コロナ、離婚…法律トラブルの駆け込み寺
コロナをきっかけに巷にはさまざまなトラブルが急増している。
イベント会社に勤務する山口さん(仮名)は、結婚式の二次会を予約していた客とトラブルになったと言う。コロナのため延期をしたいというが、その日は予約で埋まっていた。だったらキャンセルをしたいが、「コロナが原因で自分達には非はないからキャンセル料は払わない」というのが客側の言い分だ。
駆け込んだのは東京・千代田区の丸の内ソレイユ法律事務所。中里妃沙子弁護士がまずは契約時の書類を確認。そこには「天変地異など、契約当事者のいずれにも原因がない理由の場合、解約は相談」と書いてあった。中里弁護士の見解は「コロナは『いずれにも原因がない理由』ではない。日本では自主規制に尽きていて、やろうと思えばできた」。「法的には客にキャンセル料を請求できる」という判断だ。
後日、山口さんは弁護士の見解を客に伝え、別の会場を用意する事で和解。弁護士のおかげで一件落着した。
法律トラブルは年間1600万件も起きているが、弁護士に相談する人はわずか2割。業界では「2割司法」という言葉もある程で、8割は問題を抱え込んでいるのだ。
山口さんは今回、初めて弁護士に相談したが、中里弁護士にたどり着いたのは弁護士ドットコムから。日本の弁護士はおよそ4万2000人。その半数が登録しているサイトだ。サイトでは離婚・男女問題、借金、相続など、その分野に詳しい弁護士を検索できる。その弁護士の経歴や相談した人達の口コミも書き込まれている。
中里弁護士の口コミは「丁寧に話を聞いてくれて分かりやすい言葉で話してくれる」とある。これを見て山口さんはアポを取った。「飲食と同じでクチコミ等を比べられるのがいい。(弁護士を)身近に感じられた」と言う。
弁護士ドットコムでもっとも利用されているのが「みんなの法律相談」というサービス。匿名で悩みを投稿すると、その問題に詳しい複数の弁護士が回答してくれる。料金はパソコンなら無料、スマホでも月額300円で誰でも見ることができる。
東京・品川区の「鈴木法律事務所」の鈴木克巳弁護士。5年前に独立して個人事務所を開き、弁護士ドットコムに登録。「みんなの法律相談」にはこれまで4000件以上、回答したと言う。
「回答させて頂くことによって、『鈴木弁護士はここに注力していて、こんな人柄で、じゃあ頼んでみよう』と、顧客がいらっしゃることもある。感謝しています」(鈴木弁護士)
実際、鈴木弁護士が依頼される仕事の7割はこのサイトを通じたものだという。
ちなみに弁護士ドットコムには弁護士は基本、無料で登録できる。さらに有料登録すれば手厚く紹介してもらえる。
国民的なサービスになりたい~時価総額2800億円に
SNSでのトラブルを抱える人は増え続けている。
小沢一仁弁護士は、SNSの誹謗中傷事件を幾つも解決してきたこの分野の第一人者。
「インターネット上でリンチを受けると、外部が想像するのと比較にならないぐらいご本人は悩む。そういう人に声をかけたことで救われたのであれば良かったです」(小沢弁護士)
このサイトを運営している会社は同名の弁護士ドットコム。創業16年のIT企業だ。
社長の内田陽介(43)は、「大きくは国民的な会社、国民的なサービスになりたいという思いがあります。110番、119番、弁護士ドットコムと言っているのですが、困ったら弁護士ドットコムに行けば解決される。それぐらいの信頼感、認知度のある会社になっていたい」と言う。
内田自身は弁護士でも法律の専門家でもない。大学を卒業後、三菱商事に入社するも、大企業でやれる事に疑問を感じ半年で転職、ベンチャーキャピタルに飛び込んだ。そこで送り出された先がまだできたばかりだったネットベンチャー、「価格ドットコム」。家電などを販売価格で比べられるおなじみのサイトだ。
当時はまだ社員5人の小さな会社。内田は「世の中を変えるサービス」と入れ込み、ネットサービスの大手に育て上げた。その後も「みんなのウェディング」など人気サイトの会社を率い、2017年、弁護士ドットコム社長に就任した。
「たぶん僕らでないとできないようなサービスを出している。今後こういうサービスはとてつもなく伸びる。無限の可能性があると思っています」(内田)
弁護士ドットコムが提供するのは法律相談のサービスだけじゃない。選ぶのが難しいと言われる税理士の紹介サイト「税理士ドットコム」や、面倒なハンコの商習慣に革命を起こす新たなネットサービスも展開。期待感から時価総額は2800億円に跳ね上がった。
さらばハンコ~簡単&便利で急成長
弁護士ドットコムの創業は2005年。生みの親、弁護士の元榮太一郎は、弁護士といえば紹介が常で「一見さんお断り」という業界を変えたいと思った。そこでヒントにしたのが比較サービスの「価格ドットコム」だった。
「弁護士をインターネットで比較検討できたり、気軽に相談できる場所があったら便利なんじゃないかなと」(元榮)
最初は登録してくれる弁護士も少なく、ひたすら弁護士事務所を回り、説得する日々。だが、断られ続け、知り合いに頼み込み、なんとか200人に登録してもらったが焼け石に水だった。説明会を開こうと弁護士事務所1万5000軒にファックスを送ったが、当日やってきたのは一人だけだった。
こんなやり方でなんとか登録弁護士を増やし、アクセス数も月間100万件を突破!
2014年には黒字化を果たし、東証マザーズ上場を果たした。
そんな弁護士ドットコムに2015年には強力な仲間が加わる。サイトのお手本、「価格ドットコム」で活躍した内田を呼び入れたのだ。
その後、内田体制となり、弁護士ドットコムの新たなサービスがビジネス界に革命を起こそうとしている。それがCMでもおなじみの、ハンコを押す契約書を作らない電子契約サービス「クラウドサイン」だ。
「契約書の課題をウェブで解決できたら、多くの方が喜んでくれるはずだと」(内田)
産業廃棄物の処理を行っている東京・大田区の東港金属。社内にはとんでもない量の契約書を保管する部屋があった。産業廃棄物を処理する際は、必ず事前に契約書を取り交わさなければならない。それが月に500通にも及び、しかも5年間保存の義務まである。
こんな状況を変えたいと一年前、弁護士ドットコムの電子契約サービス、クラウドサインを導入した。
紙の契約書の場合はプリントして製本。印紙を貼ってハンコを押し、郵送。相手がハンコを押して送り返してくるまで待たなければならなかったが、クラウドサインならそんな手間は一切なし。契約書をアップロードして取引先に送るだけ。相手が同意して契約完了。クラウド上で管理されるので保管場所もいらない。
費用はスタンダードプランでひと月1万円。書類1通ごとに200円だけ。紙の契約書では必要な印紙もいらない。導入して1年で100万円、コストカットできたと言う。
「全然違います。管理もほとんど必要なくなるし、探すのも楽。労力は100分の1ぐらいになるんじゃないかと思います」(東港金属・福田隆社長)
この「クラウドサイン」、トヨタや東京海上日動、サントリーなどの大手企業も続々と導入しはじめた。
その一つがリコー。ファクシミリやコピー機などOA機器でおなじみのメーカーだ。リコーは2020年11月にクラウドサインを導入した。
「ハンコレス化は進んでいますが、相手先によっては減らせない。定期的に押印の作業もしています」(総務統括部・杉光憲さん)
社内はハンコレスが進んだが、まだ紙の契約書も外部との契約を中心に多い。そこで今年2月、全国の販売会社でも取引先との契約にクラウドサインを導入した。
コロナによるテレワークの浸透もあり、クラウドサインを導入する企業はここに来て急増。今や14万社を超えた。
社内にニュース編集部~独自目線でヤフートップ
2020年11月、ヤフーニュースに「大阪のそば屋で「たぬき」注文したら「きつね」出された。キャンセル可能?」という記事が載った。大阪では「油揚げの乗ったそば」を「たぬきそば」と呼んでいるのだ。
こんな事件とも言えない出来事を「今回は大阪のそば屋が舞台だから、慣習から売買契約は成立している。よってキャンセルはできない」と、弁護士が大真面目に解説する。
この記事を作ったのは弁護士ドットコム。あらゆることを法律目線で斬ってニュースにしている。
「弁護士ドットコムを知ってもらうという意味で、多くの人に届くために面白さも重視して作っています」(新志有裕編集長)
配信の最大の目的は弁護士ドットコムの知名度アップ。ヤフーニューストップに載ればとんでもない数の人の目に触れる、そのための編集部まで社内に作った。新聞や週刊誌の記者をやっていた人達を集めたエキスパート集団だ。
「東京スポーツ」出身の塚田賢慎は「東スポで働いていた人間が法律をきちんと分かっているはずがない。弁護士に相談もできないような立場に近いところにいたので、困っている方の素朴な疑問に親身になって寄り添えるかなとは思います」と言う。
そんな塚田が2020年12月に書いた記事が「転職10日前、コロナで内定切り。泣き寝入りするしかないんでしょうか?」。ITエンジニアの岩田さん(仮名)が、条件のいい会社から内定をもらい転職しようとしていたが、入社10日前にいきなり内定を取り消されてしまったのだ。
岩田さんを取材した塚田が調べたところ、人を解雇する時は1ヵ月前の告知が必要。または1ヵ月分の手当を支払わなければならない。労務に詳しい弁護士を取材すると、「今回の内定取消しは解雇に該当する」という見解を得た。
そして記事にすると、これがヤフーニュースのトップに掲載された。「内定切りは解雇に当たる事もある」と広めたのだ。
「内定切りは今すごく問題になっているので、事前の対策として役に立ってくれればいいなと思っています」(塚田)
~村上龍の編集後記~
4大法律事務所に属すような弁護士には若干違和感がある。彼らの仕事は企業法務が中心で、だいたいのところ高い報酬を得ているという。個人の法律相談にのったりすることは少ない。そういった弁護士は一般市民の訴訟には関わらないのだ。弁護士にも違いがある。弁護士ドットコムに集まっている弁護士は、たいていは庶民の味方だ。インターネットの匿名性を活かし、相談のハードルを低くしていて、知恵を絞り、それを一般の人々へ提供する。専門家の知恵は、庶民がより良く生きるための知恵、まさにリーガル先進国への道だ。
<出演者略歴>
内田陽介(うちだ・ようすけ)1977年広島県生まれ。2000年、慶應大学商学部卒業後、三菱商事入社。同年、アイシーピー入社。2003年、カカクコム入社。2014年、みんなのウェディング代表取締役社長就任。2017年、弁護士ドットコム代表取締役社長就任。
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