(本記事は、松岡 華子氏の著書「すべての女性を幸せにするネイルサロン 開業・集客の方法」合同フォレストの中から一部を抜粋・編集しています)

ネイルサロン
(画像=PIXTA)

銀座に進出!

最初のサロンのオープンから約3年後の2007年12月、株式会社ティアラグレイスを設立しました。ティアラで働いてくれているスタッフや、スクールで次々に育っていくネイリストたちのためにも、多くの場所を作って皆に活躍の場を提供していきたいと思っていました。

本八幡店も市川店も多くのお客様に来ていただき、売上は好調でした。ネイルスクールも、千葉県で初の「JNA認定校」に登録することができ、ティアラグレイスは成長していきました。

その頃の私は、「保育園に通っている娘が小学校に上がる前に、店舗を増やしサロンの経営を安定させたい」と思っていました。小学校に上がってからのほうが、娘の帰宅時間も早くなり、親が参加する行事も多くなるからです。その前に少しでも時間を作れる体制にしておきたかったのです。そんな思いもあって、娘を保育園に預かってもらっている約9時間、私は「人の〝3倍〟動こう!」と心に決めて動きました。

覚悟を決めてからの私は、「ひらめいたアイデアは即行動!」を心がけていました。会社を設立してからの3年間は、3~4カ月に1店舗ぐらいのペースで新店舗をオープンしていました。今思うとすごい勢いですね。

3店舗目は憧れの銀座へ出店しました。

銀座の物件を探すときも、携帯電話を片手に住宅情報サイトで物件を探して、問い合わせては現地を見に行きました。

心魅かれたのは、銀座1丁目の家賃50万円・保証金350万円の物件でした。もちろん家賃は高かったですが、「〝銀座にお店があるティアラで働いている〟とスタッフが喜んでくれるかな」「〝銀座にお店があるティアラへ通っている〟とお客様にもスクール生にも喜んでもらえるかな」という思いもあって、銀座出店を決意しました。

都内に住んでいるスタッフがいたので、その人にお店を任せようという思いもありました。

当時、ネイル業界は成長の真っ只中。サロンを出店すれば利益は出ました。でも、その利益はすぐに次の店舗の出店資金に回していたので、会社に貯金はありませんでした。

ドミナント戦略で相乗効果。地元知名度もアップ!

4店舗目は「実家に近い」という理由で、「アパホテル&リゾート〈東京ベイ幕張〉」内の幕張リゾート店に出店しました。「昔、ここが幕張プリンスホテルだった時代に両親と行ったなぁ~」という懐かしさから、そのテナントにどうしても入りたかったのです。当初、一度申し込みをしたのですが他のテナントに決まってしまい、借りることができませんでした。それでも諦めることができず、担当の方に相談をして、同じフロアの倉庫だった場所を改装してもらって出店をしました。

同じ年の10月には5店舗目の成田店を出店。その間にも、ティアラのネイルスクールからスタッフは育っていきました。私が新店舗を出すタイミングは、「人が育ったとき」です。スクールに通ってネイリストになったとしても、学ぶだけでなく、希望があればティアラのネイルサロンへ優先的に就職をさせてあげたいと思っています。

そして、「この人なら、店長を任せられる」という人が現れれば、また店舗を増やします。「活躍の場を提供したい」と思うのです。下総中山店もそうでした。その後、船橋店、稲毛海岸店と近隣エリアに店舗は増えていきました。

店舗展開も順調に進んでいた2010年8月には、自社ビルを所有することになりました。経緯としては、成田店が入っていたビルは2階でもスクールを展開していましたが、あるとき、ビルのオーナーが自己破産をして競売にかけられたのです。そんなとき、普通は「どうしよう。成田店を撤退しないといけないのかな」と頭をよぎるのかもしれませんが、私が思ったのは「このビル、自分のものになるかも」でした。

成田店は駅から距離もあるので駐車場を併設しているのですが、テナント賃料、駐車場代などをトータルで計算してみたら、そのビルごとローンで購入する場合の毎月の返済額とあまり変わらなかったので、ビルの購入を決意しました。これは一例ですが、競売というピンチの事態も、逆転の発想でチャンスに変えてきたのです。その後も、市川南口店、佐倉店、稲毛店と、千葉県の下総一帯に店舗展開を続けました。

最初から狙ったわけではないのですが、この店舗展開は結果的には「ドミナント戦略」の効果がありました。一つのエリアに集中して出店したため、その開業したエリアの住民の方々に店名を知ってもらう機会が増えて知名度がアップし、そのエリアの市場占有率が高くなりました。近隣店舗間でスタッフの移動がしやすいのもメリットでした。

このように、次々と店舗は増えていましたが、相変わらず、会社の資金は増えませんでした。銀座店は家賃が高く、それほど利益は出していませんでしたが、全店トータルでは何とかなっていました。今でこそ、会社に何かあったときのためにストックもなくてはいけないと思いますが、その頃は「お金を貯めよう」と思ったことはありませんでした。

東日本大震災で、一変した価値観

すべて順風満帆に事が進んでいき、店舗は増え続け、自社ビルも取得しました。「会社の預金は増えないけれど、なんとかなるでしょう」と思っていた私の価値観が一変してしまう出来事が起こりました。

2011年3月11日に発生した東日本大震災です。

激しい揺れの中で、「終わった……」と思いました。建物や地面の揺れでモノが散乱している店内、不安におびえているスタッフやお客様……。そんな光景を想像して、「もう営業はできないかもしれない」という不安が頭をよぎりました。

首都圏も大混乱になった未曾有の大地震でしたから、物理的にも、お客様の心理的にも、世の中はネイルサロンどころではなくなるはずです。売上がなければ、スタッフの給料も新店舗の支払いだって滞ってしまうかもしれません。初めて私が弱気になった瞬間でした。

「うちの会社にはお金のストックはない。今度またこのようなことがあったら、間違いなく会社は立ち直れない。今のような経営ではダメだ……」

この大地震の一撃で、私の価値観が一変しました。

地震の翌日に信じられないような被害状況を目の当たりにして、日本中が非常事態に怯えているなか、「ネイルをしよう」と外出する人なんているわけがないと思いながらも、予約は埋まっていたのでお店を開けました。スタッフも、「家でじっとしているより、仕事をしていたほうが落ち着く」と普段通りに出勤してくれました。

すると、予想に反して、多くのお客様がキャンセルせずに来てくださったのです。

「家にいても悲しい報道ばかりで、つらくなってしまう」
「少しでも気分を明るくしたいから」

お客様は、ネイルサロンに元気と明るさを求めて来てくださったのです。

これほどまでに力があるとは! 私は、このとき「ネイルの底力の素晴らしさ」を目の当たりにし、あらためて「ネイルの力ってすごい!」と感動しました。

この震災は、私が経営に対する考え方を見直すきっかけとなりました。

「早めの撤退」をおそれない

「終わった……」と思ったピンチは、「軌道修正」のチャンスでした。

ここまでのやり方は、〝資金をどんどん新店舗に費やして、新店舗で作った資金をまた次の店舗に導入〟という計画的とはいえない新店舗の出店でした。それと同時に、資金を貯めない経営には問題があります。

今回の地震は何とか乗り切れましたが、次に何か想定外の事態が起こったら、今度こそ、55人(当時)のスタッフを路頭に迷わせてしまうかもしれません。

私には、スタッフを守っていく責任があります。何かあったときでも対応できる会社の体力は必要です。ですから攻めの経営だけでなく、守りの経営も必要であると考えました。

そこで、私は経営の見直しを始めました。具体的には、赤字店の閉店です。今までは売上が多少落ちている店舗でも、他の店舗の売上で全体のバランスを取っている状態でしたが、そこを思い切って見直したのです。震災直後、3店舗の閉店を決めました。

閉店するとき、銀行員の方に言われたことがあります。

「閉店を決めるのが早いですね。〝閉店にするのは恥ずかしい〟という見栄もあって、なかなか閉店の決心がつかない方もいらっしゃいますよ」

確かに、私は「閉店が恥ずかしい」というようなプライドは持っていません。ただ、「やるだけやってダメだったら諦めるしかない。ダメなときは早めに、借金が膨れてしまう前に閉店しなくては」と思っただけです。そして、震災を機に考え方を変えたことで、現実的に数字を見て判断をしたのです。

一方で、撤退が早ければ良いというわけでもないと思っています。「自分がどこまで持ちこたえることができるのか」の限界を見極めた上で、やれることは精一杯やって、しばらく様子をみたほうが良いと思います。それでダメなら撤退です。

すべての女性を幸せにするネイルサロン 開業・集客の方法』
松岡 華子
株式会社ティアラグレイス 代表取締役社長
2004年、当時娘が3歳の時に、ネイルサロン1店舗目を1人でオープンし、スクールも開校。「スクールの卒業生が働けるサロンを」という思いから店舗展開をスタートさせる。現在、ネイル&アイラッシュサロン「ティアラリュクス」18店舗、ネイルスクール4校を経営。従業員数97名(全員女性)に上り、その店舗展開の手腕とスタッフ管理・教育能力が注目されている。独立開業を目指す方の支援セミナーも開催。現在、一般社団法人「神奈川ニュービジネス協議会」の理事を務める。著書に『働く女性が楽しく幸せをつかむ50の法則』(サンライズパブリッシング)がある。

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