本記事は、藤田源右衛門氏の著書『中小企業でもできる SDGs経営の教科書』(あさ出版)の中から一部を抜粋・編集しています

中小企業がSDGsに取り組むべき理由

ESG投資,SDGs
(画像=PIXTA)

目指すべき目標がはっきりしているから取り組みやすい

日本の中小企業にとって、目指すべき目標がはっきりしている点で、CSRよりもSDGsのほうが取り組みやすいでしょう。

CSRの精度を高めるとなると、何にどれだけ取り組んだらよいのか、なかなか先が見えません。中小企業が社内で検討するにしても、一つのテーマを掘り下げ、何を行えばよいか明確にするのがむずかしいのです。

その点、SDGsであれば、単純に「○○を×%削減しましょう」「□□を平等になるよう設置しましょう」と、目標の設定は端的にできます。どうやってその目標を達成するかについては各社の事情もあり、すぐには決められませんが、それでも目標を設定しやすいだけに、どの中小企業にとっても取り組みやすいのです。

しかも、その目標が達成できた際には、売上・利益などの経済的価値が生まれることが理解できれば、「やっても結局はムダになる」ことではありません。取り組む意義もそこに見いだし得るでしょう。

なお、当社では、SDGsの取り組みの方法については、従来の「アライアンスを通じてCSRやCSVに取り組む」ことを踏襲しています。その理由は、たとえば地域の課題解決のように取り組んでいる内容そのものがSDGsもCSRやCSVも変わらないからです。と同時に、取り組むSDGsについても、目標17の「パートナーシップで目標を達成しよう」ということに主眼を置いているからです。

社員同士、価値観が共有でき、ブランディングにつながる

中小企業にとってSDGsに取り組むメリットは、まず、世界中、地球上の誰もが知っていることに取り組んでいるという価値観の共有です。それが企業市民(企業は利益を追求する以前に、よき市民であるべきであるという概念)として、社員一人ひとりの安心感につながります。

自社だけが売上を伸ばし、利益が上がればよいと思うことは自由ですが、それでは大手企業も中小企業も、持続的に存立し得ない社会に私たちは生きているのです。

その社会において自社の利益が上がりさえすればよいと考えると、いっときは成長できたとしても人材が集まらず、結局、持続できません。これからの社会においてSDGsに取り組むことは、リクルートに直結するのです。

持続性の観点から事業を見直すことができる

また、SDGsに取り組むと、自社の商品づくりやブランディング、マーケティングを見直し、自社の事業のマッピングを行うことになります。そのことにより、自社の強みがどこにあるのかをあらためて認識し、再定義できるわけです。

大手・中小など規模、また業種にかかわらず、SDGsの目標に照らして自社の事業を見直します。すると、自社が選択する方向性とSDGsの指標が求める方向性とが合致しているかがわかり、持続可能性の観点から、自社とその事業について、しっかりと見直すことにつながるのです。

もちろん、SDGsに取り組めば、個々の社員の意識が変わるとか、新しい商品が生まれるなど、大きな転換を生むケースもあるでしょう。一方で中小企業の毎日の実務では、そのような余裕がないのも事実で、劇的な変化を期待するのも無理があります。ですが、長い目で見れば社員の意識は変わっていくのです。

しかも、1社ではできないことでも、2社、3社が協働・提携すれば、これまで不可能であったことも可能になります。1社では自社での成果や成長しか見ることができませんが、2社、3社が協業・提携すれば、相手の会社の変化を目のあたりにすることもあります。他社の変化に自社が鼓舞されることも、2社、3社が協働・提携してSDGsに取り組む大きなメリットです。

取り組むデメリットよりも取り組まないデメリットが大きい

社員からも寄せられた否定的な意見

SDGsの取り組みには、日本の企業・団体も好むと好まざるとにかかわらず、何かしらのかたちで関わっていくことになります。当社としては、アライアンスによるCSR活動が、このSDGsの開発目標の達成に関わっていると考えたわけです。

ただし、最初からメリットだらけだ、と思っていたわけではありません。

私自身、SDGsに関しては知識が曖昧だったこともあり、関係機関や団体等に足を運び勉強してきましたが、当初は社員からもいろいろな声がありました。

「すばらしい、ぜひやりましょう!」

という声がある一方で、否定的な意見もありました。

「大企業に関係のあることで、当社とは関係ないのでは?」

「ボランティアや何らかの寄付をすることですか?」

「取り組むと、すごく費用がかかりますよね? そんな余裕あるのですか?」

「SDGsで儲けるの? 儲けてはいけない取り組みではないでしょうか……」

などです。確かにSDGsは2016年から2030年の目標ですし、ただ地球規模での貧困をなくそうというだけでなく、人権・地球環境など17の目標を定めています。途上国に限らず地球全体に関わるテーマで、政府主導より個人や地域、企業・団体が主体となって進めることを求めています。また、寄付やボランティアの推奨ではなく、ビジネスに積極的に取り組むことも求めています。

ただし、見方を変えれば、目標を掲げているだけで、認証機関はありません。

これらをあわせて考えると、お題目として掲げているだけで、きれいごとに感じるのも事実でしょうし、中小企業がヘタに関わると、ムダにお金を使うだけという印象を受ける人がいるのも当然かもしれません。

デメリットを上回るメリットがある

しかし、SDGsに関する情報を入手して知識を蓄えていくと、取り組まないことがデメリットになり、取り組むことで大きなメリットが得られることがわかってきます。SDGsに取り組むことによって得られるメリットを整理してみます。

・人材の確保に結びつく
・社員同士、また取引先とのコミュニケーションツールとなる
・自社がより広く消費者、市場に認知されるようになる
・新しいビジネスチャンス、事業のヒント、商品サービスの開発につながる
・自社のブランディングになる
・非財務を財務につなげる

最後の、「非財務を財務につなげる」とは、一見、財務的には貢献しないように思えることが、金融機関からの資金手当ての後押しなどによって財務に貢献していくことも含めて、「儲けにつながる」ということです。

SDGsに取り組まないことで生じる人材難、資金難

SDGsに取り組まないことで生じるデメリットは、取り組むことで生じるメリットの裏返しといえるでしょう。取り組まないでいると、今後5年、10年のうちに、ますます採用がむずかしくなります。

黒字で業績が伸びていても、お客様、取引先から企業市民として認められにくくなるでしょう。なぜなら、採用に応募してくれる学生はもちろんのこと、お客様、取引先など、およそビジネスの相手がSDGsに取り組んでいる会社を評価するからです。すでに学校教育の現場では、社会・環境が持続可能であるためには何をすべきか、という教育が行われています。2020年度から小学校の学習指導要領でSDGsについて学ぶことが義務化され、2021年度から中学校、2022年度から高校でも義務化されます。

「これからの学校には、(中略)一人一人の児童(生徒)が、自分のよさや可能性を認識するとともに、あらゆる他者を価値のある存在として尊重し、多様な人々と協働しながらさまざまな社会的変化を乗り越え、豊かな人生を切り拓き、持続可能な社会の創り手となることができるようにすることが求められる」小中学校新学習指導要領(2017年3月公示)

そして、高校や大学の就職指導では、担当の先生が、

「御社はどのようなSDGsに取り組んでいるのか」

と質問するように指導しています。学生たちが応募する会社の善し悪しを判断する材料の一つになっているのです。

当社の採用担当・海野遥香は次のように言います。

SDGsへの関心の高さを実感したのは、会社説明会で当社のSDGsの取り組みについて話し始めたら、皆がいっせいにメモを取り出したときでした。これがいまの学生のニーズなのだと気づかされました」

内定者たちの声からも関心の高さがうかがえます。

「SDGsは企業や学校の単位に関係なく、一人ひとりが考えていかなければならないこと」(静岡県立大学4回生)

「個人でも17ある目標それぞれを意識して、自分にできることを考え、行動することが重要だと思う」(常葉大学4回生)

これからの新入社員は、会社側が思っている以上にSDGsが日常になっていることを理解すべきです。

さらに、ESG投資といって環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)に関して取り組んでいるかどうかが、投資や融資の大きな判断材料になっています。

特にこの動きは大手企業では顕著ですが、ESGに取り組んでいない会社は資金調達ができにくくなっています。

また、これも大手企業に多い例ですが、毎年度の決算では、決算報告書を作成するだけでなく、CSRやSDGsに関する進捗状況を踏まえた統合報告書というものを作成することが一般的になっています。この統合報告書も投資や融資の判断材料の一つになっています。

このような傾向がそのまま中小企業にあてはまるかは即断できませんが、少なくとも、「ウチは中小企業だから、SDGsなどまったく無関心でもかまわない」という話ではありません。大手、中小にかかわらず、それぞれの身の丈に応じたSDGsへの取り組みが求められ、会社と社会が持続していくために不可欠の要素になっているのです。

中小企業でもできる SDGs経営の教科書
藤田源右衛門(ふじた・げんうえもん)
エネジン株式会社代表取締役社長、株式会社ハマネン代表取締役社長。1970年浜松市出身。早稲田大学商学部卒業。公認会計士として監査法人勤務後、(株)ハマネンに1998年入社、2001年代表取締役社長就任。2004年(株)ハマネンと丸善ガス(株)が統合してエネジン(株)発足、現在に至る。社名の「エネジン:ENEGENE」には、人(ジン)とエネルギー(エネ:ENE)の未来を創造(GENEsis:発生、起源、創世紀)する企業でありたい、という意思が込められている。CSR活動から発展した「地域貢献型SDGs×パートナーシップ×広報活動」の取り組みが大きく注目を浴び、全国からの視察が絶えない。著書に『なぜ、地域のお役に立つと会社は成長するのか』(あさ出版)。

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