本記事は、齋藤孝氏、射手矢好雄氏の著書『BATNA 交渉のプロだけが知っている「奥の手」の作り方』(プレジデント社)の中から一部を抜粋・編集しています。

交渉が失敗する「ふたつの原因」

二択
(画像=kelly marken/stock.adobe.com)

数々のビジネスの交渉に携わってきたわたしの経験上、日本人がビジネスにおいて交渉に失敗するのには、ふたつの大きな原因が考えられます。

まずひとつは、自分の〈利益〉を明確にわかっていないことです。「なんのためにやりたいのか」「なにがほしいのか」をそもそもわかっていないのが、交渉に失敗するもっとも大きな原因になっています。

もうひとつは、〈BATNA〉を検討していないことです。自分の〈利益〉があいまいなうえに、ベストな代替案もわかっていない。だから、目の前の相手と変な〈合意〉をしてしまうわけです。わたしの経験上、このふたつがうまくいかない交渉の多くの原因を占めています。

ほかには、〈オプション〉の設定が甘かったり、〈オプション〉の数が少なかったりすることもままあります。〈利益〉ははっきりしているのに、それを実現するための方法を突き詰められていないわけです。

そこで、〈オプション〉と表記していますが、実際には〈オプションズ〉といってもいいくらい、〈オプション〉をできるだけたくさん準備するようにしてください。

わたしがクライアントの相談に乗るときでも、〈オプション〉がひとつだけだったり、せいぜいA案、B案の2案程度で交渉に臨んだりする人が多いのですが、3つ、4つ、5つと、打てる手は多いほうがいいとアドバイスしています。

もちろん、あまり使えない〈オプション〉を持っていても複雑になるだけなので、取り得るエース級の〈オプション〉を3つか4つ持つのを目安にすれば、いい交渉をしやすくなると思います。

いずれにせよ、交渉の基本は〈利益〉を徹底的に考えてから臨むこと。そもそも〈利益〉を詰めきって考えていないから、変な〈オプション〉や甘い〈オプション〉を選んでしまうのです。

そして、それら「交渉の土俵」である3要素とともに、交渉がうまくいかないときのために、必ず〈BATNA〉を持って交渉に臨むようにしてください。

BATNA 交渉のプロだけが知っている「奥の手」の作り方
齋藤孝
1960年、静岡県に生まれる。明治大学文学部教授。東京大学法学部卒業後、同大学大学院教育学研究科博士課程を経て、現職に至る。『身体感覚を取り戻す』(NHK出版)で新潮学芸賞受賞。『声に出して読みたい日本語』(毎日出版文化賞特別賞、2002年新語・流行語大賞トップテン、草思社)がシリーズ累計260万部のベストセラーになり日本語ブームをつくった。著書には、『読書力』『コミュニケーション力』『新しい学力』(すべて岩波書店)、『雑談力が上がる話し方』『話すチカラ』(ともにダイヤモンド社)、『大人の語彙力ノート』(SBクリエイティブ)、『人生の武器になる「超」会話力』(プレジデント社)、共著書に『心穏やかに。人生100年時代を歩む知恵』(プレジデント社)などがある。NHK Eテレ「にほんごであそぼ」総合指導。テレビ出演も多数。著者累計出版部数は1,000万部を超える。
射手矢好雄
1956年、大阪府に生まれる。弁護士、ニューヨーク州弁護士。アンダーソン・毛利・友常法律事務所パートナー。一橋大学法科大学院特任教授。京都大学法学部卒業後、ハーバード大学ロースクールを修了し、日本とアメリカ・ニューヨーク州の弁護士資格を有する。2022年度より日本交渉学会の会長を務める。M&A、紛争解決、海外法務を専門とし、中国をはじめインド、タイ、ベトナム、インドネシアなどとの国際ビジネス交渉に従事。日本経済新聞「企業が選ぶ弁護士ランキング国際部門」にて1位を複数回獲得(2010年、14年、17年等)するほか、「Chambers Global」「The Best Lawyers」「Legal 500」「Who's Who Legal」など多数の受賞歴を持つ。編書に『中国経済六法2022年増補版』(日本国際貿易促進協会)、監修書に『2021/2022 中国投資ハンドブック』(日中経済協会)、齋藤孝氏との共著に『うまくいく人はいつも交渉上手』(講談社)がある。

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