本記事は、藤田源右衛門氏の著書『中小企業でもできる SDGs経営の教科書』(あさ出版)の中から一部を抜粋・編集しています

企画例 介護予防・健康寿命セミナー【SDGs 3・4・8・11・17】

健康寿命
(画像=CORA/PIXTA)

では最初に、「介護予防・健康寿命セミナー」(テーマ)を例に、企画がどのようにでき上がったのかを見ていきます。

まず、どうしてこの企画ができたのか(背景・社会課題)です。

超高齢化社会を迎えるにあたり、まず、行政としては介護保険が圧迫されるため、健康寿命を伸ばしたいという課題があります。この社会課題に対して当社としては地域の方々のお役に立つことができ、そこにビジネスチャンスはないかと考えたのです。

顧客は誰であるか仮説を立て、その顧客のニーズを調べました(顧客・市場・ニーズ。想定されるパートナー、消費者の考え方)。顧客は地域の方々であり、特に高齢層が想定できます。またパートナーについては、行政、病院、トレーナー、ドラッグストア、住宅会社、住設メーカー、金融機関などが想定できました。

ところが、顧客や想定されるパートナーそれぞれにニーズは少し異なります。市場全体を捉えると、家族や高齢者は「元気で長生きをしたい、健康でいたい、老後が心配、介護はどうすればよいか、どのくらいお金がかかるかを知りたい」といったニーズがあります。

ただし、行政からニーズを捉えると、「地域の方の健康寿命を伸ばしたい、福祉を充実させたい、行政だけでは課題解決に限界があり無理だ」といったニーズがあります。同様に、病院では「働き手がいない、介護予防に当院を使ってほしい、健康対策を伝えたい」といったニーズがあります。そのほか、顧客別のニーズの例を挙げると次のとおりです。

・トレーナー=仕事がほしい、健康寿命を伸ばすには筋力維持が大事だと伝えたい

・ドラッグストア=地域の方々のお役に立つ店舗づくりをしたい、高齢層には栄養学からの予防を伝えたい、運動の大切さを伝えたい

・住宅会社=地域からリフォーム受注をしたい、バリアフリー化、手摺り、風呂、キッチンなど家の安全対策を伝えたい、空き家、相続相談をいただきたい

・住宅設備メーカー=住宅会社からの注文をいただきたい、地域の方々に商品を知っていただきたい、これまでとは違う販路を開拓したい

・金融機関=金利だけの勝負は避けたい、地域の方々に役立つことを業務につなげたい、年金を取り込みたい、相続を取り込みたい

次に企画の組み立てです。顧客とそのニーズをより細かく抽出・精査し、企画を組み立てていきます。それぞれの顧客・パートナーのニーズを1〜2点に絞ると、

・健康でいたい高齢者
・介護を学びたい家族
・健康寿命を伸ばしたい行政
・地域から働き手がほしい病院
・業務を知ってもらいたい病院
・日々の運動から健康維持ができることを伝えたいトレーナー
・地域のお役に立つことに根ざして栄養学から健康寿命を伸ばすお手伝いをしたいドラッグストア
・高齢者家族に安心して暮らしてほしい住宅会社
・住宅機器商材を知って使ってほしいメーカー
・金利勝負だけでなく地域の方に役立つことを業務につなげたい金融機関

となります。この絞り込んだニーズを目標と捉え、パートナーとして取り組める企画を組み立てていきます。

企画立案の経過は、自社の企画担当者の発言を記録するといいでしょう。誰が、何を発言したかを踏まえておけば、正式な企画書として社内稟議をかけるような場合にも説得力が増します。

社員A=商工会では、地域で高齢者を見守れる地域づくりをしようとしている

社員B=行政にも声を掛けて相談すれば、他のパートナーも協力しやすい

社員C=以前から付き合いのある地元の医院は介護やリハビリ事業もやっている。積極的にアドバイスをもらったり、取り組んだりしてもらえるかもしれない

社員D=住宅会社は新築が減ってリフォームに力を入れているから、接点も多く、ハウスメーカーとの差別化になる

社員E=住宅設備メーカーを会場にできれば、そのメーカーの商品PRにもなる

社員F=地元本社のドラッグストアなら、地域での影響力も高まる

このような話し合いはWIN-WINになることを考えるというより、WINが積み重なるような印象です。その実現度を見極めながら、パートナーを見つけ企画を組み立て、パートナーと打ち合わせていきます。

実現した最初の企画(実施内容)は、「病院・トレーナーが健康寿命を伸ばすためのトレーニング方法を伝える」というセミナーです。

4-1
(画像=『中小企業でもできる SDGs経営の教科書』より)

取組後の評価は次のとおりです。

「セミナー後にご自宅でも継続してやりたいという声もいただき、とてもうれしかったです。トレーナーという仕事が、こういうかたちでお役に立つことができるとは思ってもいませんでした。今後への手ごたえも感じました」(飯田トレーナー)

「今回のセミナーはどの地域でも活用できるから、他の営業所にも伝えたいですね」(リクシル担当者)

「今後も継続して実施し、浜松市全体で行える企画に成長させたいです」(当社担当・石津拓哉)

このように、この企画は1回やっておしまい、というわけではありません。「このような方法で病院の価値を上げながら業務も知ってもらい、しかもお役に立てる」と評価をいただいた病院では、類似企画を他のパートナーに広げる"横展開"ができます。

もちろん、「管理栄養士から筋力低下予防や認知症予防の栄養学を学び、レシピをプレゼントし、動画なども配信できる」と"多展開"するドラッグストアもあるはずです。

住宅会社・住設メーカーでも、「リフォームはこれから大きな市場になり、住宅の危険箇所などをお伝えするだけでも、お役に立ちます」「商品での差別化ができにくくなっているいま、商品の実物を見て触れてもらえることがありがたい」と評価をいただくケースがあります。

このような評価を受けつつ継続性を高めれば、行政の後援やより多くの地域への周知も可能です。地域の福祉協議会でも「福祉や地域の方々に対しての貢献は、ボランティアではなく、ビジネスになれば市内各地域で実施でき、継続性も生まれる。その積み重ねが福祉の充実した地域という評価につながる」と賛同いただけます。そして、当社としては見込み客の獲得につながります。

中小企業でもできる SDGs経営の教科書
藤田源右衛門(ふじた・げんうえもん)
エネジン株式会社代表取締役社長、株式会社ハマネン代表取締役社長。1970年浜松市出身。早稲田大学商学部卒業。公認会計士として監査法人勤務後、(株)ハマネンに1998年入社、2001年代表取締役社長就任。2004年(株)ハマネンと丸善ガス(株)が統合してエネジン(株)発足、現在に至る。社名の「エネジン:ENEGENE」には、人(ジン)とエネルギー(エネ:ENE)の未来を創造(GENEsis:発生、起源、創世紀)する企業でありたい、という意思が込められている。CSR活動から発展した「地域貢献型SDGs×パートナーシップ×広報活動」の取り組みが大きく注目を浴び、全国からの視察が絶えない。著書に『なぜ、地域のお役に立つと会社は成長するのか』(あさ出版)。

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