(本記事は、本間卓哉氏の著書『売上が上がるバックオフィス最適化マップ ーーテレワーク・コスト減・利益増・DXを一気に実現する経営戦略』クロスメディア・パブリッシングの中から一部を抜粋・編集しています)

実際のところ、IT投資っていくらやればいいの?

ビジネスウーマン
(画像=PIXTA)

多くの経営者は業務改善をする場合、「投資対効果」を気にします。

しかし、最新のITシステムの多くは、月額料金制のツールが多く、ひと目でパッと金額がわからないことも多くあります。そこでこのような相談がなされるわけですが、正直なところ、その場で具体的な回答を出すのは難しいのです。

なぜなら、そのためには、「IT活用の設計図」を考える必要があり、それは実際に現場をある程度見なければ描けないものだからです。

ただ、第1章でも触れたように、最新のITシステムによるバックオフィス最適化に必要な金額は、その機能を考えれば割安と言い切っても差し支えありません。

私がよく指標として言っているのは、「1人あたり月5,000円あれば、社内の環境はとても良くなる」というものです。

一部の営業管理システム等を除けば、本書で紹介したツールのほとんどは1人あたり月数百円~1,000円程度で利用できます。名刺管理・勤怠管理・経費精算・給与計算などをシステム化して、グループウェアとChatworkやSlackなどのコミュニケーションツールを入れても、おそらく5,000円行くか行かないか、といったところです。かく言う私自身も、システムの月額利用料が5,000円程度です。これだけのツールがあれば、ムダな作業が大幅に減ります。人件費や紙代、印刷代などが減ることで、月に数千円の経費が増えるどころか、トータルでは利益を上げられます。

高額なツールを使うにせよ、たとえば営業管理システムのSalesforceで最も利用されるプランの「Enterprise」は月額1万8,000円ですが、営業担当者が使えばよく、全従業員が導入するツールではありません。

また、高額なツールにはそれだけの理由があり、すべての企業が高額なツールでしか担えない機能を必要とするわけではありません。営業管理なら、Zoho CRMで過不足なくできる企業も多いです。Zohoで最も利用される「エンタープライズ」なら月4,200円で利用できます。

企業によっては、インフラ整備やウェブマーケティングのために、大きな初期投資が発生する可能性はあります。

ただ、そのような投資が必要な企業というのは、裏を返せば、「それだけの投資をすればバックオフィス最適化を実現できる」ということであり、経費削減や売上アップで利益を出す期待値が高いということです。

その上、社内サーバーを導入したり、イチからウェブサイトをつくることになったりしたとしても、その出費は中小企業の場合、最大でも数百万円の範囲に収まるはずです。

たとえば、これまで通りの環境をベースに業務改善をしようと、新しく基幹システムを開発するとすれば、場合によっては数千万円単位、企業規模によってはそれ以上の開発費がかかります。そして、その基幹システムが、各種ITシステムの活用以上の効果を出せない可能性も、個人的には少なくないと考えます。

これら諸要素を鑑みれば、少なくともひと昔前のシステム投資に比べれば、金額も安く、投資対効果は高くなるでしょう。

クラウド系と社内にサーバー置くのってどっちがいいの?

この質問は、オンラインストレージサービスの利用に限った話ではありません。

「ポストモダンERP」のコラムでも触れましたが、基本的にはクラウド上で利用されるシステムでも、クライアントの社内サーバー上で運用(オンプレミス)できるものも多々あります。

クラウドで使えるツールをオンプレミスで運用する最大の利点は、自社サーバー上にシステムを構築する際に、自社に合ったカスタマイズができる点です。ただ、その分設定・導入費用はかかるので、クラウドツールほどの割安感はありません。

また、専門家のサポートがあったほうが安心ですが、クラウド版でもたいていのツールはある程度のカスタマイズが可能で、オンプレミスでなければできない、というわけではない点にも注意が必要です。

そして、このような質問をされる方が想定しているのは、セキュリティ面の不安であることが多いのですが、すでに述べたように、セキュリティを気にするならクラウドが安心です。

専門的な知識を持つスタッフが常に対応し、必要なアップデートはシステム側で対応してくれます。

サーバーにもしものことがある可能性は、クラウドツールのサーバーにも、社内サーバーにも言えることですが、保守管理の質が高いのは間違いなく前者ですし、複数拠点のサーバーに暗号化したデータを分散しているので、仮に1つの拠点に天変地異があったとしても、問題なく運用できる可能性が非常に高いです。逆に、社内サーバーのみの運用は、そのような非常時の対応に不安があります。

IT資産管理についての説明等で触れたように、何となく「クラウドだとこんな不安があるのでは?」と素人目に見える要素の対策は、ほぼすべて準備されていると考えて大丈夫です。

ただし、当然ながらすべてクラウドが良い、というわけではなく、一長一短はあります。

どこからでもアクセスでき、情報の共有が簡単なクラウドですが、ファイルが遠く離れたサーバー上にあるので、重いファイルだとファイルを開くのに時間がかかる場合もあります。

従業員が使用しているPCやスマートフォンのログを取るために、その作業内容を記録するべく常時通信する必要があるIT資産管理ツールは、かなりの通信量が発生するので、第2章でも述べたように、一定以上の従業員数の企業だとクラウド版が利用できません。コラムで触れたWSUSも、自社サーバーでの運用が前提となっています。

裏を返せば、映像データなど、大きなファイルをよく扱う企業の場合は、社内サーバーを導入するメリットは大きいです。ただ、その場合も小さな確認用ファイルはクラウドで共有するなど、併用していいとこ取りをするのがベストです。社内サーバーにある大きなファイルのバックアップをクラウドに保存する―といった使い方も考えられます。

また、士業などでは、専用の共有ソフトを使って、ファイルが流出しないように外部とのネットワークを遮断することもあります。小規模でも、機密性が求められる情報を扱う企業は、社内サーバーの導入を検討してもいいでしょう。

コミュニケーションツールが煩雑化している今、どうまとめればいい?

電話とメールしかなかったところに、メッセンジャーやチャットツールが登場して、またたく間に普及しています。

バックオフィスの業務改善にITシステムを使うイメージはない方も、家族とLINEをしたり、名刺交換した人とFacebookメッセンジャーでやり取りしたりと、その圧倒的な便利さを肌で感じているので、「チャットツールを使っている」という企業は多くあります。

しかし、繰り返しになりますが、「何を使ってもいい」という話ではありません。部門の壁を超えてバックオフィス最適化を図るには、社内のコミュニケーションツールを1つに統一することが大切です。

ここで大切なのは、「何を使うか」よりも、まず「有料版を使う」ことです。

無料でも十二分に使えるツールばかりですが、仕事の生産性を上げるためには、有料版のみの機能が大きくモノをいいます。ここは経営にとって必要な投資だと認識してください。

特に、第2章でも述べたように、社内の統一ツールをLINEにするなら、絶対にビジネス版のLINE WORKSを導入しましょう。プライベートでほとんどの人が使うLINEに仕事のやり取りを混在させるのはセキュリティ面で大変なリスクがあります。

その他のチャットツールにしても、必ず、社内の責任者が、他の従業員のアクセス制限やアカウント削除をできる機能を持つものを選びましょう。

また、プライベートとの切り分けも含めて、チャットによるコミュニケーション方法をしっかりと決めてルール化しておくことも大切です。

近年、社内SNSをコミュニケーションツールとして効果的に使っている企業も増えていますが、当然ながら社外の人は利用できないため、社内SNSとチャットツールを併用する企業も多くみられます。

ChatworkやSlackが存在感を発揮しているのは、外部とのコミュニケーションツールとしての使い勝手の良さだと感じます。今後は、社外とのコミュニケーションもチャットで行うケースがどんどん増えていくと考えられます。そのため、チャットのルールについては、「社外との利用方法」も決めておくべきでしょう。

バックオフィス最適化マップ
本間 卓哉
1981年秋田県生まれ。一般社団法人IT顧問化協会 代表理事、株式会社IT経営ワークス 代表取締役、株式会社DXソリューション 代表取締役。使命は「人×IT=笑顔に」。中小企業に向けて、その企業に適切なITツールの選定から導入・サポート、ウェブマーケティング支援までを担うITの総合専門機関として、「IT顧問サービス」を主軸に、数多くの企業で業務効率化と売上アップを実現。これらのノウハウを共有し、より多くの企業での活用促進を図るために、2015年にIT顧問化協会(eCIO)を発足。「経営にITを活かし、企業利益を上げる架け橋に」を理念に、専門家向けにeCIO認定講座を開始。これにより、IT活用の専門家ネットワークを形成し、IT活用・デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進を望む全国の企業からの相談を受け、中立的な立場で的確な支援ができる体制を構築している。2020年には、経済産業省より「情報処理支援機関(スマートSMEサポーター)」として認定を受ける。著書に『全社員生産性10倍計画』(クロスメディア・パブリッシング)などがある。

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