など)からそれぞれの販売・支払い時期までを割り戻しの対象期間とします。

例えば販売費用における建物の工事費用は、「完成してすぐに販売できるのであれば、販売収入の時期とズレることはほとんどない」と思うかもしれません。

しかし、実際は建築工事には前払い金や中間金が存在し、完成後に支払う部分も支払い条件次第では販売よりも後になることもあります。販売については決済と引き渡しは同日に行うのが一般的なので、お金とモノの流れにズレはほとんどないでしょう。

このように、各項目におけるお金の流れの違いによって発生する金利相当分を価格に織り込むため、投下資本収益率による割り戻しが必要になります。

ほかの評価方法との違い

開発法の特徴を解説するために、ほかの評価方法をおさらいします。収益還元法は投資用不動産に使われる評価方法で算出方法は「純家賃÷還元利回り=収益還元法価格」です。純家賃は家賃収入から経費を差し引くことによって求めます。還元利回りは、周辺地域の平均的な利回りに物件の特性などを考慮して調整を加えて算出します。

開発法は売却益(キャピタルゲイン)を価格の指標にしますが、収益還元法は継続的収入(インカムゲイン)に着目しているわけです。取引事例比較法は、地域や立地条件などが似たような物件の過去における成約価格を調べ、相場の傾向や個別要因を加減して評価します。特に近隣地域で多くの取引事例があるような、需要が活発なエリアで有効です。

原価法は積算法とも呼ばれます。土地を相続税路線価などの公的な評価額から求め、建物の価格は平均的な建築単価を、建築面積に掛け合わせて計算します。両者を合算したものが積算価格です。基本的に投資用物件の場合、収益還元法をメインにほかの2つの手法で求めた価格で調整して評価します。

こんなときに使う

開発法はマンション開発に適した広大な土地を評価する際に有効です。それだけでなくほかの3つの方法で評価した価格を検証するためにも用いられます。例えば所有しているマンションを1棟まるごと売却するときの売り出し価格を考えたり、相続した土地の活用方法を検討したりするときに収益還元法の価格を裏付けるものとして利用します。

もし両者の間がかけ離れていたら、調整が必要になるでしょう。こうして最適な価格を求めていきます。開発法は収益性に着目している点は収益還元法に似ており、建築価額の求め方は積算法に近いものがあります。販売価格には取引事例比較法の要素も入っています。3つの方法を駆使した考え方なので、ほかの方法で導き出した回答の「答え合わせ」となるのです。

開発法は土地活用に有効な評価方法

開発法はマンションデベロッパーの採算性に注目した評価方法です。ほかの3つの手法を取り入れており、検証手段として使うこともできます。土地活用を考える際に有効活用できるでしょう。計算の前提となる投下資本収益率や建築費には複雑な計算が伴うので、正確に計算したい場合は不動産会社などに依頼してください。

開発法に関するよくある質問

Q.開発法の計算式は?

開発法による試算価格=(価格時点に割り戻した)販売総額-(価格時点に割り戻した)建物の建築費又は土地の造成費-(価格時点に割り戻した)付帯費用

広大な土地にマンションや分譲住宅などを開発し、販売した場合に想定できる利益を評価額とします。

上記の計算式を簡単にすると、次のようになります。

マンションなどの販売価格-(建築費+経費)=開発法の評価額

Q.いつ活用するのか?

近隣地域で取引されている一般的な土地よりも広い土地を評価するときに活用します。住宅販売を想定しているため、商業地よりも住宅地に適しています。基本的に更地を宅地として評価するときに用いられますが、畑や山林などを宅地として転用する際にも利用できるでしょう。その場合、造成費用は建築費と同様に販売費用として販売価格(想定される利益=評価額)から差し引いて計算します。

Q.収益還元法との違いは?

収益還元法は、不動産が将来生み出すであろう収益を割り戻して集計する評価方法です。想定できる利益に着目している点で開発法と似ています。

両者の大きな違いは想定利益の上げ方です。開発法は販売収入を想定しており、収益還元法は主に賃貸収入を想定しています。

また、適用できる対象不動産も異なります。開発法は広大な更地が対象ですが、収益還元法は一戸建て向けの土地や区分マンションなどにも適用できます。

(提供:YANUSY

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