この記事は2022年2月18日に青潮出版株式会社の株主手帳で公開された「セイコーエプソン[6724・東1]インクジェットプリンターの世界的企業「省・小・精」技術で環境負荷軽減に貢献」を一部編集し、転載したものです。


セイコーエプソンは、インクジェットプリンター、プロジェクターなどを製造販売する世界的メーカー。ロボティクス技術による工場自動化や、水晶発振器などのマイクロデバイス製造も手がける。2021年に長期ビジョンを見直し、さらなる環境経営へと大きく舵を切った。

▽長野県諏訪市のセイコーエプソン本社

セイコーエプソン
(画像=株主手帳)

目次

  1. 在宅需要で小型印刷機好調
    1. 工場向けロボットも拡大
  2. 経営ビジョンを大幅見直し
    1. 環境負荷低減で社会貢献
  3. 印刷機の置き換えでシェア拡大
    1. 「省・小・精の技術」を極める

在宅需要で小型印刷機好調

工場向けロボットも拡大

インクジェットプリンターの国内トップメーカーとして知られるセイコーエプソンは、かつて「東洋のスイス」といわれた長野県諏訪市を本拠地に、国内19社および世界各国・地域に63社のグループ企業を持ち8万人近い社員を抱える、年間売上高約1兆円のグローバル企業だ。

同社の事業セグメントは「プリンティングソリューションズ事業」「ビジュアルコミュニケーション事業」「ウェアラブル・産業プロダクツ事業セグメント」の3つになっている。

プリンティングソリューション事業では、オフィス・ホーム用や商業・産業用のインクジェットプリンターなどを製造販売している。同社のインクジェットプリンターは素子に電圧を加えることでインクを吐出させる構造で、他社製品とは違い熱を使わない。このため耐久性に優れ、さまざまな種類のインクが使用できることが強みだ。2021年3月期の同事業の売上収益は7,077億円(前期比0.1%減)、利益は1,085億円(同43.5%増)となった。

「ホーム用製品が特に北米で伸びた。コロナによって在宅勤務が定着し、自宅での印刷需要が拡大している。おそらくコロナが明けても在宅需要は継続すると見ています」(小川恭範社長)

ビジュアルコミュニケーション事業では、大画面プロジェクタやスマートグラスなどを製造・販売している。同事業の売上収益は1,414億円(同22.8%減)、利益は13億円(同90.1%減)となっている。

ウェアラブル・産業プロダクツ事業では、産業用ロボットやセンサー、水晶や半導体のマイクロデバイス、セイコー向けウオッチ開発・製造および自社ブランド「オリエント」などのウオッチ製造・販売も展開。近年では中国での工場向け小型精密ロボットシステムの販売が好調だ。売上収益は1,486億円(同2.8%減)、利益は32億円(同75.0%増)となっている。

経営ビジョンを大幅見直し

環境負荷低減で社会貢献

同社は2016年に長期経営ビジョン「Epson25」を発表し、2016年度に1兆248億円だった売上収益を25年度には1兆7,000億円まで拡大する目標を掲げた。しかし、現社長の小川氏は2021年3月にこれを見直し、新しい長期ビジョンである「Epson25Renewed」を策定、および「環境ビジョン2050」を改定した。

「以前の計画は先に数字ありきで、過度な売上成長を追っていた。その計画到達がほぼ不可能となった時、何のために事業をやっていくのかに立ち戻ろうと考えた。その中から社会貢献、特に環境問題に貢献しようという目的が生まれました。当社には1942年の創業以来、時計や精密機械製造を通して培ってきた省エネルギー、小型化、高精度を追求する『省・小・精の技術』があります。これはまさに地球環境に貢献できる技術。自信を持ってこれを極めていきたい」(同氏)

「Epson25Renewed」では、商品・サービスや製造工程における脱酸素と資源循環に取り組むとともに、環境負荷低減につながる商品・サービスの提供や、環境技術の開発を推進するとしている。「『省・小・精の技術』とデジタル技術で人・モノ・情報がつながる、持続可能でこころ豊かな社会を共創する」をビジョンとし、「循環型経済の牽引」と「産業構造の革新」「生活の質向上」などを企業活動のマテリアリティ(重要テーマ)として据える。

「そして、これらの課題解決に向けてオフィス・ホームプリンティング、商業・産業プリンティング、マニュファクチャリング、ビジュアル、ライフスタイルの5つの領域でイノベーションを起こします。また『環境ビジョン2050』を改定し、2050年に『カーボンマイナス』と『地下資源消費ゼロ』の達成を目指します」(同氏)

すでに2021年11月には、すべての国内拠点で使用する電力を100%再生エネルギー由来のものに切り替えた。また、世界経済の不透明感が増す中、収益性を重視した経営を進めるとし、2025年度にはROIC11%以上(2020年度は4.7%)、ROE13%以上(同3.6%)と業績目標を定めた。

印刷機の置き換えでシェア拡大

「省・小・精の技術」を極める

今後の成長領域として注力していくのは、インクジェットプリンター技術をいかした分野だ。

オフィス・ホームプリンティングでは、全世界での大容量インクタンクプリンターの販売拡大を目指す。また、オフィスで広く使用されているレーザープリンターをインクジェットに置き換えることで、シェアを上げていく。

「現在オフィスでのインクジェットのシェアは数%だが、レーザーと置き換えることで非常に大きな市場になると考えている。熱を使わない当社のインクジェットは、レーザーに比べて圧倒的に消費電力が少ない。またインクを供給する以外はメンテナンスもほとんど必要なく、環境性能が高い」(同氏)

商業・産業分野にもインクジェットプリンターを拡大する。多品種少量生産ができる強みを生かし、布地や商品ラベル印刷などの用途に向けたインクジェットプリンターを投入していく。2022年3月期決算での商業・産業プリンティング売上収益は2,170億円(前期比20.9%増)を予想している。

また、プリンタの部品であるプリントヘッドを他の印刷機会社に外販する事業も成長分野の1つだ。すでに中国では1インチのプリントヘッドで高いシェアを持っているが、商業・産業印刷向けに2インチと4インチのプリントヘッドも発売した。販売とともにサポートも行うことで商品価値を高める。

そして、産業用ロボットなどマニュファクチャリングにも力を入れる。同社が得意とする組み立て作業用小型ロボットと周辺装置を組み合わせることで、更なる顧客ニーズに応えるほか、将来的には生産ライン自体も作れるシステムを提供していくという。また、横幅約80センチ程度の超小型プラスチック射出成形機を開発・販売してきたが、将来的にはさらに小型化していく予定だ。

2022年1月、同社は業績の利益予想を上方修正した。2022年3月期通期の売上収益は1兆1,300億円、営業利益は前回予想を90億円上回る840億円を予想している。


▽エプソンが取り組むマテリアリティ

社会課題解決に向けて「循環型経済の牽引」「産業構造の革新」「生活の向上」を重要テーマとして取り組む

セイコーエプソン
(画像=株主手帳)

▽イノベーション領域 5つのイノベーション領域を設定し、戦略維持する

セイコーエプソン
(画像=株主手帳)

▽オフィス・ホームプリンティング領域においてレーザープリンターからの置き換えを推進する主力プリンター「LX-10050MF」(上)と、商業・産業プリンティング領域において布地への印刷を推進するデジタル捺染機Monna Lisa『ML-8000』(下)

セイコーエプソン
(画像=株主手帳)
セイコーエプソン
(画像=株主手帳)

▽水平多関節(スカラ)ロボットでは、2011年から現在まで世界シェア1位となっている。周辺機器や管理システムも展開(写真はスカラロボットコントローラー一体型モデルT6)

セイコーエプソン
(画像=株主手帳)

▽2021年3月期 連結業績

売上高9,959億4,000万円前期比 4.6%減
営業利益476億5,400万円同 20.7%増
経常利益449億3,300万円同 13.1%増
当期純利益309億2,200万円同 299.9%増

▽2022年3月期 連結業績予想

売上高1兆1,300億円前期比 13.5%増
営業利益840億円同 76.3%増
経常利益830億円同 84.7%増
当期純利益630億円同 103.7%増

*株主手帳3月号発売日時点

小川恭範社長
小川 恭範(おがわ やすのり)
1962年4月生まれ。愛知県出身。1988年セイコーエプソン入社。2008年VI事業推進部長、VI企画設計部長。2017年ビジュアルプロダクツ事業部長、執行役員。2018年取締役執行役員、技術開発本部長。2019年取締役常務執行役員ウエアラブル・産業プロダクツ事業セグメント担当。2020年代表取締役社長(現任)。