(本記事は、西田 健の著書『コイツらのゼニ儲け2 無慈悲で、ヤクザで、めっちゃ怖い』秀和システムの中から一部を抜粋・編集しています)

ゼネラルモーターズ

GM
(画像=JHVEPhoto / Shutterstock.com)

ザ・アメリカンな企業が行ったエゲつない「ライバル潰し」

先進国として経済力や技術力を維持する最も確実な方法が「自動車産業」なんですね。これを自国内で開発、生産できて安定した経営ができれば先進国として生きていけるわけです。その意味でGMが倒産したとき、アメリカは先進国としての「国力」を失いかけていたんですよ。だから強引な方法で救済したのでしょう。まあ、巨大企業ということでトヨタに対して何かと辛口なことを書いていますけど、個人的に最も評価している日本企業はトヨタだったりします。

GM
【沿革】
1908年、ウイリアム・C・デュラントが持株会社形式で自動車メーカーと部品メーカーを統合、いきなり全米最大の自動車メーカーとなった。以後、アメリカの財閥経営で自動車社会を築き上げ、戦後は世界中の自動車メーカーを買収、世界一の自動車メーカーとして君臨し続けた。2009年破綻後、13年に再生した。
【特徴】
別名「ガバメントモーターズ」とアメリカの政策に強い影響力を行使しながら巨大化してきた。ロックフェラー(石油)とデュポン(ゴム)と組んで、全米中の鉄道や路面電車を買収、バス会社に切り替えたのは有名な話。戦後は日本の自動車メーカーと競争で劣勢になるやアメリカ政府に働きかけ、日本メーカーに輸出規制を課した。リーマンショックによる破綻の際も国民の反発を押し切り、オバマ政権に国有化を認めさせている。
【金儲け】
初期の時代は企業トラストによる市場独占、中期から後期ではアメリカの政策を主導することで利益を誘導した。末期の90年代、自動車ローンをサブプライム化することで低所得者をターゲットに自動車販売を推し進め、リーマンショックで甚大な損失を計上、一気に破綻した。販売台数は年間838万台(2018年)。売り上げは16兆2000万円で世界第5位。キャデラック、シボレーが主力車種。

◆ アメリカ「自動車文明」の中心

GM
(画像=Getty Images)

ザ・アメリカンな企業といえば、はい、ゼネラルモーターズ(GM)でございます。

この100年、アメリカが超大国として君臨してきたのは「自動車文明」を築き上げたからですね。自動車は3万点の部品の集合体、いわば工業力の結晶みたいなもの。自動車を開発できれば、たいていの工業製品は何でも出来るぐらいです。

そこにいち早く着目したアメリカは、自動車黎明期の19世紀末から中心産業として育成、20世紀初頭には大量生産を開始、大衆に安く供給することで、世界初の自動車社会を作り上げました。

アメリカの自動車産業の何がすごいかといいますと、それが現代の科学技術の土台になっていることなんですよ。

熟練した職人のハンドメイドだった自動車製造に、ベルトコンベアの流れ作業を導入して分業と作業の平準化を行うという先見性。工業規格の統一と部品の互換性を高める合理性。さらに3万点の部品を効率よく管理する物流マネジメント、マニュアル化による工員の教育方法に至るまで、すべてアメリカの自動車産業が生み出したもの。そうして大量生産の体制を築き、普及した自動車をベースにインフラを整えて豊かな消費社会にする、それが先進国モデルなんですから、人類史に残る偉大な業績といっていいでしょう。

そんなアメリカの自動車文明を牽引してきたGMは、1908年、自動車産業黎明期に突如ガリバー企業として誕生。そして2008年、トヨタに破られるまでの77年間、世界一の自動車メーカーとして君臨してきました。

しかし2009年には破綻し、アメリカ政府による国有化で〝ガバメントモーターズ〟と揶揄されるまで落ちぶれてしまい、今現在も情けない状況が続いています。

人類社会をリードした20世紀最高の企業は、どうして、ここまで落ちぶれたのか。そこにアメリカの問題が隠されているのではないか、それが今回のテーマです。

さて、戦勝国の余裕なのか、おごりだったのかは別にして、アメリカは敗戦国である日本とドイツに自動車産業のノウハウを惜しみなく教えてくれました。結果、トヨタとVW(フォルクスワーゲン)との間で激しい三つ巴の戦いが始まります。

21世紀の覇者となるべくトヨタが提案したのが、お得意の「エコ技術」、ご存じハイブリッドですね。これに対抗してVWは「クリーン・ディーゼル」を打ち出します。このクリーン・ディーゼルは、2015年9月、不正プログラムによる捏造が発覚、8兆円という天文学的な制裁金が課せられるのでは、と、大騒ぎになっています。

不正したVWが悪いのは当然なんですが、ただ、「クリーン・ディーゼル」自体、クリーンじゃないだけで欠陥品ではありません。ディーゼルは同レベルのガソリンエンジンに比べて燃費がよく、CO2の排出も少ないので、その点ではクリーンです。

じゃあ、何が問題なのかといいますと、ディーゼル機関は、大型で低速運転のときはガソリン機関と比べて燃費は約半分、排ガス処理も簡単といいとこ尽くめなのですが、小型車の場合、不完全燃焼を起こして真っ黒い排ガスがバンバン出るようになります。今回の事件では基準値の40倍の煤や窒素化合物が出ていたほどです。

ともあれ、排ガス問題を除けば、小型車用ディーゼルはハイブリッドよりも安くて燃費もいいので、VWのお膝元のEUでは、1990年代には1割程度だったディーゼルが5割を突破するほど普及します。ハイブリッドに対抗して「環境に優しい」とか「クリーン」と言い張ったから詐欺になったわけで、高性能な小型ディーゼルエンジン(ただし煤は出ます)と、正直に主張しておけばよかったのです。

◆ デトロイトを潰したGM詐欺ビジネス

自動車保険,等級
(画像=BLACKWHITEPAILYN/Shutterstock.com)

1990年代、トヨタとVWが「エコ」と「クリーン」で21世紀の覇者を目指していたとき、GMは何をしていたのでしょうか。

はい、詐欺ビジネスですね。

1990年代になると、GMは時代に逆行して小型や高燃費、エコなどクソ食らえといわんばかりのマッチョな車を作りまくります。それがなぜかバカ売れするんですねえ。

カラクリは単純です。自分のところの自動車ローン子会社(GMAC)を使って、バンバン、ローン審査を通したからですね。最初の数年は月1万円という家電なみの支払いでOK。そうして年収100万円足らずの低所得者たちに500万円以上の高額車(決して高級車ではありません)を売りつけちゃったわけです。

あれ、何か思い出しませんか?

そうでございます。かのサブプライムローン。実際、こうした自動車ローンは、サブプライムの住宅ローンと同様に、リーマンブラザーズといった証券会社が買い取り、金融工学という裏技でトリプルAの金融商品に早変わり、世界中の投資家にばらまかれることになります。

金融バブル真っ盛りの2000年代半ばなんてアパート暮らしの低所得者に自動車のローンを組んでもらうために、GMACは、まずプール付きの豪邸を用意、サブプライムの住宅ローンを組ませたあと、今度は、その豪邸を担保にバカ高いGM車を売るわけですね。

まさか、と思うでしょ。ホントなんですよ。その証拠にGMACは全米第5位の住宅販売会社だったのですから。

この程度で驚くのはまだ早いんです。

アメリカの自動車関連の労働組合が強力なこともあって、在米自動車メーカーは従業員の医療保険や年金といった福祉の負担が大きいんですね。儲かれば儲かった分、労組を通じて社員にもっていかれる。そこでGMは考えました。ならばアメリカの工場を捨ててメキシコの工場に逃げてはどうか、と。そして、米国工場を閉鎖してはNAFTA(北米自由貿易協定)を結んでいるメキシコへと移転。安い賃金のメキシコ人労働者をこき使い、低品質のぼろ車をアメリカでバカ高い値を付けて、貧しい移民に売りつけるようになります。

もちろん、むちゃくちゃ儲かりました、ええ、経営陣たちは、ですけど。逆に「モータウン」デトロイトは廃墟寸前になりましたが......。

恥知らずで浅ましいゼニ儲けの結果、GMは黄金期を迎えました。

年収150万円程度の人に数千万円の豪邸と数百万円の高額車を売りつけて繁栄していたわけで、そんなビジネスが、そう長く続くはずはないのです。

そして2009年のリーマンショック。金融バブルの崩壊で自動車メーカーが真っ先に潰れたのは、それが理由だったんですね。

◆ トヨタ、VWに仕掛けられた〝騒動〟

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(画像=Joerg Huettenhoelscher / Shutterstock.com)

潰れて当然のことをしでかしながら、それでもくたばらないのがGMです。

そもそも自動車メーカーが国有化で救済されること自体、異例のこと。政府による救済には、国有化後にきちんと復活することが前提となります。

なぜGMは復活できると判断したのでしょうか?そこにGMの奥の手があったからでございます。それが2009年から2010年までの「トヨタ大規模リコール騒動」なんですよ。

さすがにGMの経営陣だって自分たちに売れる車を作る能力がないことぐらい理解しています。まともに競争すれば絶対に勝てません。では、どうするか。簡単です。売れる車を作っているメーカーを潰してしまえばいいのです。

これを本当にやってしまうところがGMのGMたるゆえん。

GMが国有化された2009年、実にタイミングよく「トヨタ車が悪質な欠陥を長年、隠してきた結果、死亡事故が多発している」という集団訴訟が起こりました。「トヨタ潰し」でトヨタが低迷する。ゆえにGM車が売れる、という陰謀が大前提にあったわけですよ。

事実、この大規模リコールは、最初からトヨタが主張してきた通り、欠陥でも何でもなく、単なる操縦ミスでした。ちょっと調べれば、すぐにわかることなのに、GM救済で巨額の税金を投入してきたアメリカ政府は、トヨタの主張を認めず、大規模リコールを命じた上で、さらに巨額の制裁金を課そうとしました。

この「トヨタ潰し」に激怒したのが当のアメリカ市民だったというのが、なんとも皮肉な話でしょう。今やトヨタは、アメリカ国内で最も「売れる自動車」を作っている企業です。たくさんの雇用に貢献しているんですから市民の反発も当然。あまりの反発に政府も渋々、この欠陥騒動が捏造だったことを認めます。それでも操業停止やリコール費用、株価の低迷といった影響で2兆円の利益が吹っ飛び、2012年までトヨタの販売は低迷します。

その間隙を突いて2013年、GMは、まんまと再出発に成功します。

ね、すごく汚い企業でしょ。それだけに復活した2014年、正真正銘の不正隠しで数十人単位の死亡事故が起きていたことが発覚、再び経営が悪化していきます。もう笑うしかありませんが、笑えないのは、ここからです。

そこでドンッ!VW潰し、でございます。今年(2015)の9月にVW不正プログラム問題が発覚したのも偶然ではないんですねえ。

VWが不正プログラムに手を出したのは2005年ですが、これもGMの仕掛けた罠にVWはがまんまと嵌まったからなんですね。

VWが、こんなアホなことをしでかしたのは、アメリカの排ガス規制が異常に厳しいからで、どうしてそんなに厳しいのかといえば、GM様の計らいで小型車を締め出すためでした。排ガス処理は大型のエンジンでは比較的容易ですが、小型車になるほど難しくなります。1cc当たりの率では大型車のほうがクリーンなんですよ。

このVWの不正が発覚した直後、トヨタの豊田章男社長は「VWのシェアを絶対に奪うな」と厳命したといいます。この発言からもGMの仕掛けた罠ということが覗えます。

ゼネラルモーターズ(GM)はアメリカという国家の象徴です。そんな相手とTPPを組めばどうなるのか。

すでにGMは「軽自動車は非関税障壁」と文句をつけています(のちにトランプ大統領も同じことを言ってます)。GMが軽規格の自動車を作れば、ちゃんと優遇税制を適用するわけで、自分たちが作れないから非関税障壁って......。ホント、「これだからヤンキーは」と文句の一つも言いたくなってきます。

考えてみれば、GDPは1200兆円で世界一、人口は3億人。広大な国土を持つ究極の自動車文明国家のナンバー1メーカーが、どうして経営が破綻しちゃうのでしょうか?アメリカの自動車メーカーが、アメリカ人のためにアメリカ人向けのアメリカ人のほしがる自動車をどうして作れないのでしょう?

きっとリンカーンも「アメリカ人の、アメリカ人による、アメリカ人のための自動車」を作れないGMを嘆いていることでしょう。まあ、こちらはフォードの車種ですが。(2015年12月号)

コイツらのゼニ儲け2 無慈悲で、ヤクザで、めっちゃ怖い
西田 健(にしだ・けん)
1968年広島県生まれ。下関市立大学卒業後、男性週刊誌の記者や『噂の真相』などを経てフリーライターに。書籍、雑誌を中心に活動する。
現在、『紙の爆弾』(鹿砦社)で「コイツらのゼニ儲け」を連載中。

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