仕方なく始めたプレゼン指導が、ベストセラーのきっかけに
たとえば、プレゼンテーション。
これは、プラスにいたとき、自社の営業職を相手に、プレゼンの稽古をする必要があって手がけるようになりました。
といっても、自分も最初からプレゼンが得意だったわけではありません。
なんとか営業マンたちの力を底上げしたい、という義務感から、手持ちの知識や経験をフル稼働して必死にアドバイスしていた、というのが正直なところです。
その後、縁あってKDDI∞Laboというスタートアップ支援プログラムに招かれ、スタートアップの起業家たちにプレゼン指導をする機会がありました。
私は普段通りにプレゼン指導をしたのですが、その稽古を受けた受講者のレベルが急激に上がって、とても驚かれたのです。このことをきっかけに、さらに他のプログラムにも呼ばれるようになりました。
ほうぼうで稽古をつけているうちに「本を書いてください」というお話をいただきました。これが、2018年に出した『1分で話せ』です。
今ではおかげさまで、35万部のベストセラーとして様々なメディアに取り上げられ、大変多くの方に読んでいただいています。
あなたの武器は「目の前の仕事や経験」の中にある
ここで私は自慢をしたいわけではありません。
申し上げたいのは、必要に迫られて始めたことを突き詰めて、成果をあげていくと、思いもよらない方向にことが進んでいく、ということです。
目の前の仕事や経験に対して、全力投球し成果を出す。それがきっかけとなり、あちこちへと呼ばれる機会が増えていく。すると、思いもしなかった自分になっている。
いわば、1本のわらしべを交換していき、気がつくとお金持ちになっていた「わらしべ長者」のような人生です。これを私は、「わらしべ長者的キャリア」と呼んでいます。
リーダーシップ開発についても、同じことです。40代になってから学んだグロービス経営大学院で、ご縁をいただき指導を始めたのがきっかけです。
さらに、私がグロービスで教員をやっていることを知ったヤフー前社長の宮坂学氏に声をかけられて、Yahoo!アカデミアに呼ばれました。
それまで事業をやっていたのに、教育をやる。
はたから見れば、「大胆なキャリアチェンジだな」と思われたかもしれません。
でも実際のところは、「呼ばれたから引き受けた」「これまで社内の業務としてやっていたことを広げた」というだけのことです。すべては急に降って湧いた話ではなく、必ずそれまでに取り組んできた仕事と、つながっているのです。
世の中には、はじめからやりたいことがあって、明確な目標や志を掲げてキャリアを築き上げてきた、という人がいます。
おそらく、読者の皆さんの周りにも、そういう「志がもともと高い人」がいるはず。
「目標から逆算すると、今これをやるべき」という未来への道筋がはっきりと見えていて、はじめから信念を持って仕事に取り組んでいる人です。
そういう人はとても素晴らしい。私は心からリスペクトします。
しかし、私自身はそんな立派なキャリア形成とは無縁でした。というより、目指すものに向かっていくキャリアプランは描きたくても描けませんでした。
でも、だからこそ、今やっていることに無我夢中になって取り組むことで、自分の可能性をグンと広げることができた、とも思っています。
ですから、ひょっとしたら、「キャリアプラン」なんて必要ないのかな、と思います。
明確な目標や「心からやりたいこと」だって、最初は必ずしも必要ないかもしれない。
むしろ、目の前の仕事や経験の中にこそ、「将来の武器」が潜んでいると思っています。
そう思うのは、「それでもなんとかなった」という自分の経験があるからです。
伊藤羊一(いとう・よういち)
ヤフー〔株〕 コーポレートエバンジェリストYahoo! アカデミア学長
〔株〕ウェイウェイ代表取締役。東京大学経済学部卒。グロービス・オリジナル・MBA プログラム(GDBA)修了。1990年に〔株〕日本興業銀行入行、2003年プラス〔株〕に転じ、201年より執行役員マーケティング本部長、2012年より同ヴァイスプレジデントとして事業全般を統括。かつてソフトバンクアカデミア(孫正義氏の後継者を見出し、育てる学校)に所属。孫正義氏へプレゼンし続け、国内CEO コースで年間1位の成績を修めた経験を持つ。2015年4月にヤフー〔株〕に転じ、次世代リーダー育成を行う。グロービス経営大学院客員教授としてリーダーシップ科目の教壇に立つほか、多くの大手企業やスタートアップ育成プログラムでメンター、アドバイザーを務める。著書に、『1分で話せ』『0秒で動け』(ともにSB クリエイティブ)がある。(『THE21オンライン』2019年12月06日 公開)
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