自信や安心感も生まれる!
「コーピング」という言葉を聞いたことはあるだろうか? 米国の心理学者であるリチャード・S・ラザルス博士が考案して、1980年代から世界中に広まり、効果が実証されてきたストレス対処法だ。誰でもできるその方法を、専門家の伊藤絵美氏に聞いた。
意図的・戦略的なストレス解消法
コーピングとは、「ストレスに対する意図的な対処」を意味する心理学用語です。
例えば、溜め息一つでも、無意識につくのは単なるストレス反応ですが、気分を変えるために意図してつくならコーピングになります。
その行動自体の良し悪しや、本当に効果があるかどうかは関係なく、ストレスに対処するという意図で行なうことならば、すべてコーピングです。
ストレスを感じたときの自分なりの解消法を持っている人は、すでにコーピングをある程度実践していることになりますが、ここでは、それを体系立てて、戦略的に行なう方法をご紹介しましょう。精度を高めたコーピングはストレス軽減に多大な効果を発揮することがわかっていて、米国の企業や学校ではストレスマネジメントのために広く実践されています。
その方法とは、簡単に言えば、ストレスと対処法のマッチングです。
自分なりの対処法を思いつく限り書き出し、そのメモを持ち歩いて、いざストレスを感じたら、メモの中の方法を一つ実践してみる。効かなければ別の方法を実践してみる。これを繰り返すのだけみの、いたってシンプルな方法です。
ストレスの原因を全部書き出してみる
ただし、その前には準備が必要です。
ストレスに対処するためには、自分がどのようなことをストレスと感じ、その際に心や身体がどのような反応をするのかを理解しておかなければなりません。
ストレスを与える人や物、環境などの「ストレッサー」と、それに対して起こる心や身体の変化である「ストレス反応」の双方をモニタリングしましょう。
まずは、ストレッサーを書き出します。今感じているストレスの原因となった出来事や状況をリストアップしましょう。
このとき、「パワハラ上司」などのわかりやすいストレッサーだけでなく、「部屋が散らかっていること」「身体のかゆみ」「返信をしていないメール」など、日常生活の中に無数にある小さなストレッサーも書き出してください。見過ごしてしまいがちですが、放っておくと蓄積し、「なぜかイライラする」といった原因不明で対処できない厄介なストレッサーになります。そうならないよう、小さな違和感の原因を明確化しましょう。
次に、リストアップしたストレッサーに対する、自分のストレス反応を詳しく書き出します。
ストレス反応には四つの種類があります。
一つ目は「認知」。その出来事や状況をどう認識したか、ということです。例えば、「仕事でミスを指摘された」というストレッサーがあると、「自分はダメだ」「自分にばかり仕事が回ってくるから仕方がない」「他の人なら許してもらえるはずなのに、自分は損をしている」など、様々な思考が次々に湧いてくるでしょう。
二つ目は「気分・感情」です。こちらは頭に浮かぶ思考ではなく、心で感じる感覚です。憂鬱、ショック、むかつく、不信感、くやしい、みじめ、無気力感など、短い言葉で言い切れるのが特徴です。
三つ目は「身体反応」。震える、頭に血が上る、胃が痛む、喉が渇く、などです。身体反応は個人差が大きく、なかなか気づきづらい場合もあるので、無理に多く書き出す必要はありません。
四つ目は「行動」。ストレスを感じたときに、無意識にどんな行動に出ているかをモニタリングします。例えば、うつむく、無理に笑う、カラオケに行く、トイレで泣く、などです。
以上を書き出すと、自分がどういうときにストレスを感じるのか、どう受け止めるのか、傾向性が見えてきます。ストレッサーによってストレス反応が違うことにも気づけます。
このようにモニタリングをするだけでも、少し心が整理されます。書き出す作業そのものが、コーピングとして機能するのです。