今週のマーケット展望」で述べた通り、いまこの時期に発表される経済指標そのものがどんな数字になるかは意味がない。

ADP雇用レポートは市場予想がマイナス15万人だったが実際にはマイナス2.7万人だった。市場予想を「上回った」が、それでマーケットがポジティブに受け止めたかといえばそうではない。これまで伸びてきた雇用が減少に転じたのだ。当然、悪材料だ。しかし、ネガティブに受け止めたかといえばそれも違う。ほとんど反応していないのである。

それも当然だろう。雇用レポートの調査週とNYなどが厳しい外出制限に入ったタイミングとずれているので、この後で、もっと「とんでもない」数字が出てくるのは明らかだから。

今週末の政府の雇用統計もそうなるだろう。今の時期の統計は意味がなく、今後5月~6月の統計が大きなカギとなるだろう。

米国の雇用情勢について - どれくらい悪いのか?

グローバル・マクロ・ウォッチ
(画像=PIXTA)

今週発表される民間の雇用者数はコンセンサスを上回るだろうが(1.2万人増)、それは主にタイミングの問題である。

より重要なのは地域別、業種別の情報である。これにより雇用破壊の波がどのように展開しているかを確認することができる。DeepMacroの日々更新の「ビッグデータ」ソースを活用して、3月の雇用統計の集計期間以降のトレンドを検証する。

非農業部門雇用者数(NFP)の予測 - 雇用者数は減少するが災害級では(まだ)ない

今週末の非農業部門雇用者数の発表を前に、米国の雇用状況をカバーする「ビッグデータ」ソースを詳しく検証する。これらのデータは日次で入手可能であり、これまでに発生した雇用減少の程度や、地域別・業種別の影響について、より微妙なニュアンスを含んだ結論を導き出すことが可能となっている。結論から言えば、雇用者数は1.2万人増と弱い数字になるだろう。これは多くの人が予想しているほど悪くはないが、それは今回の調査週(3月14日終了)が大規模な社会的距離対策が始まる前だったから、というだけに過ぎない。

新型コロナウイルスの労働市場に対する影響を理解するために、米国企業の人事サイトに掲載された求人数の総数と新規求人数の両方の推移を見ていく。総求人数は労働市場の全体的な健全性を示す指標となる。新規求人数は企業の当面の採用計画を示す、より反応の早い指標である。言い換えれば、総求人数の情報からは労働市場における雇用の総量について、新規求人数の情報からはそれがどのように変化しているか、を伺い知ることができる。この2つの情報を合わせて見ることで、労働市場の両方の側面を把握することができる。主な結論は以下の通り。

・数字の弱さが現れ始めたのが(雇用統計の調査対象期間後となり)遅かったため、今週金曜日に発表される雇用統計には反映されないだろう。Figure 1aは2月1日を基準日とした、オンライン上の求人数の減少を示したグラフで、赤線が総求人数、青線が新規の求人数である。縦線はニューヨークを含む多くの主要都市が厳しい社会的距離対策を取り始めた3月14日を示す。求人はこの日まではほぼ堅調に推移しており、14日から16日までは下落していない。事業所給与調査の調査対象期間は3月12日を含む給与期間(週払いまたは隔週払いの場合は14日で終了するのが一般的)となるため、この点は重要である。この期間は急落が起きる前の期間である。

求人数
(画像=マネックス証券)

・一部の業種は、当然のことながら、他の業種と比べて影響が少ない。Figure 1bは2020年2月1日以降の新規求人数の変化率を職種別に示したグラフである。求人数は全体的に減少しているが、一部の業種は他の業種よりも悪い結果となっている。ヘルスケアと清掃・メンテナンス業の求人は他の多くの職種に比べて影響が小さく、エンジニアや金融の求人は特に大きな打撃を受けている。

求人数の変化
(画像=マネックス証券)

・ただし、地域に関しては全ての地域が打撃を受けているようだ。Figure 1cでは2月1日を基準日とした、5つの主要州(ワシントン州、カリフォルニア州、テキサス州、ニューヨーク州、フロリダ州)における新規求人数の推移を示している。いずれの州もほぼ同じような結果となっている。さらに、ニューヨーク州は、ウイルスの被害を最も受けているにも関わらず、他の州よりもウイルス問題による新規求人数の減少の影響を受けやすいわけではないことがわかってきた。このことは、これが地域的な問題ではなく、全国的な問題ということを示している。テキサス州は、ニューヨーク州と比べて新型コロナウイルス(COVID-19)の感染者数が少ないにも関わらず、ニューヨーク州とほぼ同程度の求人数の減少が認められる。

新規求人数
(画像=マネックス証券)

これらのことから、今週金曜日の雇用統計について何が言えるだろうか。

ビッグデータに基づいたDeepMacroの民間の非農業部門雇用者数(NFP)予測は1.2万人増である。COVID-19の時代に入り、雇用情勢は大きく変化しており、先月からの雇用の伸びは急激に低下したと予想している。DeepMacroの予測はブルームバーグ発表のコンセンサス予想である11.7万人減(3月29日午前8:55東部標準時点)を上回っている。今月の予想レンジは特に広い(9.5万人増から66万人減)。調査期間の大部分が比較的好調だった3月上旬にかかっているため、DeepMacroの予測は比較的高くなっている。予測の根拠は以下のとおり。

・コロナウイルスが米国に影響を与え始めた時点では米国経済は堅調に推移していた。(2月の雇用統計は強かった)この見方は、より厳しい社会的距離対策が取られるようになってからの期間をカバーするデータが今後発表されていくにつれ変わっていくだろう。しかし、3月上旬時点で経済成長を取り巻く環境は比較的堅調だった。
・オンライン上の新規求人情報のビッグデータを見ると、新規求人数と取り下げられた求人数は、3月上旬に徐々に減少し始め、月後半に大きく減少した。(Figure 1aを参照) ・3月と2月の調査期間の間における失業保険申請件数の差異から算出された9.8万人分を下方修正した。

広木隆 広木 隆(ひろき・たかし)マネックス証券 チーフ・ストラテジスト
上智大学外国語学部卒業。国内銀行系投資顧問。外資系運用会社、ヘッジファンドなど様々な運用機関でファンドマネージャー等を歴任。長期かつ幅広い運用の経験と知識に基づいた多角的な分析に強み。2010年より現職。著書『9割の負け組から脱出する投資の思考法』『ストラテジストにさよならを』『勝てるROE投資術

【関連リンク マネックス証券より】
昨年度に苦戦した銘柄は
新型コロナウイルスがもたらす経済的ショック ‐ V字回復の可能性は?
株・金利で説明できない米ドル高の理由は?
今週のポイントは主要経済指標への反応と東京ロックダウンの可能性
犬ファースト