この記事は2022年5月20日(金)配信されたメールマガジンの記事「岡三会田・田 アンダースロー(日本経済の新しい見方)『円安懸念による日銀の金融政策変更がない理由』」を一部編集し、転載したものです。


2022年の金融政策
(画像=PIXTA)

目次

  1. 要旨
  2. 4月のコア消費者物価指数
  3. 長期金利の変動の許容幅
  4. 賃金上昇がまだ弱い中での物価上昇
  5. 日銀が現行の金融緩和政策を変更することはない

要旨

  • エネルギー価格の大きな上昇は、消費者の購買力を弱くするため、内需からは見えないデフレ圧力となる。金融政策の引き締めなどで海外経済の成長率が大きく減速し、供給制約も緩めば、エネルギー価格が下落に転じたところで、日本の物価上昇率が再びマイナスとなるリスクはまだ大きい。コア消費者物価指数の前年同月比がテクニカルに2%を超えたが、内需の拡大がけん引する物価上昇が鮮明となるまで、日銀が現行の金融緩和政策を変更することはないだろう。

  • 物価上昇圧力の高まりによって、FEDのより強い金融引き締めへ、マーケットの予想が修正される局面では、金利差の拡大がすぐに円安につながりやすい。しかし、FEDの金融引き締めのマーケットの予想が安定化していけば、今度はインフレ格差が円安を止める力になってくるとみられる。インフレ通貨は安く、デフレ通貨は高くなる力があるからだ。

4月のコア消費者物価指数

2022年4月のコア消費者物価指数(除く生鮮食品)は前年同月比+2.1%と、2022年3月の同+0.8%から上昇幅が一気に拡大した。昨年の携帯電話通信料の大幅な下落の影響が剥落したことが主因だ。更に、コア消費者物価指数は前月比でも+0.2%と、2022年2・3月の同+0.4%に続き、強く上昇した。

新年度からの企業の価格戦略として、供給制約を意識することで、シェアではなく収益を最大化するため、値上げと販売数量の減少のバランスをみる価格弾力性をより重要視するようになっているとみられる。

供給制約への理解などにより、消費者の需要の価格弾力性が低下していると認識され、コストの増加分の価格転嫁が進んでいる。一方、コアコア消費者物価指数(除く生鮮食品とエネルギー)は前年同月比+0.8%と、上昇幅はまだ日銀の目標である+2%の半分以下で強くない。

コア消費者物価指数の大きな上昇幅は、エネルギー価格が同+19.1%と大きく上昇していることが大きく寄与した結果だ。

▽コア消費者物価指数

コア消費者物価指数
(画像=出所:Refinitiv 、岡三証券、作成:岡三証券)

長期金利の変動の許容幅

エネルギー価格の大きな上昇は、消費者の購買力を弱くするため、内需からは見えないデフレ圧力となる。

金融政策の引き締めなどで海外経済の成長率が大きく減速し、供給制約も緩めば、エネルギー価格が下落に転じたところで、日本の物価上昇率が再びマイナスとなるリスクはまだ大きい。

コア消費者物価指数の前年同月比がテクニカルに2%を超えたが、内需の拡大がけん引する物価上昇が鮮明となるまで、日銀が現行の金融緩和政策を変更することはないだろう。

内田日銀理事は、「長期金利の変動幅拡大は事実上の利上げとなり好ましくない」と参議院財政金融委員会で発言している。政策目標となる長期金利の変動の許容幅を大きくしたり、目標を中期金利に変更したりする「事実上の利上げ」とみられてしまう弥縫策がとられることはないだろう。

賃金上昇がまだ弱い中での物価上昇

賃金上昇がまだ弱い中での物価上昇は、家計の負担を増加させる。エネルギーを含めた輸入物価の上昇は、円安によって更に押し上げられている。日銀の現行の金融緩和政策の継続が、FEDの金融引き締めが進行する中で、更なる円安につながることが懸念されている。しかし、日米の物価上昇率の格差は大きい状況が続くだろう。

米国では物価上昇率が安定化していっても、2%台に戻ることはかなり難しくなっているとみられる。一方、日本のコア消費者物価指数はしばらく2%程度で推移するとみられるが、いずれGo to トラベルの再開やガソリン税のトリガー条項の凍結解除、そしてエネルギー価格の上昇幅が小さくなる中で、1.5%前後に落ち着いてくるとみられる。

物価上昇圧力の高まりによって、FEDのより強い金融引き締めへ、マーケットの予想が修正される局面では、金利差の拡大がすぐに円安につながりやすい。しかし、FEDの金融引き締めのマーケットの予想が安定化していけば、今度はインフレ格差が円安を止める力になってくるとみられる。インフレ通貨は安く、デフレ通貨は高くなる力があるからだ。

▽物価動向指数

物価動向指数
注:2014年度の大きな上昇は消費税率引き上げの影響 (画像=出所:内閣府、日銀、岡三証券、Refinitiv 、岡三証券、作成:岡三証券)

日銀が現行の金融緩和政策を変更することはない

物価・賃金・マネー関連の指標をまとめて物価動向指数を作る。全国と東京のコア消費者物価指数、企業物価指数、企業向けサービス価格指数(1ラグ)、新規求人倍率(1ラグ)、毎月勤労統計総賃金(3か月移動平均、1ラグ)、広義流動性、マネーストック(M1)を、Zスコア((当月データ−36か月移動平均)/36か月標準偏差)をとり、平均をとる。

物価動向指数は2022年4月には2.0となり、2022年3月の1.7から上昇幅が更に拡大した。プラスはトレンドを上回ることを意味し、2はトレンドを大きく押し上げる力があることを意味する。物価動向には上昇圧力が蓄積してきている。

しかし、構成要素では、企業物価は頭打ちで、賃金やマネーに加速感はない。総賃金の拡大もまだ弱い。内需拡大による総じた物価上昇圧力が強くなるまで、日銀は現行の強力な金融緩和を続けることになるだろう。

▽物価動向指数の各構成要素のZスコア

物価動向指数の各構成要素のZスコア
(画像=出所:内閣府、日銀、岡三証券、Refinitiv 、岡三証券、作成:岡三証券)

▽物価動向指数の各構成要素のZスコア

物価動向指数の各構成要素のZスコア
(画像=出所:内閣府、日銀、岡三証券、Refinitiv 、岡三証券、作成:岡三証券)
会田 卓司
岡三証券 チーフエコノミスト
田 未来
岡三証券 エコノミスト
松本 賢
岡三証券 エコノミスト

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