(本記事は、原 マサヒコ氏の著書『入社1年目の心得』総合法令出版の中から一部を抜粋・編集しています)

好印象
(画像=PIXTA)

単純な仕事などなく、あるのは単純な思考だけ

とらえ方次第で成長スピードが大きく変わる

会社に入って最初のうちは上司から任された仕事が多く、一見すると誰でもできるような単調で単純な仕事に思うかも知れません。会議の資料をコピーして準備したり、複数人参加する会議のスケジュール調整をしたり、雑務ばかりで理想と現実のギャップに戸惑うこともあるでしょう。人によっては「こんなことをするために会社に入ったんじゃない」と絶望してしまうかも知れません。しかし、すぐにそう考えてしまうのはあまりにも単純なことだと思うのです。

そもそも会社の仕事というのは雑用が多いものです。ただでさえ雑用ばかりなのですから、入社1年目の新人が任される仕事はほぼ雑用だと思って間違いないでしょう。ただ、その雑用を「単純な仕事だ」ととらえるか、「頭を使って工夫する余地があるのではないか」「もっと改善できるところがあるのではないか」ととらえるかは自分次第です。そのとらえ方によって、仕事にどう取り組むかが変わり、それによってあなたの成長スピードが大きく変わっていきます。

考え続けることで仕事の改善力は高まる

例えば部長達が集まる「部長会議」の会議資料をコピーするよう頼まれたとしましょう。単なるコピー取りとも思える仕事ですが、「コピーしまくるためにこの会社に入ったんじゃない」などと不貞腐(ふてくさ)れてしまうのは愚の骨頂なのです。コピーを取る際には、次のように気にしなければならないことがいくつもあるのです。

①部数は何部必要なのか
「何も言われなかったから1部でいいや」とか「部長は5人だから5部でいいだろう」などと自分で判断してはいけません。必ず部数を確認すべきです。
②片面印刷か両面印刷か
用途によってふさわしい印刷方法が変わります。社内用ならば裏紙コピーを推奨している場合もありますが、社外の人を交えてディスカッションをするなどという場合には片面印刷で用意することもあります。こういったことも事前に確認したほうが良いでしょう。
③用紙サイズ
一般の書類はA4で印刷しますが、プロジェクトの工程表などはA3で印刷するなど、異なる大きさが求められることもあります。しっかりと確認しておきましょう。
④綴じるか綴じないか
複数枚がセットになっている資料の時、ホチキスなどで綴じることが求められる場合もあります。その時は、「どこで綴じるのがベストなのか」もケースバイケースです。基本的に縦書きの書類は右綴じ、横書きの書類は左綴じが多いですが、資料の用途によってはそぐわない場合もあるので、確認が必要です。また、あとから資料が追加されていくケースなどホチキス留めがいらない場合も考えられますので、注意すべきでしょう。
⑤カラーコピーかモノクロコピーか
コストを重視して一般的にはモノクロが使われますが、お客様向けの資料や「色」を見せなければならない場合にはカラーコピーが使われます。用途によって変わりますので、確認の必要があるでしょう。

以上が資料に関して考えるべきことですが、これだけではありません。コピーを取りながらほかにも考えられることはたくさんあります。一部、例を挙げてみましょう。

  • 必要な部数を確認したあと、予備の資料が必要ないか考える
  • 全体のバランスや字の濃さなど、より完成度の高い資料にする方法を考える
  • 会議内容や参加者、決定事項。そしてそれは会社にどのくらい影響するのかを想像する
  • 資料を閲覧し、部長たちが会議でどのような話をしているのかを自分なりに考える
  • 上司のスケジュールから会議があることを把握し、先手を取って動けないかを考える
  • そのほか、会議資料に目を通し、段取りなど自分にできることがないか検討する
  • コピー用紙が少なかったら補充を検討する。また、置き場所がベストか再考する

など、ほかにもあるかも知れませんが、こう書いてみるだけでも「コピー取り」の奥深さがおわかりではないかと思います。逆を言えば、コピー取りひとつ真剣に取り組めない人には、もっと責任のある仕事など回ってくるはずもないのです。これはコピー取りに限らず「名刺を管理しておいてくれ」「来客が来たからお茶を出してくれ」などの依頼の場合でも同様です。

どんなに簡単そうな雑用であっても、「上司にはこう指示されたけど、こうするともっと良くなるんじゃないか」と考え続けることで仕事の改善力は高まっていきます。そうすると単なる雑用であっても「あなたに頼むと質が良いし、仕事も速いな」ということになり評判を呼び、さらにレベルの高い仕事が集まってくるようになっていくのです。つまり、「目の前の雑用にどう取り組むかが将来の大きな仕事につながっている」ということを忘れてはいけません。

ヒューレット・パッカードの会長兼CEOであったカーリー・フィオリーナさんは、もともと受付嬢からキャリアをスタートしています。受付嬢が会長にまでなったというのは、きっと前述したような意識で日々の仕事に取り組んでいたはずです。

スケジュール
(画像=PIXTA)

脳みそを過信するな、メモを取れ

メモを活用する

皆さんの世代では若いうちからガラケーやスマホを使っていると思います。「紙に何かをメモする」という行為があまりないかも知れません。しかし、社会人としてはメモを取ることをぜひ積極的に行っていただきたいと思います。その理由として、次のようなことが挙げられます。

①タスクを忘れない
仕事をしていて問題となってくるのは、タスクなどのやるべきことを忘れてしまうことです。私たちの記憶は、自分ではコントロールできない部分が多々あります。例えば、「〇〇を取りに行こう」と思って歩き始めたのに、途中で「何を取りに来たんだっけ?」と忘れてしまうことがあります。これは別に年老いているからというわけではありません。誰かに話しかけられたり、電話がかかってきたり、考え事をしたりして、最初にやろうとしたことを忘れてしまうのです。

職場というのは本当に邪魔が多いので、これは誰にでも起こることです。たったひとつのことでも確実に覚えておくことが難しいのに、数多くのタスクをずっと意識していることなど不可能と言えるでしょう。期限間際になって急に思い出して、バタバタと慌(あわ)ててしまうことにもなります。ですから、忘れないためにメモに書き留めておくことは、仕事の基本であり必須です。さらに、手書きをすることで「脳が記憶しやすくなる」という効果も期待できるでしょう。
②脳内にスペースができる
逆に、「忘れたいのに忘れられない」という問題もあります。例えば、あるタスクに取りかかっている時に、ほかのタスクのことが気になって集中できないケースです。思い出さなくてもいい時に、余計なことを思い出してしまうことがありますが、こうなると目の前のタスクに集中できず、仕事の効率としても良くありません。ほかにも、常に頭の中で「あれもやらないと、これもやらないと」と、色々なタスクを考えてしまい、焦ってしまう人も多いでしょう。これも集中の妨げになるので、焦っている割には仕事が進んでいなかったりしてしまうのです。

皆さんが仕事に慣れてくれば、タスクの数は増えていくのが当然の流れです。仕事の内容によっても異なりますが、常に50個くらいのタスクを抱えているという人は珍しくありませんし、忙しい人なら100個以上に達することもあるでしょう。そんなに多くのタスクを、都合の良い時にだけうまく思い出せるはずがないのです。このような問題を防ぐために、タスクやアポイントなどの用件を頭の外で「可視化」するためにメモを取るのです。自分の頭で覚えておこうとするのではなく、外付けのハードディスクに記憶させておくようなイメージです。
③言語化によるクリエイティブ効果
仕事をしていると、誰しもが頭の中で「こうしたほうが良いのでは」とか「こんなサービスがあると良いかも」といったことを考えます。しかし、それは形になっていないものがほとんどで、会議などで発表するほどのものではなかったりします。それらをメモに書いておくことでひとつの情報として認識できるようになります。認識できると今度は「もっとこうしたほうが良い」といった改善策もぶつけることができるようになっていきます。いわゆる「ブラッシュアップ」という動きです。ブラッシュアップしていくことで、サービスやアイデアというのは形になっていくものです。

そんなブラッシュアップを頭の中で考えて終わらせているのはもったいないです。まずはメモに書いて言語化していくべきでしょう。時に、メモに書いたものを眺めているだけで新たなアイデアが浮かぶこともあります。アイデアというのはゼロから生まれるのではなく、「異なる要素のかけ合わせである」とよく言われます。まさに、メモによる言語化でかけ合わせが起こりやすくなる土台が作られます。気になったことや頭に浮かんだことをどんどんメモする習慣があることで、クリエイティブなものは生まれやすくなるのです。
④自分自身や状況を客観視できる
私が勤めていた職場に尊敬する先輩がいました。その人はどんな状況でも冷静に判断して的確な指示を出していました。その先輩に、「どうしたらそんなに冷静でいられるのか」と聞いてみたところ、「メモをする習慣のおかげだ」という答えが返ってきました。何かネガティブなことが起こったり、大きな動きがあった時に、感じたことをひと言でもメモに書いているそうなのです。

仕事をしていると感情的になってしまうことは多々あります。しかし、そこで感情に任せて動いてしまうとあとで取り返しがつかなくなってしまうケースもあります。感情に任せず、自分が感じたことをメモすることで客観的に自分を眺めることができるというのです。まるでドローンで自分自身を斜め後ろから撮影しているような感覚でしょうか。

そんなクセがつくと、色々な気づきを得ることができるようになると言います。「彼にはこんな言葉をかけたほうが良いんじゃないか」「ちょっと疲れが溜まってきたようだから休んだほうが良いかも知れない」など、勢いだけで行動せずに冷静な判断ができるようになっていくわけです。
⑤文章作成スピードの向上
仕事の時間で最も多いと言えるのがメールを書く時間です。文章を作成するのにどうしても時間がかかってしまうという人がたくさんいます。私の場合、移動中にメールを確認したら、すぐに返信すべき内容をメモに書いていきます。メールの文章を書くのではなく、「何を伝えるべきか」という要点を箇条書きでメモしていくのです。実際にパソコン前でメールを書く時には、そのメモを見ながら流れに沿って要素を盛り込んでいけば良いので、普通にメールを書くよりも速く作成することができています。

これは、プレゼン資料などを作る時も同じ要領でできます。いきなりパワーポイントなどのソフトを立ち上げるのではなく、まずは手書きメモで何をどんな順番で伝えていくべきか考えて書いていきます。そこでメモの内容が固まったら、パワーポイントなどのソフトで完成させるわけです。こうすることで、速く、より伝わりやすいものが作られているように思います。ぜひ、メモを活用していきましょう。
入社1年目の心得
原 マサヒコ
プラス・ドライブ株式会社 代表取締役。1996年、神奈川トヨタ自動車株式会社に現場メカニックとして入社。5000台もの自動車修理に携わりながらも、技術力を競う「技能オリンピック」で最年少優勝に輝く。さらに、カイゼンのアイデアを競う「アイデアツールコンテスト」でも2年連続全国大会出場を果たすなど活躍。活動の場をIT業界に変えると、PCサポートを担当したデルコンピュータでは「5年連続顧客満足度NO.1」に貢献。インターネットベンチャーや1年間のニート、フリーランスなどの経験を経て2015年にライティングに特化した会社を設立し、現在は多くのクライアント先に対して付加価値を提供している。また、全国から講演依頼を年間で50回以上受け、「トヨタの現場ノウハウ」や「若手のキャリア構築」について講演することをライフワークとしている。著書に、『人生で大切なことはすべてプラスドライバーが教えてくれた』(経済界)、『どんな仕事でも必ず成果が出せる トヨタの自分で考える力』(ダイヤモンド社)、『Action!トヨタの現場の「やりきる力」』(プレジデント社)などがある。

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