本記事は、青木龍氏の著書『2%の人しか知らない、3億円儲かるビル投資術』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています。
貸事務所業で起こりがちなトラブルFAQ
ここまでで「優良な中小オフィスビル取得のための全体フロー」については、お伝えできたかと思います。
それでも実際の運用をしていく際には、賃料交渉に始まって、家賃の滞納や場合によっては立ち退き交渉、入居テナント同士のトラブルなど、さまざまなトラブルや疑問がつきまとうでしょう。
そこで本章では、実際のビル管理で起こりがちなことをQ&A形式で、かつ実際にあった例も交えながらお伝えし、あなたがビルオーナーになって貸事務所業を始める際の“転ばぬ先の杖”として役立てていただければと思います。
Q1 テナントから賃下げ交渉をされた。どうする?
A1 突っぱねてOK。引き下がらないようであれば必要資料を提出させる。
よくある例が、リスク・イベントが発生した際のテナントからの賃下げ交渉です。結論から言って、これは突っぱねて構いません。
実際に私の管理している物件でも、コロナ禍によって1割のテナントから賃下げ交渉の打診がありました。ですが、お断りをしました。もしくは、「賃下げ交渉=業績悪化」ですから、そのエビデンスを提出するようにしてもらいました。
賃下げ交渉をしてくるテナントの中には、本当に業績が悪化しているところもあると思いますが、多くはリスク・イベントに乗じて「一度言ってみよう」というくらいのところも少なくありません。モノは試しだと考えているのです。
そして、そういう感覚を持ったテナントの場合、逆に業績が回復したときや、今回のようなコロナ禍が終わった頃に賃料をアップする交渉をしようとすると、首を縦に振りません。
ですから、そこはビジネスライクに断っていいのです。
もしも、どうしても賃下げを希望して来るのであれば、直近1年間くらいの決算書や試算表、手元資金の確認(通帳のコピー)などを提出させます。
さらに、業績悪化をフォローするための借り入れや補助金などのセーフティネットを、本業を継続させる施策として活用した上で、それでも下げて欲しいなら交渉の余地があります。
ですが、実際は「決算書を出してください」と言うと、その時点で「じゃあ、いいです」というところがほとんどです。
Q2 テナントが賃料を長期間滞納した。どうする?
A2 取れる手段は2つ。出て行ってもらうか、保証会社を最初から挟んでおく。
企業は基本的に「その事業をやったら儲かる」ということを前提に起業します。業績が悪化することは最初の前提にないため、いつ、どのようにしてそのテナントの業績が悪化するかを予測することはできません。
ただ現実では、業績悪化やリスク・イベントなどによって賃料を滞納するテナントも出てくる場合があります。このような場合は、2つの手段があります。
1つは「即時退去してもらう=出て行ってもらう」です。
ただし、この方法はすぐに選択ができるわけではありません。
日本の借地借家法は前提として「テナントを守る法律」になっています。裁判所で認められているケースとしては、3ヶ月の賃料の滞納が派生してからオーナー側は立ち退きを要求できるようになります。その場合は弁護士を通して立ち退きを要求できます。
ただし、このような場合、業績が悪化しているわけですから、テナント側は占有部分の原状回復ができるかどうか、わかりません。
例えば、6ヶ月分の賃料を保証金として最初に預かっていても、滞納した3ヶ月分をそれで補填すると、残りは3ヶ月分になります。その額で原状回復できるかどうかはわかりません。
このようなことを未然に防ぐためには、2つ目の「保証会社を最初に挟む方法」を取ることです。
この場合の保証会社とは「家賃保証会社」のことで、保証料を受け取る形で借りる側の連帯保証人を代行し、賃料滞納などの債務不履行があった場合に立て替えて支払ってくれる会社のことです。保証会社が入ることで2年分の保証をしてもらえますし、保証料も払うのはテナント側なので、オーナー側に負担はありません。
この保証会社を“最初の契約の際に”入ってもらうようにするのです。
どちらにしても、賃料滞納が起きた場合の対策はあります。
ただ一番は、このような心配のない、年間の人件費や固定費を3年分くらいは賄える体力=純資産のある会社を誘致することです。さらに、保証会社にも入ってもらうと安心できるでしょう。
Q3 事情により期間限定でテナントを入れたい。どうする?
A3 定期借家で契約する。デメリットもあるが、オーナー有利で契約できる。
借地借家法のようなテナント有利な法律に対し、オーナー側に有利な方法があります。それが「定期借家」による契約です。
定期借家契約とは、賃貸借契約で定めた契約期間が満了になると、それ以上の更新はできず、契約終了になる契約です。ただし、オーナーとテナントの双方が合意すれば、再契約が可能です。
例えば、定期借家で賃貸借契約を結ぶのは次のようなケースです。
- 一定期間の入居の同意を得られることへの安心
- 入居してほしくないテナントを誘致せざるを得ない場合の対策
- 自分でオフィスを使うときの保険
- 数年後建て替えを計画している場合
- 数年後、賃料相場が大きく上昇すると予想する場合など
1.一定期間の入居の同意を得られることへの安心
定期借家は、言ってみれば「期間を区切ることができる制度」です。
例えば6年で設定してテナントと契約をした場合、6年間はそのテナントを確保しておけるリスクヘッジになるので、安定した収入を確保できる“安心”が買えます。
ただし、テナントによっては6年後に引っ越すリスクが発生するため(もちろん、再契約も可能ですが)、長くいたいテナントによっては条件が一段落ちるオフィスビルになってしまいます。
また、6年間で契約していても、必ず6年いてくれる保証はありません。
その場合は「残りの期間分の賃料も支払う」という文言を賃貸借契約書に書くことができます。もちろん、それでテナント側が納得して入居するかどうかは別の話ですが、文言によってリスクヘッジは可能だということは覚えておいてください。
2.入居してほしくないテナントを誘致せざるを得ない場合の対策
定期借家の考え方は「それ以上、いさせたくない」です。
ですから、オーナー的には“ありがたいけどあまり嬉しくないテナント”からの応募があった場合に期間限定で貸し出す方法が取れます。
募集をかけたら優良テナントがすぐに集まればいいですが、時にはあまり応募が芳しくなく、空室期間を埋めるために“背に腹は代えられない”という状況も起こりえるかもしれません。
そのような際は「期間限定」にしてしまうのです。
3.自分でオフィスを使うときの保険
オーナーによっては、購入したオフィスビルを将来的に自社の事務所として活用したい場合もあるでしょう。もしくは、建て替えを考えていて、立ち退き交渉をせずにテナントを退去させたいと考えることもあるでしょう。
そのようなときに、4~6年の定期借家を組んでおくことで、トラブルなくテナントに立ち退いでもらい(オーナー側から立ち退き交渉をする場合は費用がかかります)、自社で活用できるようになる保険になります。
または、ビル全体をまとめてリノベーションしたいときに、テナントの契約終了のタイミングをぴったりと併せておけば、一気に空っぽの状態にできて、余計な費用を使わずにリノベーションをすることもできます。
ビルをリニューアルした後は新たに賃料を設定し直して、付加価値のついたビルとして応募をかければいいのです。
4.無駄なく収入を得て建て替えへ
例えばビルが老朽化し、5年後建て替えをしようと考えた場合、各テナントの退去時期を揃えるのが一番望ましい計画です。
したがってテナントが入れ替わる際定期借家での契約をワンフロアずつ進めていき、最終的に契約満了の時期を揃えることにより、インカムロス無く建て替え作業へと移ることができます。
定期借家はリスクもありますがオーナーにとってはありがたい制度です。
不動産運用では常套手段なので、ぜひ覚えておいてください。