この記事は2022年5月24日(火)配信されたメールマガジンの記事「岡三会田・田 アンダースロー(日本経済の新しい見方)『金融市場のマクロ・フェアバリューはどのくらいか?』」を一部編集し、転載したものです。


金融市場のマクロ・フェアバリュー
(画像=SB/stock.adobe.com)

目次

  1. 要旨
  2. 金融市場のマクロ・フェアバリューとレンジ、織り込んでいるマクロ
  3. 金融市場のマクロ・フェアバリュー推計

要旨

  • 金融市場のマクロ・フェアバリューをマクロ・トップダウンのアプローチで推計する。フェアバリューとの比較で、金融市場に行き過ぎがあるのかどうか判断できる。マクロ・フェアバリューに変化はなくても、上下方向の乖離は頻繁に起こるし、その乖離が無くなってマクロ・フェアバリューに戻る動きも、大きな投資機会となる。金融市場や経済の構造が急激に変化するなどして、推計の形や係数が変化してしまっていることもある。時には、金融市場がマクロ・フェアバリューから大きく乖離しているのか、マクロ・フェアバリューが構造の急激な変化を織り込めていないのか、判断しなければならない。株式・債券市場の動きは、チーフストラテジストの松本史雄と債券シニアストラテジストの鈴木誠が、株式・債券市場を様々な事象で詳しく分析しているので注目してほしい。

  • 日本の金利とドル・円、そしてバリュー株には行き過ぎはなく、フェアバリューにともなった動きになっている。一方、グロース株は売られすぎだ。マクロ・フェアバリューを大きく下回っていて、もっと円安を前向きに評価すべきであると考える。円安は国内の投資を増やし、成長をもたらす力となるからだ。足元のコストの増加ばかりに注目する「悪い円安論」の悪影響が出てしまっている。米国の長期金利は、FEDの利上げのやや高いターミナルレートを織り込んでいるようだ。ロシアへの経済制裁による下押しは、ユーロ圏が最も大きいとみられることで、マクロ・フェアバリューと比較して、ユーロを大きく下押している。

金融市場のマクロ・フェアバリューとレンジ、織り込んでいるマクロ

  • 長期金利 0.02%−0.26%−0.55% (現在0.24%) 織り込んでいる米長期金利2.72%(現在2.86%)

  • 20年金利 0.49%−0.75%−1.02% (現在0.73%) 織り込んでいる米10−30年金利差0.25%pt(現在0.21%pt)

  • ドル円 124円−128円−134.3円 (現在127.7円) 織り込んでいる日本長期金利0.21%(現在0.24%)

  • 日経平均(米国連動モデル) 2万5,351円−2万6,328円−2万7,448円 (現在2万7,002円) 織り込んでいる名目GDP549兆円(現在542兆円)

  • TOPIXバリュー 1,965ポイント−2,057ポイント−2,130ポイント (現在2,001ポイント) 織り込んでいるネットの資金需要−2.8%(現在−3.4%)

  • TOPIXグロース 2,812ポイント−2,866ポイント−2,941ポイント (現在2,560ポイント) 織り込んでいるドル円100.6円(現在127.8円)

  • 米国長期金利 2.33%−2.67%−2.94%(現在2.86%) 織り込んでいる米国2年金利3.20%(現在2.63%)

  • ユーロドル 1.15ドル−1.19ドル−1.24ドル(現在1.07ドル) 織り込んでいる米国10年金利4.88%(現在2.86%)

  • ユーロ円 142.6円−152.3円−166.1円(現在136.2円)

金融市場のマクロ・フェアバリュー

金融市場のマクロ・フェアバリュー推計

  • 長期金利=−0.30+0.49コールレート+0.35米長期金利+0.42米10-30年金利差−0.056ネットの資金需要−0.023日銀長期国債買入れGDP比−0.24YCCダミー+0.57アップダミー−0.48ダウンダミー;R2=0.99

  • 20年金利=0.073+0.40コールレート+0.37米長期金利+0.69米10-30年金利差−0.078ネットの資金需要−0.016日銀長期国債買入れGDP比−0.48YCCダミー+0.54アップダミー−0.52ダウンダミー;R2=0.99

  • ドル円=34−3.9(日本のネットの資金需要+家計貯蓄率のトレンドからの乖離、1期ラグ)+1.5(米国のネットの資金需要+家計貯蓄率のトレンドからの乖離、1期ラグ)−11日本長期金利+5.2米長期金利+3.1米2年金利+0.66ドル円(HPフィルター、4期ラグ)+13アップダミー−8ダウンダミー;R2=0.93

  • 日経平均(米国連動モデル)=−4万1,972+3.4 S&P500+95名目GDP(兆円、4QMA)+92日銀短観中小企業貸出態度DI−466ネットの資金需要(2期ラグ)+2,240アップダミー−1,955ダウンダミー;R2=0.99

  • TOPIXバリュー=−5,195+13 名目GDP(兆円)+6 日銀短観中小企業貸出態度DI −76 ネットの資金需要(2期ラグ) −245震災後・コロナダミー(2011年Q2から2012年Q4、2020年Q2から2021年Q3) + 145 アップダミー − 1,845ダウンダミー;R2=0.98

  • TOPIXグロース=−3,185+5.6名目GDP(兆円)+0.4 S&P500+11ドル円−117震災ダミー(2011年Q2以降)−30ネットの資金需要(2期ラグ)+151アップダミー−106ダウンダミー;R2=0.99

  • 米国長期金利=2.5+0.33米国2年金利−0.12米国家計貯蓄率(2QMA、2期ラグ)−0.32ユーロ圏経常収支(4QMA、2期ラグ、)+0.395Y5Yインフレ期待−0.014米国マネタリーベース前年差(GDP%)+0.54アップダミー−0.67ダウンダミー;R2=0.97

  • ユーロドル=0.93+0.013(ユーロ圏のネットの資金需要+家計貯蓄率のトレンドからの乖離、1期ラグ)−0.009(米国のネットの資金需要+家計貯蓄率のトレンドからの乖離、1期ラグ)+0.093ドイツ長期金利−0.061米国長期金利+0.22ユーロドル(HPフィルター、1期ラグ)+0.094アップダミー−0.08ダウンダミー;R2=0.93

  • ユーロ円=ドル円の推計値Xユーロドルの推計値

会田 卓司
岡三証券 チーフエコノミスト
田 未来
岡三証券 エコノミスト
松本 賢
岡三証券 エコノミスト

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