NFT(非代替性トークン)を筆頭とするデジタルアートの販売やライブストリーミングを含むオンラインオークション、VR/AR(仮想現実/拡張現実)技術の採用など、アートオークション分野における近年のデジタル化は目を見張るものがある。
このようなアート市場のイノベーションをさらに加速させるべく、ロンドンを拠点とする二大老舗オークションハウス(競売会社)のクリスティーズとサザビーズが、独自のベンチャーキャピタル(VC)とNFT(非代替性トークン)プラットフォームを立ち上げた。 アート市場に新風を吹き込む動きは、オルタナティブ投資にどのような影響を与えるのか?
アート市場のイノベーションをリードするクリスティーズ
1744年に設立された世界最古のオークションハウス「サザビーズ」と、1966年に設立された「クリスティーズ」は、デジタル時代への移行をいち早く見極め、アート市場のイノベーションに注力してきた。
この潮流を急加速させたのがNFTアートの台頭である。
2021年3月に開催されたクリスティーズのオークションで、米デジタルアートアーティストのビープル(Beeple)のNFTコラージュ作品「エブリデイ:最初の5000日(Everydays:The First 5000 Days)」が6,930万ドル(約93億7,118万円)で落札されたのを機に、同社は本格的にデジタルアート分野の開拓に乗り出した。
同年12月にはNFTプラットフォーム「オープンシー」(OpenSea)と共同で、NFTオークション「Christie’s X OpenSea」を開催。最近では今春、ホログラム技術(*)を使って遠隔地のショールームに作品を展示するという斬新な試みに成功した。これは米ホログラム企業「プロト」(Proto)の技術を採用し、画家/彫刻家のエドガー・ドガ(Edgar Degas)が1881年に作成したバレリーナのブロンズ像『14歳の小さな踊り子』の映像を、香港とサンフランシスコにある同社のグローバルショールーム2カ所に投影するというものだった。
会場に大型ディスプレイケースなどのユニットを設置しておけば、ホログラム画像にはクラウド経由でアクセスできるため、実物を輸送するよりも労力とコストを大幅に削減できる。輸送中に作品が紛失したり破損するといった心配もない。
*1)ホログラム技術:レーザーを使って3D画像を記録する技術