(本記事は、西田 健の著書『コイツらのゼニ儲け2 無慈悲で、ヤクザで、めっちゃ怖い』秀和システムの中から一部を抜粋・編集しています)

サムスン電子

さて、今回の管理強化の騒動で、多くの人が日本の半導体産業の裾野の広さに驚いたのではないでしょうか。問題となったフッ化水素なんて「ナイントゥエルブ(小数点以下12桁の純度の意味)」というレベルの商品を平然と作っているんですから。日系半導体メーカーはボロボロなのに、なぜ、関連産業が強いのかといいますと、戦後の日本経済が「エレキ」、正確にいえば電子産業に異常なまでに力を入れてきたからですね。

敗戦後、当時の通産省は、日本産業の未来像に「エレキ」を据えます。戦時中、日本の開発力そのものは欧米列強に比べて劣っていませんでしたが、致命的なまでに電子部門と素材部門、それに品質管理の面が遅れていまして、欧米製の兵器に太刀打ちできませんでした。その反省を踏まえ、戦後の日本は戦時に判明した弱点を補うよう産業育成を行ないます。このへんは城山三郎の名著『官僚たちの夏』(新潮文庫)に詳しく載っています。

ともあれ、まともなレーダーを作れなかったこともあり、電子分野はとくに力を入れてきまして、ソニーのトランジスタの国産化にはじまり、ICチップ、いまのメモリチップなど官民挙げて業界を育ててきたわけですよ。先の高純度フッ化水素が日本でしか作れないのも、1960年代から実に60年、コツコツと開発してきたもの。おいそれと他国がマネできるシロモノじゃないんですね。

そんな日本の半導体産業が落ちぶれたのは、ちょっと「やりすぎた」からです。あっという間に日本が半導体産業を牛耳ったことでアメリカが激怒、日米貿易摩擦へと発展してしまい、日本はアメリカの要請で、国内での半導体製造の制限を受け入れます。結果、友好関係にあったアジア諸国に半導体産業を移転させていくことになりました。

はい、それがサムスン電子なんですよ。

サムスン電子を半導体企業として成長させようと、当時の通産省と日系メーカーは、惜しみなく技術を移転し、その成長を促してきました。まあ、強力なライバル企業を作ったわけで、当然日系企業は追い詰められます。そのため他方で、通産省は日本の半導体を守るべく、1999年、日立とNEC、三菱電機の半導体部門を合併させて「エルピーダメモリ」を設立します。日本の半導体技術を守る「シェルター」を作ったわけですね。

つまり、サムスン電子とエルピーダメモリは、通産省が主導した「兄弟会社」ということがわかるでしょう。だからこそ日本=通産省はサムスン電子を徹底的に優遇、日本企業同様に扱ってきました。

実際、2004年には経産省が主導して、今回、問題となったホワイト国認定まで手助けします。韓国を「日本国内」と同じ扱いにする制度で、これがサムスン電子躍進の最大の理由となります。

なぜならライバルとなる台湾企業、のちに中国企業は、日本から戦略物資を輸入するには、いちいち書類審査を受ける必要があり、必要な物資は多めに購入します。半導体は需要と供給サイクルの変動が激しい産業なので、需要が伸びて増産しようにも日本製フッ化水素が足りないとか、逆に余って赤字になったりするわけですよ。

その点、日本国内の扱いを受けるサムスン電子なら、「必要なとき、必要なだけ、必要なもの」というジャストインタイムができます。しかも日本より人件費も安く、また韓国は電気をバカ食いする半導体産業のために、電力を安くする国策も行なっています。これだけメリットがあれば投資だってバンバン集まります。こうしてホワイト国入りした2004年以降、急激な成長カーブを描いて世界一の半導体企業となっていくわけです。

逆にホワイト国リストから外せば、簡単にサムスン電子のビジネスモデルは崩壊します。というより韓国の輸出産業自体がホワイト国を前提に設計されていますから、除外すれば、韓国輸出産業は即座に崩壊しちゃうぐらいです。

にもかかわらず、というか、それを誰よりも知っておきながら、今回、経産省は平然と輸出管理強化とホワイト国除外を決めちゃったんですよ。ボイコットデモをする韓国より、今回の経産省のほうが、はるかに「狂気の行動」といえます。

どうして、ここまでやったのか。

それがエルピーダメモリの破綻ではないか、というのが今回のテーマなんです。経産省が主導した日本半導体メーカーの〝シェルター〟であるエルピーダメモリは、2012年に破綻、今ではアメリカのマイクロン社に吸収されてしまいました。このとき、1950年代から官民挙げて育成してきた半導体産業は終わったといっていいでしょう。

問題はエルピーダの破綻までの状況です。あまりにもきな臭いんです。

倒産間際、業績悪化に喘いでいたエルピーダメモリを救うべく、経産省の役人たちは走り回っていました。その中心人物が、当時の経産省審議官の木村雅昭氏。彼はエルピーダを残すべく米マイクロン社のスティーブン・アップルトンCEO(当時)と協議を進め、対等合併の合意を得ます。ところがその直後の2012年1月、木村氏はインサイダー容疑で東京地検に逮捕、カウンターパートナーだったアップルトンCEOは謎の飛行機事故で死亡。合併プランは白紙に戻され、エルピーダは破綻します。

そのとき、エルピーダ破綻の「真犯人」として疑われたのが、そう、サムスン電子なんです。

マイクロンとエルピーダ連合はサムスン電子より強力な存在になりますし、むしろ破綻させてサムスン電子がエルピーダを買い叩こうとしたのでは、と疑われてしまったわけですね。ことの真偽は別にしても、エルピーダの業績悪化は、サムスン電子が仕掛けた安売り攻勢であり、兄弟企業として手を差し伸べるどころか、トドメを刺しにきていたのは事実です。それだけに破綻した日、経産省では、「やられたらやり返す、倍返しだ!」と、池井戸潤小説みたいな台詞が飛び交ったともいいます。

これが冗談に聞こえないのは、今回の輸出管理強化とホワイト国外しのタイミングが実にいやらしい点にあります。

この6月、文在寅政権は金尚祖という人物を大統領府政策室長、経済政策のトップに据えるんですが、この人、サムスンの実質トップである李在鎔副会長を逮捕するなど、「李一族は滅ぶべし」「サムスンの資産は国富に戻すべし」がポリシーの「サムスン絶対殺すマン」の異名を持つ御仁。実際、この9月にも李副会長の再逮捕を決めたといわれ、今回の管理強化、ホワイト国外しと相まって、サムスン電子は相当、追い詰められているんですよ。2019年8月22日にはトランプ大統領も「アップルのためにサムスンの対米輸出に大幅な関税をかける」と息まいていますし。

このサムスン電子包囲網のヤバさは、日本が世界に誇るあの〝ハゲタカ〟が飛び回っていることからも理解できるでしょう。はい、ソフトバンクの孫正義さんですね。

先の輸出強化が発表になるや、7月4日に即座に韓国大統領府(青瓦台)を訪問、7月7日、李副会長を日本に招くなど、実に怪しげな動きを見せています。孫さんは、2016年、3.3兆円でイギリスARM社を買収していますが、このARM社は半導体チップの設計では世界一といわれる優良企業。この製造部門としてサムスン電子を狙っているっぽいんですよ。

安倍政権は「安全保障上の問題であり、報復や制裁ではない」とか言い張っていますけど、これって完全な「韓国潰し」。そしてハゲタカが火事場泥棒、そんな構図が見えてくるのです。(2019年10月号)

コイツらのゼニ儲け2 無慈悲で、ヤクザで、めっちゃ怖い
西田 健(にしだ・けん)
1968年広島県生まれ。下関市立大学卒業後、男性週刊誌の記者や『噂の真相』などを経てフリーライターに。書籍、雑誌を中心に活動する。
現在、『紙の爆弾』(鹿砦社)で「コイツらのゼニ儲け」を連載中。

※画像をクリックするとAmazonに飛びます

【関連記事】
韓国で「漢字」が読めない人が急増 漢字廃止の弊害や影響は
米板挟みで追い詰められる韓国・文在寅大統領 反日姿勢の軟化の真意と対米中関係の行方
韓国の国際法違反行為で足並みそろわぬ米日韓協力関係 進展のカギを握るのは?
韓国株おすすめ高配当利回りランキングTOP10!サムスンやLGなど世界的企業の利回りも紹介
上昇を続ける韓国の不動産市場 投資リスクにも慎重な判断を