(本記事は、本間卓哉氏の著書『売上が上がるバックオフィス最適化マップ ーーテレワーク・コスト減・利益増・DXを一気に実現する経営戦略』クロスメディア・パブリッシングの中から一部を抜粋・編集しています)
「仕方ない」と諦めていることは、意外とITで解決できる
本書の最後となるこの章では、発展編として、本書で紹介したITシステム等を導入するだけでなく、「業務の最適化」を常に意識し、必要に応じて使用ツールを変更・アップデートできる企業文化を育てていくために必要な考え方をお伝えしていきます。
まず大切なのは、「ムダな作業」を探す意識です。
大前提として、先にも少し触れたように、その意識が間違った方向に伸びてしまい、システム化する必要のない作業をIT化するようでは問題です。「明らかに手間だ」と感じられる作業の多くは、IT活用でカットできる時代になっています。
効率性に疑問がある作業があったら、調べてみる。たとえITシステムを使っていても、その意識を忘れてはいけません。今使っているツールが陳腐化して、その点を解決している別の新ツールがリリースされている可能性もあるのですから。
いったんIT導入に成功しても、それがゴールではありません。大切なのは「ベストなIT活用の実践」です。時代や環境が変化すれば、システム運用のベストな形も変化していきます。
そして、IT活用の推進には、現状の問題点を探すことと同じくらい、あるいはそれ以上に、新システムを導入するための根回しが大切です。
他の章でも少し触れましたが、IT導入を進めると、必ず反発は出ます。これからIT活用を進めていきたい企業のみなさんも、それは覚悟してください。気の持ちようで対応の難易度は大きく変わるので、わかっていれば事前の準備や対処のしようもあります。
私たちeCIOの仕事でも、ベストなIT活用の環境を考え、バックオフィス最適化のマップを描くのが最大の見せ場ではあるのですが、社内をどう説得するか、どうやってIT導入の機運を高めていくかも重要な業務になります。
経営者はどう社内をまとめていけばいいか
では、どうやって社内をファシリテートしていけばよいのでしょうか。
経営者目線では、「現場を理解し、寄り添う姿勢」が大切です。
経営者がIT活用したいと思っているものの、「でも、現場が動いてくれないから……」と悩んでいる企業は少なくありません。しかし、その原因が現場だけでなく、経営者ご自身にもあるケースが多々みられます。経営者が「ITでこれを変えたい」と言って、現場が「やりましょう!」と応じてくれるなら話は簡単ですが、単に「変えたい」と言うだけでは反発を招くこともあるのが実情です。
よくある理由は、経営者が「効率化したい」という業務フローを考えたのが、本人であることです。そのため、生産性の低さを問題視する物言いをするだけでは、「そのやり方を構築したのは社長ですよね」という不満を持つ人が出てくるのです。
そもそも、問題解決のビジョンを、経営者やITの専門家のように明確に持っていなくとも、現場で働く方々も社内のさまざまなところに問題を感じていることは多くあります。
しかし、何かしらの変えられない理由があるからそのままになっている。それは、変革に反発する人の存在であるかもしれませんし、経営者の無理解であるかもしれないのです。
たいていは、どこかで矛盾やギャップが生じています。現場目線でよく伺うのは、「社長が効率化しろ、と言うので案を提出したら『投資対効果は?』『そこがクリアできないとお金は出せない』などと言われる」―といったお話です。もちろん、大金をかけてあまり効率化できないプランでは問題ですが、そのようなことを言われると、現場も「それならこのままでいいよ」と思ってしまうのが人情です。
単に「効率化したい」というのは経営ビジョンではありません。すべての人がそう思う、当たり前のことです。経営者が現場を変えたいと思うなら、そのための武器や機会を与えてください。「効率化したいから、提案とデータを持ってこい」で済むのは、よほど風通しのいい企業か、ITに詳しい優秀な人材の多い企業くらいです。大切なのは、経営者や責任者が現場に歩み寄ることです。
「今の状態は問題がある。その責任は私にあります。どうにか効率化していきたいので、みんなで課題を共有して、どのように変えていけばいいのか、きちんとコンセンサスを取った上でやっていきたい」
このような態度を示し、現場から提案をどんどん吸い上げましょう。
そして、上がってきた提案は先入観なく見ていく。その上で、効果のありそうな気になるツールがあれば、その段階で投資対効果を検討してください。そこでも、上から押し付けるのではなく、「いい提案だと思うので、投資対効果を具体的に検討してほしい」と依頼しましょう。
効率化が必要なオフィスなのですから、現場のみなさんは日々の仕事に追われています。そのため、そこに歩み寄る姿勢を見せることが大切です。場合によっては、経営者自ら調査してもよいのです。
加えて大切なのは、ファシリテートによって多数派を形成する意識です。
どれだけ丁寧にプロセスを進めても、現状のままでよいのでは、と考える人はいます。それでも、IT導入をするべきだ、という意見が多数派になれば説得できます。
みなさんが現場で働く立場で、自社でIT活用を進めたい場合は、特にこの意識が大切です。
社内で少数派の意見では、経営者を動かせません。また、多数派というのは人数だけでなく、「声の大きさ」という基準でも考えられるので、理解のある経営者なら、先にトップを口説くのも効果的です。
私たちがお手伝いする事例でも、現場に根気よくIT導入のメリットをお伝えして、機運を高めていくのが初期の重要な業務になります。
―と、ここまで説明してきましたが、eCIOにご相談を寄せられる企業や経営者は、基本的に意識が高く、現場の問題点を認識されていることがほとんどです。
問題は、そうでない経営者や従業員の方々が少なくない点です。ムダな作業をムダだと客観視できるのも、ある程度の知識あってのものです。そのような企業において、経営者や現場の理解を得ていくのは簡単ではありませんが、方法論としては「コスト意識に訴えること」をおすすめします。
「裏紙を使う」は真の解決になっているか?
日本企業は、経営者も従業員も、節約意識の高い人が多いと感じます。これは長所でもありますが、短所でもあります。たとえばコピーに裏紙を使うことがあります。それ自体は悪いことではないのですが、そもそも紙やコピー自体を使わずに済む方法がたくさんあるのが今の時代です。ところが、「裏紙を使う」こと自体が、紙ベースの仕事目線ではコスト削減につながるので、それを疑う意識はなかなか生じません。
そういった習慣に、今はそれ以上にコスト削減につながるツールがあり、使用料はかかるが、それ以上のメリットが見込めるのだ、と伝えていけば理解は得られやすくなります。
先ほども述べたように、単に効率化したい、というのは当たり前の考えで、効率化を果たせるのであれば、その分費用面などの負担があるのが普通です。
しかし、近年のITの進化のスピードがあまりに凄まじいために、IT活用が進んでいない企業においては、利用料こそ発生するものの、業務の最適化に加えて、利用料以上の経費削減や売上アップすらも実現可能な状況になっています。
そんな企業の場合、IT導入に苦労はあると思いますが、それを乗り越えられればメリットしかありません。
「スピードアップ」よりも「なくせないか」を考える
IT活用できそうなムダな作業について考えるとき、大切なのは「仕方ない作業」ではなく「変えられる作業」と考えることです。
「ムダな作業の効率化」と言うと、その作業のスピードアップや自動化を思い浮かべる人もいますが、正解は「その作業をしないこと」であるかもしれません。
やらなくていい作業をスピードアップしても、ムダであることに変わりはありません。
私がバックオフィスの〝最適化〟という言葉を使っているのもそのためです。探すべきは、「ムダな作業を最適化すると、どんな答えになるのか」なのです。
そして、変えられそうなムダを探すときも、コストの感覚が役立ちます。
単に「ムダが多い」では抽象的すぎるので、どんなムダが多いのか、解像度を上げて考えていき、そのムダな作業を変える方法を探します。
その上で、コストの減らし方を検討してみましょう。たとえば紙を使う作業なら、紙の枚数を減らせれば紙代やインク代の節約になります。地球環境保全にもつながります。ただ、それ以上に削減できるのは、そもそも紙を使わないことです。それなら、「紙を使わない方法はないだろうか?」と考えてみましょう。
他にも、交通費の出費が多いなと思ったら、そもそも移動をしないでいい方法を検討する。先方に出向かずとも、ウェブ会議で済む議題もあるのではないかと考えたり、役所などに行く回数が多ければ、電子申請が可能になれば、システム利用料はかかっても結果的に交通費や紙代が減って得をする上に、業務も楽になるのでは―などと考えるわけです。
コスト削減の道筋が見えたら、実現方法を検討します。
その答えが、IT活用とは限らないこともあります。電車代のかかっている用事が、社用車を使う営業マンが、業務のついでにできるものと判明するかもしれません。
バックオフィス最適化の答えが、そのようにシンプルで、すぐに対応できるものである可能性もあります。IT導入に苦手意識がある方は、ぜひ「変えられそうな作業」について考えてみてください。
それに、考えに考え抜いた上で、ITを活用しないと今の問題点は解消できそうにないと思うものの、「それなら現状のままでいい」と思うなら、それも1つの立派な結論です。
大切なのは、現場が「仕方ない」と半ば諦めながら働くのではなく、納得しながら働けることです。同じ仕事の進め方でも、現場が納得してそれを選んでいるなら、それだけで生産性は上がるでしょう。