(本記事は、三枝 元氏の著書『最速2時間でわかるビジネス・フレームワーク』ぱる出版の中から一部を抜粋・編集しています)

やり遂げる
(画像=PIXTA)

GRIT(やり抜く力)

【使う目的】大きな目標をやり遂げる

シーン
新米広告プランナーのミオキには、経験を積み、スキルを磨いて超一流の広告プロデューサーとして成功したいという夢がある。
広告プランナーの役割は、クライアントの意向を受けて、どんな広告を作るかを企画・立案することだ。トレンドに敏感な情報収集力と、それを言語化する表現力、クライアントの求めるものが理解できるコミュニケーション力、プロジェクトをまとめる調整力が求められる。一見華々しいイメージがあるが、キャリアを積むためには長年の地道な努力や研鑽が必要だ。
こういってはなんだがミキオは飽きっぽい性格で、長続きしたためしがない。「本当に自分は超一流になれるのか」と不安なミキオに何かアドバイスはないだろうか?

フレームワークの説明

ビッグ・ファイブの中で職業人生にもっとも影響があるのは「真面目さ」だということを触れました。「真面目さ」とほぼ同じ意味で使われる言葉として、GRIT(グリット:やり抜く力)があります。

なお、GRITとは、以下の4つの語の略です。

Guts(度胸):困難なことに立ち向かう
Resilience(復元力):失敗しても諦めずに続ける
Initiative(自発性):自分で目標を見据える
Tenacity(執念):最後までやり遂げる

なぜ必要か?

ベストセラーとなった「やり抜く力 GRIT(グリット)」(ダイヤモンド社)の著者であるペンシルベニア大学心理学教授のアンジェラ・ダックワース氏によれば、素晴らしい業績やパフォーマンスを上げるために必要なことは、才能ではなく「やり抜く力」だと言います。

何か高いレベルのことを達成するには、「スキルを得る努力」「スキルを活用する努力」の2回に努力が必要になります。その努力にかかわるのが「やり抜く力」です。

「やり抜く力」は、次のように示されます。

「やり抜く力」=「情熱」×「粘り強さ」
「情熱」=「興味」×「目的」

一時的に頑張るだけでは「やり抜く力」にはなりません。「粘り強さ」があるのは瞬発力ではなく持久力が重要であることを意味しています。困難があってもへこたれない気持ちが求められます。

また「情熱」とは、単に熱心なだけでなく、長い間1つのことにじっくりと取り組むということです。いくら興味があって好きだと言ってもあれこれ目移りするようようではだめです。そして、そのような「情熱」を持つためには、自分の人生で何を成し遂げたいのか、人生の大きな目標や目的が必要となります。

「人生において高い目標をやり遂げる」「一流になる」ためには、地道な練習や努力の積み重ねが必要です。「1万時間の法則」というものがあります。これは、何事も一流になるためには、1万時間の練習が必要だということです。しかしながら、単に長時間練習すればよいわけではありません。多くの人はその前に脱落してしまいますが、仮に長時間練習してもスキルが頭打ちになってしまう人が多いです。

トップクラスのエキスパートは、単に長時間練習するのではなく、「意図的な練習」を行っているのです。意図的な練習には、次の4つの条件があります。

①明確に定義されたストレッチ目標
今までどおりやれば達成できるような目標では成長はありえません。自分のスキルがアップするような1つの明確なストレッチ目標を設定します。

ストレッチ目標とは、「努力しなければ達成できないような少し背伸びした目標」のことです。たとえば短距離走の選手が今の記録が100m10.3秒なら、次は9秒台を目指すといったことです。なお、目標は具体的に設定する必要があります。具体的でないと自分がどこまで達したか評価できないからです。

②完全な集中と努力
テレビで一流のスポーツ選手の練習を見ると、コーチが付きっきりで指導しているように見えますが、実は1人で練習している時間のほうが長かったりします。練習時間の7割は1人での練習という選手もいます。1人で個々の動作をゆっくり丁寧に確認するためです。

音楽家の場合も、グループや他の音楽家と練習するよりも、1人で練習する時間が多い人ほど、スキルの上達が早いことがわかっています。

勉強や研究などで、教室での受講やディスカッションよりも、1人の時間を多く取るのと同じです。

③すみやかで有益なフィードバック
エキスパートは、自分のパフォーマンスが終わるとすぐに熱心にフィードバックを求めます。特に他人の否定的なコメントを求めます。うまくできた部分よりもうまくできなかった部分を知って克服することを望むのです。

④たゆまぬ反省と改良
改善すべきことがわかったら、ストレッチ目標を完全にクリアできるまで何度も何度も繰り返し練習します。

シーンの場合はどうするか?

ミキオが広告プランナーとしてキャリアを積み、一流の広告プロデューサーになるためには「やり抜く力」が必要です。そのためには、次のことを心がける必要があります。

  • 超一流の広告プロデューサーになるには何年もかかります。よって目標としてはあまり現実感が持てず途中で挫折する可能性が大きいです。大きな目標は、小さな目標の積み重ねによって構成されますから、より現実感のある小さな目標に細分化して、当面はその達成のためだけに集中するべきです。
    たとえば、10年めまでに超一流の広告プロデューサーになるという目標を掲げたら、そのための5年めまでの目標、2年めまでの目標、1年めまでの目標、6ヶ月めまでの目標と細分化するのです。

  • 上司や先輩にこまめに自分の仕事内容を評価してもらい、悪い点についてアドバイスをもらい、自分の悪い点を改善し、それが自然にできるようになりまで繰り返し練習します。

  • 仕事の経験から感じた自分の改善点についてじっくり考える時間を確保します。集中するために退社後や休日に時間を作るとよいでしょう。


・「やり抜く力」=「情熱」×「粘り強さ」
・明確に定義されたストレッチ目標、完全な集中と努力、たゆまぬ反復練習が必要!

7・2・1の法則

【使う目的】自分の力でキャリアを切り開く

シーン
中小の情報システム会社でシステムエンジニアとして勤務するミコは入社4年目を迎え、与えられた業務をそつなくこなせるようになった。同じ部署に後輩も入り、もはや若手ではなく、中堅としての道を歩み始める段階に来たと感じている。
これまで上司や先輩に恵まれ、いろいろと指導をしてもらったが、これからはそうした受身の姿勢ではなく、自分が主体となってキャリアを切り開いていかなければと感じている。
とはいうものの、仕事も淡々とこなすだけで、漠然と時を過ごしてしまっていることも事実である。「セミナーに参加したり、本を読めば何か変わるかしら」とは思っているが、いまだ実行に移していない。
これからクミコが自分で成長していくためには何が必要だろうか?

フレームワークの説明

7・2・1の法則とは、「経験7割、陶酔2割、研修・読書1割」という人材育成の法則のことです。

米国の人事コンサルタント会社ロミンガー社の創業者マイケル・M・ロンバルドとロバート・W・アイチンガーが、経営幹部としてリーダーシップをうまく発揮できるようになった人たちに「どのような出来事や機会が役立ったか」を調査しました。

その結果、「各自が自分の仕事経験を通じて職業能力を開発する機会」がもっとも多く、続いて、「上位者や先輩などから仕事上の体験を話してもらったり、観察したり真似したりして学習する機会」が2割あり、「読書や研修などの教育機会を通じた学習」が1割を占めました。

なぜ必要か?

管理職にかかわらず、ビジネスパーソンには何らかの形でリーダーシップを発揮することが求められます。よきリーダーになるためのキャリア形成の指針となるのが7・2・1の法則です。また、7・2・1の法則は経験の重要さを示すものですが、これはリーダーを目指す場合に限らず、キャリア形成全体に言えることです。

人材育成における経験の重要性を唱える松尾睦教授(神戸大学)によれば、育成に優れた上司の特徴は次の6つになります。

①ビジョン明確化
自分が楽しそうに仕事をし、努力をしている姿を行動で示した上で、部下に将来のビジョンを主体的に持ってもらう。

②目標のストレッチ
レベルの違う目標をバランスよく立てさせ、部下本人の能力よりも少し高い目標を立てさせる。

③相談・進捗確認
進捗を報告させる時間をとり、普段から相談しやすい雰囲気を作ることで、問題を抱え込まないようにする。

④自分で考えることを促進
最大限本人に考えさせ、納得させ、自分で解決できるようになってもらう。

⑤ポジティブ・フィードバック
問題点を指摘しても、プロセスの中でよかった点を見つけてほめたり、普段の仕事で成長した点を伝える。

⑥原因分析と改善策の策定
成功・失敗の原因を考えてもらい、どうすれば出来るようになるか、より合理的な方法がなかったかを考えさせる。

一方、部下が自分の成長のために取り組めることは、次のようになります。

  • 将来なりたい自分を描く
  • 現状に甘んじず適度に挑戦的な目標を掲げる
  • 良き相談相手や同じ目標を持つ仲間をつくる
  • こまめに上司や先輩に自分の仕事のやり方の良い点・悪い点を評価してもらい、アドバイスを得る
  • 成功や失敗の原因を自分でよく考え、次に活かす

さて、キャリア形成の要因で「研修・読書」が1割しかないというと、研修や読書は必要ないと考えてしまうかもしれません。しかしこれは誤解です。

経験から得た知識を体系的に定着させる、あるいは自分の経験からだけでは得られない別の視点や知識を獲得するためには、研修や読書は大変重要です。また事前に研修や読書によって知識があったほうが、経験で得たことをより適切に解釈することができます。

シーンの場合はどうするか?

シーンの場合、おおよそ次のようなアドバイスが考えられるでしょう。

  • 努力すれば達成可能(努力しなければ達成できないような)目標を掲げます。システムエンジニアであれば、まずはITに関する技術・知識が浮かびますが、それ以外にも論理的思考力、コミュニケーション力、対人関係能力も考えられるでしょう。
  • 関係がよい上司や先輩に相談役やコーチになってもらい、自分の仕事についてこまめに報告し、フィードバックを得ます。
  • 自分の視野を拡げるために、たまには外部のセミナーや研修に参加し、新しい知識を得ます。
  • もちろん受身の姿勢だけではなく、自分で経験から得た知識を解釈したり知識を整理したりして、次の仕事に活かします。

・キャリア形成には経験が最も大事だが、教育を受けることで経験をより活かすことができる。
・単に経験すればよいわけではなく、主体的な姿勢が大事!
最速2時間でわかるビジネス・フレームワーク
三枝 元(さえぐさ げん)
ビジネスフレームワーク収集家、中小企業診断士。早稲田大学政治経済学部経済学科卒。大手メーカーでの法人営業、資格指導校での教材作成と教室講義に従事(中小企業診断士講座)。
2015年に独立後は、企業支援、研修・セミナー講師、ビジネス関連の執筆などを行う。得意分野はビジネスモデル・ビジネスプラン、チームビルディング、モチベーションマネジメント、ロジカルシンキング、交渉術、生産性改善、経済学。
著書に「中小企業診断士のための経済学入門」(同友館)がある。

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