本記事は、佐藤治彦氏の著書『おひとりさまが知って得する、お金の貯め方・増やし方』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています
◎幸せな老後生活の理想的なパターン
それでなくても、足りない年金。前倒しして、さらに減らしてしまうと、老後の日々の生活が成り立たなくなる人もいるのではないでしょうか?
前倒しして早めにもらわずに済むのであれば、それに越したことはないです。さらに、先延ばしできれば、毎月もらう年金がドンドン増えていく。そうです。理想としては、年金は少しでももらい始めるのを先延ばしして、毎月もらう年金を多くもえらえるほうがいいのです。
例えば、60歳で長く務めた会社を定年退職。再就職で少し減った給料で働くものの65歳で再び退職。もしも、この先も働くことができれば、すぐに年金をもらわずに生活ができるのではないでしょうか? 例えば、2年頑張って働いて、年金のもらい始めを24ヶ月先延ばしすれば、毎月もらう年金は16.8%も死ぬまで増えるからです。特にサラリーマンなどで老齢厚生年金の2階建部分もある人は相当助かるでしょう。そして、実はこの人生設計はもっと年金を増やすことになるのです。
私の考える理想系は、可能であればできるだけ長く働く。それも、厚生年金制度がきちんとある職場で70歳に近い年齢まで働くことをお勧めします。それならば毎月の収入が得られるだけでなく、実は70歳まで厚生年金を払いながら働くことになる。つまり、元々の年金もそれだけ増えていくのです。年金の掛け金は会社が半分負担しますから、嬉しい限りです。
70歳以降はどうしたらいいでしょうか?
もしも、会社勤めを辞めた時に手元に2,000万円以上のお金があり、こんなに現金がなくても十分なのにと思えるのであれば、さらに年金をもらわずに、先に手元のお金を使っていく。すると、その期間も年金支給は先延ばしとなり、将来もらえる年金はそれだけ増えるというわけです。もちろん、ある程度のまとまったお金はあったほうがいいので手元のお金を全て使ってしまえなどと言うつもりはありません。
ただ、手元に例えば5,000万円といった高額の現金を置いていても、年間で8%なんて増えません。株で増やそうとしたら、途端に減ってしまうかもしれません。ただし、平均よりもうんと長生きできた時に毎月のお金が乏しいのは心配なはずです。そして、80歳代後半や90歳になってから、仕事で多くの収入を得るのは多くの人にとって不可能でしょう。その時に、65歳よりも年金受給を先延ばししたことによって、もらえる年金を思い切り増やしておくと、長生きリスク対策にもなるというわけです。
これは手元に多額のお金を残しても仕方のないおひとりさま生活に特に言えることです。
先延ばししたくても、中には親やパートナーの介護のために仕事ができずに収入が年金だけなのでと言う人もいる。まあ、人それぞれです。
この話をするとやっぱり思うのは、健康であること、年齢を重ねても社会に適応できる柔軟な性質であることが、とても大切なんだということです。
◎知っておきたい年金の6つの知識
年金は毎月払う保険料は、厚生年金なら給料から天引きですし、国民年金はきちんと請求書が送られてきます。しかし、もらう時は全く逆です。自ら請求しないとお金はもらえません。前から、生命保険と社会保険(医療保険と介護保険と年金)について1冊本を書きたいと思ってるのですが、なかなかチャンスがありません。ここでは細かく説明できませんが、おひとりさま以外にも役にたつ注意ポイントだけ書いておきます。
(1)年金の繰り下げ(もらうのを遅くすること)は事前に決める必要はない。
1ヶ月先延ばしするだけで、0.7%ももらう年金額が増える、年金の受給の先延ばしはもらえる年金が驚くほど増えて魅力的だと思うけれど、先延ばしっていつまでに決めればいいのか? そう思う人もいるのではないでしょうか? 実は決めなくていいんです。
年金は65歳になると、自動的に支給されるわけではありません。もらうには、きちんと申し込みが必要になる。65歳になる3ヶ月ほど前に、日本年金機構から書類「年金請求書」が送られてくる。その書類を出さないと自動的に先延ばしになっていきます。これを年金受給の繰り下げと言いますが、繰り下げは最低1年経てば、あとは1ヶ月単位で決められます。ですから、例えば、2年半だけ先延ばしも可能なのです。
一度もらい始めると、もう止めることはできませんから、慎重に考えてください。63歳で病気になって働くこともできなくなったので、年金をもらい始めたけれど、翌年には良くなって働き始めたので、年金をストップしたいと思っても不可能です。減ったまま生涯続いてしまいます。
(2)会社員の年金は一部だけ繰り下げすることもできる。
繰り上げの時には老齢基礎年金と老齢厚生年金を同時に繰上げる必要があります。ただし繰り下げの時には片方だけ先延ばしにすることもできます。つまり、65歳の時点で先延ばして年金は増やしたいけれど、一部は今すぐもらいたい。そんなやり方もあるのです。
調べてみたら、65歳の時点で自分の老齢基礎年金は毎年70万円、それに対して、老齢厚生年金は50万円だということがわかったりする。老齢厚生年金部分の50万円だけは受給開始して、基礎老齢年金部分の70万円は先延ばしして、毎月0.7%ずつ増やそうということもできる、というわけです。もちろん、その逆も可能です。
(3)繰り下げて困ることがあったら、やっぱりやめたと言える。
佐藤に言われて、65歳で年金をもらい始めず、繰り下げている場合で想定できること。突然不幸が訪れることがあります。例えば、71歳の時にどうも調子が悪いと思い病院に行ったら、あなたは病気であと持っても2年です。そう宣告されたとします。40年近くも年金を払ってきて、これからもらってたったの2年か。佐藤に騙された! そう思った時に、ぜひ覚えておいてもらいたいのが、年金の一括受給です。繰り下げ受給をしている人は遡って最長5年分を一括してもらえるのです。例えば、71歳であれば、66歳からの5年分をまとめてもらえます。この場合、66歳ですから、それでも65歳の時にもらい始めるのと比べて1年繰り下げていますから、66歳の時からもらうのと比べて8.4%増しの年金の5年分が一気に支払われます。そして、生きている間は66歳から年金をもらう場合の金額でその後ももらい続けるということになります。年金の一括受給、覚えておいてくださいね。ただし、一度に多くの年金をもらうと、所得税や住民税など増える出費もあるものですが、そんなことを言ってる場合でない緊急事態の時にはぜひ思い出して使ってください。もちろん、これは余命宣告された人だけの制度ではありません。人生観が変わった。高級老人ホームに入るのに入所金が何百万円と必要だ。やっぱり今すぐ年金が欲しい。理由は関係ありません(以上は、2023年4月以降の新制度に基づいたもの)。
(4)年金の空白期間を気をつけよう。
年金は40年間、480ヶ月払って満額受給となります。払ってない期間は空白期間となってもらう年金が減ります。経済的な理由で払うのが困難なために届け出て免除を受けた場合は、その期間は2分の1だけ保険料を払ったものとして計算されます。その分、もらう年金は減ります。老後の生活の基盤は年金です。人生100年時代。長生きしたならしただけもらえるのが年金です。もらえる年金が多いのに越したことはありません。その大敵が年金の空白と免除の期間なのです。
そこで覚えておいて欲しいことを箇条書きにしてみました。
・年金の空白期間は、60歳からの任意加入で穴埋めできる。
・夫退職後の専業主婦・第3号被保険者は自ら払わないと空白期間を作って年金を少なくしてしまう。
・学生時代に年金を払ってなかった人が大変多い。学生納付特例制度を使った人も、後で年金を払って穴埋めしないともらえる年金は一生減ったままになってしまう。
・年金の免除、一部免除で年金は目減りする。可能であれば穴埋めしよう。
・年金は70歳まで厚生年金をもらえる職場で働くことによってドンドン増やすことができる。70歳以降に働く場合は厚生年金を払っても年金は増えない。
これら年金について、もっと細かく丁寧な説明を希望される場合は拙著『急に仕事を失っても、1年間は困らない貯蓄術』(2021年、亜紀書房)を参照してみてください。
(5)特に女性に覚えておいて欲しいこと。
夫が厚生年金に加入していれば、遺族厚生年金が出ます。自営業者でコツコツ国民年金を支払っている人には何かないでしょうか?
夫が第1号被保険者として直前10年間、国民年金を支払いながら亡くなった場合。10年以上の婚姻関係のある妻には、主に夫の収入で生活を維持されてきた場合は、60歳から65歳まで夫の基礎年金の75%が支払われます。
ただし、次の2つの場合は支払われません。夫がすでに年金受給者であった場合。また、妻が65歳より前にすでに繰り上げ受給を開始していた場合です。
例えばご夫婦で妻が60歳の時に老齢基礎年金の前倒し受給を開始した後に、妻が63歳の時に夫と死別した場合。この寡婦年金はもらえなくなってしまいます。
また、夫が厚生年金を払ってきた人なら、死別した後にもらえる遺族厚生年金がありますが、妻の繰り上げた老齢基礎年金は65歳までは同時に受け取れないことになっています。
また、遺族年金をもらっている妻が再婚すると、遺族年金はもらえなくなってしまいます。その後、離婚しても、再開されることはありません。
(6)これから、おひとりさまになる、特に専業主婦の方は年金分割を離婚後の2年以内に行うこと。
これから、おひとりさまになる方、特に多くの場合では女性にぜひ覚えておいてもらいたいことに、離婚した翌日から2年以内に年金の分割手続きをして下さいということです。夫が高所得で、妻が比較して低い所得、もしくは無い場合など、そのまま放っておくと元妻がもらえる年金額が大きく減ってしまうことがあります。今は、法律で婚姻期間中の年金は分割できることになっています。ただし、それも2年経つと分割ができなくなってしまいます。また、2年以内でも元夫が亡くなるようなことがあった場合はその後1ヶ月以内に手続きが必要です。
年金ではありませんが、婚姻期間中に購入した住宅もたとえ名義が夫のものであったとしても共有の財産とされます。ローンの残りなど考慮するポイントはありますが、売却して案分するか、所有する側が相手にお金を支払うかどちらかになります。
著書に、『安心・安全・確実な投資の教科書』『年収300~700万円 普通の人が老後まで安心して暮らすためのお金の話』(以上、扶桑社)、『しあわせとお金の距離について』(晶文社)、『急に仕事を失っても、1年間は困らない貯蓄術』(亜紀書房)、『日経新聞を「早読み」する技術』(PHP 研究所)など多数。また、『海外パックツアーの選び方・楽しみ方』(扶桑社)、『アジア自由旅行』(小学館 島田雅彦氏と共著)など旅行関連の出版物も多い。
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