この記事は2022年7月15日に三菱総合研究所で公開された「家計調査報告(2022年5月) ―― 外出関連支出が消費を下支えも、物価上昇への不安が強まる」を一部編集し、転載したものです。


家計調査
(画像=beeboys/stock.adobe.com)

今回の結果

2022年5月の実質消費支出(2人以上の世帯)は、季調済前月比▲1.9%と、3カ月振りに減少(図表1)。経済活動の再開が進み、人々が外出行動を活発化させるなか、身の回り品への支出や交際費といった諸雑費が増加した一方、被服及び履物や家具・家事用品等の持ち直しが一服した。

実質消費支出(季調値)
(画像=三菱総合研究所)

前年同月比では、外食や教養娯楽サービス等の外出関連支出が増加したが、納期の長期化等による自動車購入の減少や、物価上昇率の高まりを受けた住居費、家具・家事用品費の減少等で、全体では▲0.5%とマイナス(図表2)。

実質消費支出(品目別寄与度)
(画像=三菱総合研究所)

基調判断と今後の流れ

実質消費支出は、一進一退の動きがみられるものの、緩やかな持ち直し傾向にある。自動車購入は、部品等の供給制約によって生産が下押しされるなかで先送りを余儀なくされているが、外出関連支出が消費を下支えしている。

先行きについては、夏場にかけてペントアップ需要が本格化するなかで、総じて持ち直しの動きが続くとみる。大手企業の夏季賞与は、非製造業ではコロナ禍前の水準を回復するには至っていないものの、全体でみれば前年比+13.8%と大きく改善しており、家計の「リベンジ消費」を後押しするだろう(図表3)。

大手企業の夏季賞与
(画像=三菱総合研究所)

ただし、食料やエネルギーを中心とした生活必需品の価格上昇は、消費マインドの悪化をもたらす可能性がある。日本銀行が実施したアンケート調査によれば、家計の1年後の物価見通しの平均値は前年比+8.3%と、2008年6月調査以来の水準にまで上昇(図表4) 。今後1年間の支出を考えるにあたって物価動向を特に重視するとの回答は60%と、調査開始以降で最も高い結果となった。物価上昇がペントアップ需要の抑制に働く可能性に注意が必要だ。

家計のインフレ期待
(画像=三菱総合研究所)

さらに、自動車購入に関しては、輸送用機械工業が生産計画を下方修正する傾向を強めており、今後も需要を十分に満たせるだけの製品が供給されない状況が続く可能性がある。引き続き、中国のゼロコロナ政策の動向や、ウクライナ情勢のサプライチェーンへの影響も、消費の下押しにつながる恐れがある。

菊池 紘平(きくち こうへい)
政策・経済センター
メガバンクで国内外のマクロ経済動向や金融機関経営等に関する調査業務に従事した後、2022年より現職。国内研究機関への出向や米国駐在等の経験も活かし、分かりやすい情報発信・分析を行う。