この記事は2022年5月6日(金)配信されたメールマガジンの記事「岡三会田・田 アンダースロー(日本経済の新しい見方)『FRBが0.5%の利上げを決定。円安は止められないのか?』」を一部編集し、転載したものです。
「おはよう寺ちゃん」での会田の経済分析(加筆修正あり)
日銀がFRBに追随して利上げした場合、信用サイクルが腰折れ、企業の倒産とリストラが失業率を大きく押し上げるでしょう。
政府と日銀の政策によって、企業がいつでも資金調達ができるという安心感と低金利の継続の期待、すなわち堅調な信用サイクルが、コロナ禍でも、日本の景気を支えています。日銀が利上げをした場合、信用サイクル支える、つっかえ棒が外れてしまいます。
現在の円安は、国内の設備投資を拡大する千載一遇のチャンスです。円高に転じてしまえば、各国の経済安全保障の確立の競争にも敗れ、投資拡大による将来の生産性向上のチャンスを逸することになるでしょう。
問1
アメリカの中央銀行にあたるFRBは22年ぶりとなる0.5%の利上げを決めました。保有資産を圧縮する「量的引き締め」の2022年6月開始も決定しています。
利上げは0.25%ずつが一般的で、0.5%の引き上げはドットコムバブルで景気が過熱していた2000年5月以来となります。ロシアによるウクライナ侵攻などが世界経済の先行きに影を落とす中、当面は、アメリカ国内でおよそ40年ぶりの水準に達したインフレの封じ込めを優先するでしょう。通常の倍となる0.5%の利上げについてはどう受け止めていますか?
答1
FRBの決定には2つの理由があります。
1つめは、早急にインフレを封じ込める必要に迫られていることです。米国の物価上昇率は、エネルギーと食料を除いても5%台に達しています。FRBの目標である平均2%を大きく上回っています。
2つめは、消費を含む需要が堅調なことです。FRBは、物価の安定と雇用の最大化という2つの使命を持っています。
需要が堅調であることで、0.25%ではなく、倍の0.5%の利上げでインフレを抑制しても、経済が耐えられ、雇用の最大化が維持できると判断したのだと考えます。
問2
会見したFRBのパウエル議長は「今後2回程度の会合でも0.5%の利上げを検討する」と述べ、7月の会合で2%まで政策金利を引き上げたい意向を強く示唆しました。
一方で、0.75%の利上げは「活発な議論をしていない」と否定的なスタンスをにじませました。市場は次の会合で0.75%の利上げをする確率を7割ほど織り込んでいたため、5月4日のアメリカ株式市場で、ダウ平均株価は前日に比べて932ドル(2.8%)高となりました。0.75%の利上げに否定的なスタンスについては、どう評価していますか?
答2
現在の強い物価上昇は、需要が過剰であることよりも、供給が制約されていることが主な理由です。FRBが金利を引き上げても、供給が増えるわけではありません。さらに、金利の過度な引き上げが、企業の投資意欲を削いでしまうと、将来の供給が増えなくなってしまったり、生産性が落ちてしまったり、逆効果になります。
しっかりした利上げをすることで、インフレに対処する姿勢をみせ、インフレが手に負えなくなる不安を小さくするとともに、企業の投資意欲を削がないように、バランスをとった結果であると考えます。
問3
アメリカはコロナ禍で急拡大した緩和マネーの正常化を急ぎます。このように海外の多くの中央銀行が利上げに向かっているわけですが……。日本だけが金融緩和政策を継続することが、円安となっている最大の要因とされ、円安が我が国の家計の購買力を大きく損なうとの考えから、「日銀は金融緩和政策を見直し、『悪い円安』を阻止すべきである」との声が強まっています。こうした声についてはどう感じていますか?
答3
間違っていると思います。日本でも、エネルギー価格の上昇がけん引する形で、物価上昇率が2%に達する可能性があります。しかし、米国と違って、消費を含む需要が強い状態ではありません。日銀は、まだ需要を支える金融緩和政策を続ける必要に迫られています。
海外の利上げによって、海外経済が冷え込み、供給制約が緩んで、エネルギー価格が落ちれば、一転して、日本の物価上昇率はマイナスの、デフレに戻ってしまうリスクがまだあります。日銀の金融緩和が継続していなければ、海外の利上げ止まったところで、強烈な円高が日本を襲うことになります。
そうなれば、企業のリストラが、失業率の上昇として、家計の極めて重い負担になります。円安による家計のコストは、金融政策ではなく、財政政策によって軽減すべきです。
問4
円相場は一時、およそ20年ぶりに1ドル/130円台をつけ、円安・ドル高が進んでいます。ただ、仮に日銀が利上げしても円安の進行を食い止めるのは 簡単ではないのでしょうか?
答4
日銀がFRBに追随して利上げした場合、信用サイクルが腰折れ、企業の倒産とリストラが失業率を大きく押し上げるでしょう。
政府と日銀の政策によって、企業がいつでも資金調達ができるという安心感と低金利の継続の期待、すなわち堅調な信用サイクルが、コロナ禍でも、日本の景気を支えています。日銀が利上げをした場合、信用サイクル支える、つっかえ棒が外れてしまいます。
さらに、現在の円安は、国内の設備投資を拡大する千載一遇のチャンスです。円高に転じてしまえば、各国の経済安全保障の確立の競争にも敗れ、投資拡大による将来の生産性向上のチャンスを逸することになるでしょう。
「この20年間で、製造業の海外生産比率が10%弱上昇しているため、円安は経済の追い風にならない」という見方がよくされます。しかし、グローバル貿易の拡大によって、GDPに占める輸出の割合は過去最高になっていることの方が重要です。
さらに、膨大な対外純資産を持つ日本では、円安が円建ての海外純資産額の膨張を生み、内需を刺激する効果がまだ大きいとみられます。この資産効果と、日本と海外の物価上昇率の格差が、いずれ円安を止める力になります。円安は、日本経済全体にとって、まだ圧倒的にポジティブです。
問5
一方、オーストラリアの中央銀行は、過去最低となっていた政策金利0.1%を0.25%引き上げ、0.35%にすることを決めました。利上げは11年半ぶりで、新型コロナウイルス流行後、金利を2024年まで引き上げないとしてきましたが、インフレが深刻となり、大幅な前倒しを余儀なくされました。また、インドの中央銀行も方針転換を迫られ、政策金利を0.4%引き上げて4.4%にすることを決め、即日、実施しました。
アメリカの利上げによって、新興国からの資金流出が強まったため、新興国も利上げをせざるを得ない状況についてはどうご覧になっていますか?
答5
資源価格の上昇によるインフレに対処するため、各国の利上げになっています。新興国では、資源を豊富に持つ国は、資源価格の上昇は追い風ですから、利上げに経済は耐えられます。
心配なのは、資源を豊富に持たない新興国です。先進国の需要が新興国の支えになりますから、先進国は自国のインフレの抑制のみに注力して、需要を過度に冷やすことはできないでしょう。結果として、これまでの物価上昇率が弱いディスインフレの時代から、インフレの時代への変化となるでしょう。
日本もデフレ体質から早く脱しなければ、日本と海外の物価上昇率の格差でいずれ大きな円高に転じ、国内の生産設備が更に海外に流出してしまうことになるでしょう。
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