この記事は2023年3月3日(金)配信されたメールマガジンの記事「クレディ・アグリコル会田・大藤 アンダースロー『植田氏『金融緩和を継続』。日銀新体制はどうなる?』を一部編集し、転載したものです。
目次
毎月第1金曜日の午前6時から会田がコメンテーターとして出演している文化放送の「おはよう寺ちゃん」の内容の一部をまとめたものです。
植田新日銀総裁下の金融政策について
問(寺島):日銀の総裁候補である元日銀審議委員で経済学者の植田和男氏が今週、参議院で所信聴取に臨みました。植田氏は「情勢に応じて工夫を凝らしながら、金融緩和を継続することが適切だ」と強調して、衆議院での所信聴取に続き、金融緩和を継続していく考えを改めて表明しています。衆参両院の同意が得られれば、植田氏は4月9日に日銀総裁に就任します。金融緩和を継続していく考えを改めて表明したことについてはどう評価していますか?
答(会田):2%の物価安定目標が持続的・安定的に実現したとの判断に至っていない現状では、日銀は金融緩和を継続することになります。確かに、消費者物価指数の上昇率は2%を超えています。しかし、これは内需の回復による自律的なものではなく、ほとんど輸入価格の上昇などの海外要因によるものです。賃金上昇をともなう内需の強い回復+2%の物価上昇という形が実現するには、まだしばらく時間がかかりそうです。
植田新日銀総裁下でのアベノミクス踏襲について
問(寺島):植田氏は、「現在の大規模な金融緩和はメリットが副作用を上回っている」としたうえで、継続が必要だという考えを重ねて示しています。また、故安倍・元総理が進めた経済政策「アベノミクス」については、「着実な成果が上がっている」と述べました。そのうえで、アベノミクスを踏襲するかどうかについて、「インフレ率が持続的・安定的に2%を達成するよう続けるという意味で踏襲する」との考えを示しましたが、アベノミクスへの考え方についてはいかがですか?
答(会田):日銀の執行部の人事ばかり注目されますが、より重要なのは、政府の公式の経済政策の方針です。岸田内閣は、大胆な金融政策を含むアベノミクスの堅持を閣議決定しています。この方針が変わらない限り、どなたが日銀総裁になられても、アベノミクスを踏襲することになります。
日銀新執行部が直面する課題について
問(寺島):一方、金融緩和を縮小するいわゆる出口戦略については、「持続的・安定的に2%のインフレ目標が達成できる見込みが得られるようになったときに、出口戦略を開始することになる。今後の経済や物価情勢の変化に応じて最適で望ましいやり方は変わっていくものになり、現時点では具体的にコメントすることは差し控えたい」と述べています。10年続く異次元の金融緩和で日銀は国債発行残高の半分以上を抱え込み、経済にはさまざまなゆがみが出ているとの声が出ていますが、植田新体制が最初に直面する難問は何なのでしょうか?
答(会田):2%の物価安定目標が持続的・安定的に実現するまで金融緩和を継続することを、しっかり説明することです。海外の中央銀行が金融引き締めを続ける中、日銀がいつ引き締めに追随するのか不安が広がっています。日銀は、グローバルな政策の動きから1サイクル遅れる覚悟があるとみられます。今回ではなく、次回のグローバルな景気回復の局面での引き締めには追随できるように、日本経済の基礎体温を上げ続けることが必要になります。
足元のインフレの持続性について
問(寺島):1月の消費者物価指数は、前の年の同じ月に比べて4.2%上昇しました。第2次オイルショックの影響で物価が上がっていた1981年9月以来、41年4カ月ぶりの上昇率です。円安や資源高の影響で、食料品やエネルギーといった生活に身近な品目が値上がりしています。我々庶民の暮らしを直撃しているわけですが、「財政支出が足りないため、家計に所得が回っていない」との考えの詳しく教えてください。
答(会田):企業が投資や賃金などの支出を減らし、貯蓄率が異常なプラスになってしまっています。この支出の不足としての過剰貯蓄が、総需要を破壊し、構造的なデフレ圧力として残っています。政府が支出を増やし、企業貯蓄率と財政収支の合計であるネットの資金需要を拡大しなければ、家計に所得がしっかり回っていきません。マクロ経済では、誰かの支出が誰かの所得になるからです。コロナ後の財政拡大で、ネットの資金需要はようやくちょうど良い水準に回復しました。構造的なデフレ圧力を払しょくするためには、コロナ後も、この規模の財政支出を続ける必要があります。
インフレ喚起のための財政政策の重要について
問(寺島):誰かの支出が誰かの所得になるということですが、では今後、岸田政権にはどういうことを望みますか?
答(会田):6月に向けて、自民党内で2024年度の予算編成の骨太の方針の議論が進みます。昨年は、アベノミクス堅持とともに、基礎的財政収支の黒字化目標の事実上の無効化と、重要な政策に対する歳出抑制策の解除など、緊縮財政から積極財政へのシフトが示されました。自民党内の求心力を維持するため、岸田内閣はこの方針を継続するとみられます。もしアベノミクスの破棄と緊縮財政への回帰となれば、日本経済は深いデフレ構造不況に再び陥り、岸田政権が倒れるリスクが出てきてしまうことになります。
賃上げを伴うインフレについて
問(寺島):その政府と日銀が2%の物価上昇目標を明記した共同声明について、日銀総裁候補である植田氏は、「直ちに見直す必要があるとは考えていない」と明言しています。※政府・日銀が、デフレからの脱却と持続的な経済成長の実現に向けた「共同声明」を発表してから10年、声明で掲げた「2%の物価目標」はいまだ実現できていないです。植田氏は、足元で4%を超える物価上昇率について、「輸入物価の上昇によるもので、需要の強さによるものではない」と指摘しましたが、賃金上昇を伴う安定的な2%目標の実現には、まだまだ時間がかかるのでしょうか?
答(会田):企業の投資や賃金などの支出が増え、企業貯蓄率が正常なマイナスに回復し、構造的なデフレ圧力が払しょくされることが、2%の物価目標実現の条件になっていると考えます。企業の経営を考えた場合、ビジネスのパイが縮小する環境では、いくら規制緩和や減税をされても、コスト削減から投資にギアを上げません。緩和的な金融緩和の下、まずは政府が財政支出を拡大して、ビジネスのパイである名目GDPを持続的に拡大することにコミットし、企業のギアを上げさせる必要があります。そこまでにはまだ1・2年の時間がかかりそうです。
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