本記事は、安田次郎氏の著書『10万円から始めるスタートアップ投資』(クロスメディア・パブリッシング)の中から一部を抜粋・編集しています

スタートアップ投資の魅力とは?

スタートアップ
(画像=Rawpixel/PIXTA)

では、スタートアップ投資の魅力は、どのようなところにあるのでしょうか。3つ挙げるとすれば、投資によって大きなリターンが得られる可能性があること、スタートアップを応援できること、税金の優遇があることが魅力です。

●ハイリターンが得られる可能性

スタートアップ投資の最大の魅力は経済的なリターンであり、これを目的に投資をしている方がやはり多いと思います。

通常の株式投資であれば、買ってから株価が2倍になれば十分。株価が10倍になるテンバガーに巡り合う機会は、そうはありません。ところが、スタートアップは上場企業に比べて投資時の事業規模が小さいぶん、大きな成長が期待できます。

例えるなら、1億円の売り上げを10億円にするよりも、1,000万円を1億円にするほうが、同じ10倍でも簡単だということです。これと同じくスタートアップのほうが大きく成長しやすいからこそ、スタートアップ投資では10倍、20倍のリターンを狙うことができます。VCがアーリー期のスタートアップに投資する場合も、10倍程度のリターンを求めるのが一般的です。

株式投資型クラウドファンディングの場合は10万円くらいから申し込める投資案件が多くあります。イグジットまでの期間はそれぞれでしょうが、IPOを実施するまでには少なくとも4、5年はかかると言われています。

株式投資型クラウドファンディングが先行しているイギリスでは、大きなリターンを生む案件が出始めています。次の表は、イギリスの株式投資型クラウドファンディングプラットフォームである「クラウドキューブ」における投資回収の成功事例です。

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(画像=『10万円から始めるスタートアップ投資』より)

ウェブサイトの開発・運用をおこなうMettrr Technologiesという会社が2012年3月に資金調達し、2017年4月にエンジェル投資家による買い付けというかたちでイグジットしています。調達金額全体としては10万ポンドの小さな調達でしたが、そのときの投資家はわずか5年で投資資金を9倍に増やしたことになります。

また、IPOを実施した案件もあります。

イギリスでの初めてのIPO事例は、クラウド会計ソフトを提供するFreeAgentというスタートアップだと言われています。

2007年にイギリスで創業した会社ですが、2012年にイギリスで株式投資型クラウドファンディングが使われ始めた3年後の2015年に、「Seedrs」というプラットフォームで約121万ポンド(約1.7億円)を調達しました。その翌年、ロンドン証券取引所に上場しています(現在はイギリスの大手銀行、Royal Bank of Scotlandに買収されて上場廃止)。

また、ゲーム内のスペースを利用した広告配信プラットフォームのビジネスを展開するBidstackは2015年にイギリスで創業し、わずか2カ月後にクラウドキューブ上で資金調達を実施。調達額は約13.5万ポンド(約1,900万円)でした。その後、2018年にロンドン証券取引所に上場していたKin Groupによるリバーステイクオーバーを発表し、ロンドン証券取引所のプロ投資家向け新興市場であるAIMに上場しました。リバーステイクオーバーとは、事業規模が小さい会社のほうを存続会社とするM&Aのことで、はに社名を変更しています。

イギリスと同じく2012年に株式投資型クラウドファンディングが始まったアメリカでも、IPO事例が出ています。

脳腫瘍の治療法を開発しているCNS Pharmaceuticalは、2017年にアメリカで創業したあと、翌年にアメリカの株式投資型クラウドファンディングプラットフォーム、Republicで資金調達を実施。約63万ドル(約6,900万円)を調達しました。その後、2019年にNASDAQに上場しています。

日本では、株式投資型クラウドファンディングの第1号案件が2017年のため、まだ目立って大きな成果は出ていませんが、日本での成果も紹介しておきましょう。

日本初のイグジットは、第二類医薬品や第三類薬品、健康食品、サプリメント、遺伝子検査の通信販売を手掛ける漢方生薬研究所(現・ハーバルアイ)でした。2017年にFUNDINNOで資金調達をおこない、2年後の2019年に事業会社による株式の買い取りというかたちでイグジットしました。買取価格は、投資時の1.5倍でした。

また、2018年に資金調達をした無料配車アプリを提供するnommocは、2020年に相対取引による譲渡というかたちでイグジットを実現しています。こちらも、買取価格は投資時の1.5倍でした。

初の上場事例は、2018年に設立された卓球のプロスポーツチームである琉球アスティーダスポーツクラブです。2019年に資金調達をし、1年3カ月後の2021年3月に東京証券取引所が運営するプロ投資家向けの市場、TOKYO PRO Marketに上場しました。この上場では新規株式の発行はなく、国内初のIPO事例とはなりませんでしたが、近々日本でもIPO事例が出てくるでしょう。

●スタートアップを応援できる

スタートアップ投資には、経済的なリターンを得るだけではなく、投資を通じてスタートアップを「応援する」といった意味合いもあります。

多くの起業家は「イノベーションで世の中を変えたい、世の中の役に立ちたい」と考えていて、その理念に共感した支援者がサポーターになるような気持ちで投資をするのです。たとえば、親族が長年持病で苦労している姿を見てきた人が、その持病の治療に役立つ医療器具を開発しているスタートアップに投資したり、小さな子どもを持つ人が、子どもの安全を守るための商品を開発しているスタートアップに投資したりするといったことです。多少リスクが高くても、「これが実現するならば……」とお金を出す人はいるでしょう。

なかには、そのビジネスが大成功して会社が大きく成長し、日本経済に貢献する超大手企業になることもあるかもしれません。そんな、未来の有望株を誰よりも早く見つけたり、世間が認めていないうちから投資をするロマンや優越感も味わえるでしょう。

●税金の優遇が受けられる

スタートアップに投資すると「エンジェル税制」が適用される場合があります。エンジェル税制とは、スタートアップ企業に出資した投資家に対して税制上の優遇措置を与える制度のことで、投資額のほとんどが所得から控除されるなど、手厚い内容となっています。

法改正を経て株式投資型クラウドファンディングが生まれた経緯からもわかるように、スタートアップへの投資が増えることで国の経済や産業を発展させられると政府が考えているがゆえの政策です。より多くの人が利用できるよう、税制上のメリットを与えるのは当然のことかもしれません。

「貯蓄から投資」のスローガンのもとに始まり、金融商品の購入に対して利益などを非課税扱いにする、「NISA(小額投資非課税制度)」や「(個人型確定拠出年金)」にも似た成り立ちの制度といえるでしょう。

10万円から始めるスタートアップ投資
安田次郎(やすだ・じろう)
株式会社ユニコーン代表取締役最高経営責任者兼最高執行責任者。学習院大学法学部卒。ペンシルベニア大学ロースクール法学修士取得。国際証券(現・三菱UFJモルガンスタンレー証券)にて、日本企業の資本政策・資金調達やIR戦略の立案・執行に従事。その後、クレディ・スイス、リーマン・ブラザーズの株式資本市場部にて、国内外の株式及び株式関連の資金調達(含むIPO)において数多くの主幹事案件を執行。野村證券移籍後は、第三者割当型の資金調達案件や事業会社が保有する株式の売却・自社株買いについて、デリバティブを活用したスキームなどのソリューション提供業務に従事。2019年2月、株式会社ユニコーンの代表に就任。株式投資型クラウドファンディングを通じてスタートアップの資金調達を支援している。

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