本記事は、桑野麻衣氏の著書『「また会いたい!」と言われる 一流の話し方』(明日香出版社)の中から一部を抜粋・編集しています。

×「聞く」△「聴く」 → ○「聴く」+「訊く」

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(画像=New Africa/stock.adobe.com)

あなたの周りに「この人は聞き上手だな」と思える人はいますか?

コミュニケーションの話をすると、必ず「聞く」ことの重要性を耳にします。

実は、「きく」には「聞く」「聴く」「訊く」の3種類があります。

  • 「聞く」:耳に自然に入ってきた音や言葉を認識する。受動的。英語では〝hear〟
  • 「聴く」:相手の感じていること、伝えようとしていることを理解しようと耳を傾ける。「聞く」よりも能動的。英語では〝listen〟
  • 「訊く」:自分の興味や関心から湧き起こった、知りたいことや質問したいことを尋ねる。英語では〝ask〟

このように比較してみると、少しずつ意味が違います。相手と信頼関係を築くには、「聴く」と「訊く」が大切です。

昨今では「傾聴」という言葉だけが一人歩きしてしまい、小手先のテクニックだけが広まっている印象があります。実際に、そういったテクニックは相手に関心を示したり、心理的距離を縮める効果があります。しかし、「傾聴」の本質や目的は、あくまで信頼関係を構築することです。そのテクニックを実践すること自体が目的になっては、意味がありません。むしろテクニックが先行することで、あまり話を聞いていない印象にもなってしまいます。

そうならないためにも「聞く」よりも「聴く」「訊く」姿勢が必要です。

「ふ~ん」「へぇ~」と適当なあいづちをし続けたり、無表情のまま話をただ聞くのではなく、「相手は何を考えているのだろう」「私に伝えたいことは何だろう」という目線で、まずは相手の描く世界に入ることを大切にしてみてください。そこで出てきた興味や関心が「質問」になり、理解を深めたり共感することに繋がるのです。

私の通う美容院には、とても「聴く」「訊く」ことが上手な美容師さんがいます。会話中、やみくもに質問をするのではなく、「それってこういうことですか?」という質問をしてくれて私が話していることに興味を持ち、理解しようとしてくれていることが伝わってくるのです。こちらもとても話しやすく、居心地が良いなと行く度に感じています。

「訊く」の思わぬ落とし穴

ただ、ここで注意するポイントが1つあります。「訊く」は、質問内容によっては自分にベクトルが向いている印象にもなり得るのです。「聴く」をせずして「訊く」姿勢を前面に押し出してしまうと、相手は責められている、尋問されているような気持ちになるかもしれません。無表情のままで、あいづちもないのに矢継ぎ早に「どういう意味ですか?」「こういうことですか?」と訊かれれば不快な気持ちになりますよね。「私の話がわかりにくいのかな?」「話がつまらないのかな?」と不安になってしまいます。

相手と信頼関係を構築するためには「聴く+訊く」をぜひ意識してみてくださいね。

POINT
相手の世界に入ることが、聞き上手への第一歩

×「ただうなずく」△「なんとなく質問する」 → ○「相手の話したことをメモに残す」

メモ
(画像=mangpor2004/stock.adobe.com)

コミュニケーションの第一歩は「傾聴すること」とよく言われます。傾聴スキルについて書かれた本や記事も、多く目にするようになりました。人の話を聞く時、あなたが実践していることはありますか?

代表的なもので言えばアイコンタクト、うなずき、あいづちなどが挙げられるでしょうか。しかし、前の項目でもお伝えしたように傾聴のゴールは「相手の話をよく聞くこと」ではなく、「信頼関係を構築すること」。ただうなずきながら受け身の姿勢で聞くのではなく、聞き手が能動的に場を作る姿勢が求められます。

その一例として、「質問スキル」があります。多くの人が就職活動の面接で「最後に何か質問はありますか?」と聞かれた経験があるのではないでしょうか。こんな時、良い質問とそうでない質問に分かれます。良い質問は「この会社で働く上で〇〇さんのやりがいを感じる瞬間はどのような瞬間ですか?」や「〇〇さんが思われる、この会社の良いところを教えていただけますか?」と相手に聞かなければわからない質問です。良い質問は時に、話し手をハッとさせる気づきを与えてくれます。

それに比べて、悪い質問というのは「御社の従業員数はどのくらいですか?」や「御社の福利厚生を教えてください」といった、ホームページなどで調べればわかる質問です。相手に気づきを与えないどころか、「うちの会社にあまり興味がないんだろうな……」と思われかねません。良い質問を心がけることで「自分に興味を持ってくれているな」「こちらの話を正しく理解しようとしてくれているんだな」と相手は感じます。質問スキルを磨くことも「傾聴」にはもちろん大切です。

自分のためにも相手のためにもなる習慣

しかし、一流のやり方としておすすめしたいのは「メモを取る」習慣です。手帳やノートに手書きでメモをするのはもちろん、スマートフォンやタブレットなどデジタルツールのメモ機能を使っても構いません。

メモを取ることには2つの意味があります。1つめは、自分の記憶として残すためです。

2つめは、相手の言葉を大切に取り扱っていると表現するためです。この項目でお伝えしたいのはまさにこの2つめの理由です。メモを取ると、自分の記憶に残るだけでなく、「私の話をよく聞いてくれた」と相手の記憶にも良い印象で残ることができます。

会社員だった頃、私の話すことを必ずメモしてくれる上司がいました。面談やちょっとした相談事をする際にも、「ちょっとメモを取っても良い?」と必ずA4サイズのメモパッドを広げて聞いてくれたのです。ただのメモにすぎないと思うかもしれませんが、部下の私にとっては「部下の話を片手間にではなく、どのような時にもしっかりと傾聴してくれている」と嬉しく思ったことを覚えています。

相手が話している時に相手の顔をまったく見ることなく、メモを取るという意味ではありません。アイコンタクトやうなずき、あいづちといった基本的な傾聴姿勢も忘れずに。メモを取ることで、相手に「あなたやあなたの言葉を大切にしています」という心を形にできます。自分のためにも相手のためにも、メモを取る習慣を取り入れてみてください。

POINT
メモを取ることで、自分の記憶にも相手の記憶にも残る

×根掘り葉掘りしつこく質問する △会話を広げようと話題がすぐに移る → ○「点」と「線」のバランスを取る

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(画像=PIXTA)

先ほど、質問スキルを磨くことも「傾聴」にはもちろん大切とお伝えしました。質問上手な人は、どのように質問をしているのでしょうか?

「質問」といっても、ただやみくもに相手に問いかければ良いのではありません。特に、初対面の相手に根掘り葉掘り質問されるのを好む人はあまりいませんよね。自分への興味や関心は感じられるけれど、良い気持ちはあまりしないでしょう。

質問によって、相手との距離を正しく縮めるためには、バランスにポイントがあります。

「線の質問」「点の質問」というのは聞いたことがありますか?

「線の質問」は会話を深掘りしていく質問スタイルです。「趣味は海外旅行」と答える人に対して、次のようにどんどん深掘りしていきます。

A「どこの国が好きですか?」 B「ハワイが好きです」
A「ハワイのどんなところが好きですか?」 B「海や街並みが綺麗なところですかね」

この質問は、相手の話に関心があることをわかりやすく表現できます。しかし、この質問ばかり続けてしまうと、しつこい印象を与えかねません。馴れ馴れしいと感じる人、悪い意味で距離が近いなと感じる人は「線の質問」を多用している可能性が高いです。

それに対して「点の質問」は、次のように会話を広げる質問スタイルを指します。

A「どこの国が好きですか?」 B「ハワイが好きです」
A「リゾート地が好きなんですか?」「これまで何か国くらい旅行しましたか?」

ただ「点の質問」の連続は相手の話題には興味がない、他の話題にさっさと移りたいようにも見えてしまいます。質問はしてくれるものの「話がよく飛ぶな」と感じるのは、これが原因です。

このように、どちらかばかりを使ってしまうと、相手とうまく距離を縮めることは難しくなります。

線:点=2:1の黄金比率

おすすめしたいのが「線→線→点→線→線→点」と「線の質問」と「点の質問」を2:1の割合でしていく方法です

先ほどの海外旅行が好きな人との会話を例に考えてみます。

相手が「ハワイが好き」ということがわかったら、次のように質問をしてみましょう。

「ハワイのどんなところが好きですか?」(線の質問)
「ハワイの中で好きなビーチはありますか?」(線の質問)
「泳ぐことやマリンスポーツがお好きなんですか?」(点の質問)

このように、話題を少し深めたら、広げる感覚を意識してみてください。すると、相手のパーソナルな領域に入り込みすぎることもなく、適度な距離を保った状態で興味や関心を表現することができます。

POINT
話題は、深めてから広げる
=「また会いたい!」と言われる 一流の話し方
桑野麻衣
あなたの心に火をつける!人材育成・コミュニケーション教育者
1984年埼玉県生まれ。学習院大学卒業後、全日本空輸株式会社(ANA)に入社。グランドスタッフとして、7年間で100万人を超えるお客様サービスに携わる。最重要顧客DIAMOND会員専用カウンターのサービス責任者、教育訓練インストラクターを務める。ANA在籍中、オリエンタルランドに出向し、ディズニーのサービスや教育を学ぶ。その後ジャパネットたかたや再春館製薬所グループ企業にて教育研修を担当し、独立。現在では、コミュニケーション、リーダーシップ、接遇マナー等をテーマに新入社員から管理職、中学生から経営者、医療業界など幅広い層に向けて、企業研修や講演を行い、これまでの受講者は50000名を超える。
著書には『好かれる人の話し方、信頼される言葉づかい』『部下を元気にする、上司の話し方』『オンラインでも好かれる人・信頼される人の話し方』(以上、クロスメディア・パブリッシング)がある。『PRESIDENT』『AERA』『with』『MORE』『CLASSY.』『Oggi』『美人百花』などメディア出演も多数。

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