本記事は、齋藤孝氏、射手矢好雄氏の著書『BATNA 交渉のプロだけが知っている「奥の手」の作り方』(プレジデント社)の中から一部を抜粋・編集しています。
交渉が失敗する「ふたつの原因」
数々のビジネスの交渉に携わってきたわたしの経験上、日本人がビジネスにおいて交渉に失敗するのには、ふたつの大きな原因が考えられます。
まずひとつは、自分の〈利益〉を明確にわかっていないことです。「なんのためにやりたいのか」「なにがほしいのか」をそもそもわかっていないのが、交渉に失敗するもっとも大きな原因になっています。
もうひとつは、〈BATNA〉を検討していないことです。自分の〈利益〉があいまいなうえに、ベストな代替案もわかっていない。だから、目の前の相手と変な〈合意〉をしてしまうわけです。わたしの経験上、このふたつがうまくいかない交渉の多くの原因を占めています。
ほかには、〈オプション〉の設定が甘かったり、〈オプション〉の数が少なかったりすることもままあります。〈利益〉ははっきりしているのに、それを実現するための方法を突き詰められていないわけです。
そこで、〈オプション〉と表記していますが、実際には〈オプションズ〉といってもいいくらい、〈オプション〉をできるだけたくさん準備するようにしてください。
わたしがクライアントの相談に乗るときでも、〈オプション〉がひとつだけだったり、せいぜいA案、B案の2案程度で交渉に臨んだりする人が多いのですが、3つ、4つ、5つと、打てる手は多いほうがいいとアドバイスしています。
もちろん、あまり使えない〈オプション〉を持っていても複雑になるだけなので、取り得るエース級の〈オプション〉を3つか4つ持つのを目安にすれば、いい交渉をしやすくなると思います。
いずれにせよ、交渉の基本は〈利益〉を徹底的に考えてから臨むこと。そもそも〈利益〉を詰めきって考えていないから、変な〈オプション〉や甘い〈オプション〉を選んでしまうのです。
そして、それら「交渉の土俵」である3要素とともに、交渉がうまくいかないときのために、必ず〈BATNA〉を持って交渉に臨むようにしてください。