本記事は、井崎英典氏の著書『世界のビジネスエリートは知っている教養としてのコーヒー』(SBクリエイティブ)の中から一部を抜粋・編集しています。
コーヒーは食べ物だった!
人類最初のコーヒーは、飲み物ではなく「食べ物」だったかもしれません。
エチオピア最大の民族、オロモ族は5,000年以上前からコーヒー豆を携帯食にしていたという話があります。煎って潰したコーヒー豆をバターと混ぜて団子状にしたもので、「エナジーボール」という通称があるようにエネルギーとカフェインたっぷりの食べ物です。これを戦いの際に持ち歩き、活用したというのです。
現在もオロモ族の一部には「ブナ・カラー」という名で、この風習が伝わっているそうです。
ほかにもエチオピアでは、さまざまな民族が多様なコーヒー利用法を持っています。
たとえば豆を薬として使う、果実を野菜として料理に使う、干した果実を炒めて食べるなどです。
コーヒーノキになる実は熟すと真っ赤になり、サクランボのような見た目で「コーヒーチェリー」と言われています。身近にあったこの果実を美味しそうに思って食べるのは想像しやすい光景ですね。
実際にオロモ族が5,000年以上前から「エナジーボール」を食べていたかどうかはさておき、コーヒーノキが自生していたエチオピアで、最初に「食べた」ということ自体は納得ができます。
逆に、現代の私たちがコーヒーチェリーそのものを食べないのはなぜでしょうか。
果実部分はポリフェノールや鉄分、ビタミンAなど栄養もたっぷりで、スーパーフルーツとも言えます。ただ、実物を見るとよくわかるのですが、そもそも果肉部分は非常に少なく、これを食用にすることは難しいのです。生産者たちが食べることはあっても、コーヒー豆になる種子以外は廃棄しています。
ただ近年はSDGsの観点からも、この果実と果皮を利用しようという動きがあります。ジャムにしたり乾燥させてお茶にしたりして、販売されているものもあるので、興味のある方は探してみてはいかがでしょうか。
イエメンに残る飲み方「ブン」と「キシル」
さて、15世紀頃にはイスラム世界で「コーヒーのカフワ」が飲まれていたという話はしましたね。この「コーヒーのカフワ」には2種類あります。「ブン」と「キシル」です。
「ブン」は、コーヒー豆を果実ごと炙って煮出した飲み物。もうひとつの「キシル」は、コーヒーの果実を乾燥させたときにできる、果肉とパーチメント(皮殻)がくっついたものを煮出して作る飲み物です。
つまり、「ブン」はコーヒー豆+果肉、「キシル」は果肉+皮殻を煮出した飲み物であり、現在のように豆だけを煎って煮出す飲み物ではありませんでした。イエメンで「コーヒーのカフワ」が広まる過程でブンが優勢となり、さらにかたちを変えてコーヒー豆だけを使う現在のいわゆるコーヒーになっていったと考えられています。
ブンとキシルはどのような味だったのでしょうか?
想像するしかありませんが、果肉部分を使っているため、いまよりもフルーティーだったのではないかと思っています。
なお、現在もイエメンにはブンとキシルの両方が、若干かたちを変えて残っています。
現代のブンは、果実を使わず豆だけを煮出して作るコーヒーです。浅煎りの豆とカルダモンなどのスパイスを煮込んで作ります。
キシルは、乾燥させたコーヒーの果肉と皮殻部分をショウガやシナモンなどのスパイスと一緒に煮出し、砂糖を入れて甘くした飲み物です。コーヒーより安く、手に入りやすいためイエメンでは人気だそうです。
私も一度飲んでみたいと思っていますが、イエメンは情勢がなかなか安定せず残念ながらまだ現地に赴くことができていません。
高校中退後、父が経営するコーヒー屋「ハニー珈琲」を手伝いながらバリスタに。2012年に史上最年少でジャパン・バリスタ・チャンピオンシップにて優勝し、2連覇を成し遂げた後、2014年のワールド・バリスタ・チャンピオンシップにてアジア人初の世界チャンピオンとなり、以後独立。コーヒーコンサルタントとして年間200日以上を海外でコンサルティングに従事し、Brew Peaceのマニフェストを掲げてグローバルに活動。コーヒー関連機器の研究開発、小規模店から大手チェーンまで幅広く商品開発からマーケティングまで一気通貫したコンサルティングを行う。日本マクドナルドの「プレミアムローストコーヒー」「プレミアムローストアイスコーヒー」「新生ラテ」の監修、カルビーの「フルグラビッツ」ペアリングコーヒーの開発、中国最大のコーヒーチェーン「luckin coffee」の商品開発や品質管理など。テレビ・雑誌・WEBなどメディア出演多数。著書・監修に『世界一美味しいコーヒーの淹れ方』ダイヤモンド社、『理由がわかればもっとおいしい! コーヒーを楽しむ教科書』ナツメ社、『世界一のバリスタが書いた コーヒー1年生の本』宝島社など累計10万部突破。
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