この記事は2023年3月22日(金水)配信されたメールマガジンの記事「クレディ・アグリコル会田・大藤 アンダースロー『日本の株式市場の強い上昇にはESGマクロ指数の改善が必要』を一部編集し、転載したものです。
シンカー
- 2022年10-12月期の日本経済ESGマクロ指数は0.75と、7-9月期の1.02から低下し、2021年10-12月期のピークである1.23から4四半期連続で低下した。
- 鉱物性燃料への依存度が上昇したことと、グローバルな景気減速により製造業を中心に売上高利益率が低下したことが寄与した。
- ESGマクロ指数は、E(環境)、S(社会)、G(ガバナンス)のそれぞれを代表する二つのマクロ指数を総合したものである。
- ESGマクロ指数は、日経平均のZスコアと強い相関関係を持っていることが分かった。
- 日本の株式市場の強い上昇には、ESGマクロ指数が局面変化の水準である1をしっかり上回る改善をすることが必要だ。
日本経済ESGマクロ指数は4四半期連続で低下
2022年10-12月期の日本経済ESGマクロ指数は0.75と、7-9月期の1.02から低下し、2021年10-12月期のピークである1.23から4四半期連続で低下した。鉱物性燃料への依存度が上昇したことと、グローバルな景気減速により製造業を中心に売上高利益率が低下したことが寄与した。この4四半期の低下の寄与度は、E(環境)がー0.35、S(社会)がー0.09、G(ガバナンス)がー0.04となる。
ESGマクロ指数とは
ESGマクロ指数は、E(環境)、S(社会)、G(ガバナンス)のそれぞれを代表する二つのマクロ指数を総合したものである。合計で六つの指数のZスコアを単純平均したものである。0が長期平均となり、プラス・マイナス1を超えると、大きな局面変化が起こっていることになる。ESGマクロ指数は、日経平均のZスコアと強い相関関係を持っていることが分かった。日本の株式市場の強い上昇には、ESGマクロ指数が1をしっかり上回る改善をすることが必要だ。
E(環境)のマクロ指数
E(環境)のマクロ指数は、鉱物性燃料への依存度とテクノロジーの進歩をとられる。一つ目は、鉱物性燃料輸入のGDP比率を使う。多くの原発の再稼働や再生可能エネルギーへの転換が遅れれば、指数の改善を妨げ続ける。二つ目は、貿易統計の輸出物価と企業物価統計の輸出物価の比率を使う。企業物価統計では、品質調整を行っている一方で、貿易統計は行っていない。日本の輸出品の品質が向上すれば、比率は上昇することになる。
S(社会)のマクロ指数
S(社会)のマクロ指数は、家計のファンダメンタルズと女性の社会進出をとらえる。一つ目は、資金循環統計ベースの家計貯蓄率(GDP比)を使う。家計の所得が伸びず、中間層の疲弊と、相対的貧困率が上昇してしまってきた。家計がしっかりとした資産を形成できることが、社会の安定につながると考える。二つ目は、女性の就業率を使う。女性の社会進出への動きは遅れていた。近年、機会平等への意識の変化と働き方改革などが進むことで、女性の社会進出が促進されている。
G(ガバナンス)のマクロ指数
G(ガバナンス)のマクロ指数は、企業の資本効率と利益率をとらえる。一つ目は、資金循環統計ベースの企業貯蓄率を使う。デフレ構造不況の原因は、企業の支出不足による過剰貯蓄にあると考えられる。企業は借入れや株式で資金を調達して事業を行う主体なので、企業の貯蓄率はマイナスであるべきだ。しかし、日本ではバブル崩壊後、企業が後ろ向きになり、リストラと債務削減を続けた結果、異常なプラスの企業貯蓄率が続いてしまっている。リターンが0%に近い資本を積む行為で、プラスの企業貯蓄率は資本効率が悪いことも示す。二つ目は、企業の売上高経常利益率を使う。利益よりマーケット・シェアの拡大を目指すことで、経営が歪んでしまっていた。利益率の改善は、経営効率の改善を示すとともに、企業の付加価値の向上も示す。
図:日本経済のESGマクロ指数と日経平均のZスコア
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