本記事は、井崎英典氏の著書『世界のビジネスエリートは知っている教養としてのコーヒー』(SBクリエイティブ)の中から一部を抜粋・編集しています。
コーヒーの味は誰が評価するのか?
少しこだわる人であれば、カフェや専門店でスペシャルティコーヒーを飲んだことがあるのではないでしょうか。それは、バイヤーが生産者から直接買い付けたコーヒーということになります。優れた風味や味わいがあり、品質が高いと感じたからこそ、相応の金額を支払って買い付けているはずです。
買い付けをする際に重要なのが、「カッピング」です。ワインで言うところの「テイスティング」をイメージするとわかりやすいでしょう。その年に収穫されたコーヒー豆のサンプルをローストして、香りと味を確かめます。豆の品質を客観的かつ総合的に判断し、最終的に購入するかどうかの判断をします。
生産者を訪ね歩いてカッピングするわけではなく、多くの場合はサンプルを用意している輸出業者のところで行います。たとえば30~40種類のサンプルをすべて同じ条件下(容器や粉量、湯量、浸漬時間など)でカッピングしていきます。豆を挽いた直後の香り、お湯を注いだタイミング、攪拌したタイミングで香りを確認し、吸いこむようにして口に含んでチェックします。
そして、90点をつける高品質の豆に出会ったとしましょう。
「これはすごくいいコーヒーだ。ぜひ買いたいが、提示価格は?」
ポンド(約0.454㎏)あたり30ドル。かなり高い印象です。この価格で購入して、本当に利益が出せるだろうか? 考えるわけです。場合によっては交渉をします。
「こっちの豆も買うから、もう少し安くして」
「今年はこれだけだけど、来年も買うから安くして」
気に入った豆の生産者のもとへ足しげく通い、さらなる情報を得たり関係性を作ったりすることもあります。
ただ、前にも、円安により日本の購買力が落ちている話をしました。日本のバイヤーの交渉力も相対的に落ちているはずです。いまもすでに、そしてこれから、日本で飲まれるスペシャルティコーヒーは、物価高+円安で大きく値段が上がっていくでしょう。
「スペシャルティコーヒーを安価に」という取り組みをしているカフェやショップにとっては厳しい時代になっていくに違いありません。
奥深いカッピングの世界
これを言い出せばキリがないですが、カッピングをする「カッパー」自身を評価する方法はいまのところありません。
コモディティコーヒーの等級付けは一定の基準で判断するので客観的ですが、スペシャルティコーヒーの場合は曖昧です。ですから、カッパーによって評価は分かれますし、いいかげんなことを言う人も中にはいるのが事実です。そもそもカッパーとしての能力に疑問符がつく人もいます。
カフェのバリスタが、店にふさわしい豆かどうかを確認するための個人的なカッピングならいいのです。主観的にいいと思った豆を選び、語ればいいでしょう。しかし、バイヤーとしてのカッピングは違います。品質評価を客観的に行うのがカッパーです。非常に難しく奥が深い仕事だと思います。
私自身は豆の買い付けなどの上流部分に手を出さないことにしています。すべてのサプライチェーンでプロにはなれないとわかっているからです。
私はコーヒーコンサルタントとして、コーヒーが適切に抽出できているか見極める技術に関しては誰にも負けない自信があります。しかし、生豆の品質評価はまったく別。バリスタもカッピングをしてコーヒーの香りや味を確認するのだから、同じではと思うかもしれませんが、全然違うのです。
私は、与えられた豆のベストを引き出すことができているかどうかを確認するアプローチをとります。たとえば、飲んだ瞬間に「あ、この豆は古い感じがする。保存環境がよくないから改善したほうがいい」といったことがわかるのです。
豆そのものの価値ではなく状態の判断を目的としたカッピングは、生豆のポテンシャルを判断するのを目的としているバイヤーのカッピングとは違うのがおわかりいただけるでしょう。
カッピングもできれば焙煎もできる、もちろん抽出はプロフェッショナル……という人には、なかなかなれるものではありません。
それだけ、各工程が奥深いということです。
コーヒー豆の品評会「カップ・オブ・エクセレンス」
品質評価をするカッピングが国際的に行われている場もあります。コーヒー好きな人なら、「カップ・オブ・エクセレンス(COE)」は聞いたことがあるでしょう。
カップ・オブ・エクセレンスとは、その年に収穫されたコーヒー豆の中で最高品質のものを国際的に決める品評会です。1999年にブラジルで初めて開催されて以来、世界中の生産国にて年に一度開催されており、消費国でも生産国でも注目を集めています。運営しているのはアメリカのNPО法人Alliance for Coffee Excellence(ACE)です。
スペシャルティコーヒーの世界では、「CОE受賞豆」が大きな売りとなります。
受賞した豆はインターネットオークションにより世界中のコーヒー業者が入札。直接売買をすることによって、落札金額のほとんどを生産者が受け取ることができる仕組みになっています。
COEで審査するのは、世界各国から集まった国際審査員です。スペシャルティコーヒーの最低基準をクリアしていることをチェックしたうえで、国内審査と国際審査の2段階で審査します。どちらも「ブラインド」といって、先入観の余地が残らないようコーヒーの情報は伏せられた状態で行うのが特徴です。
評価の項目は8つあります。「フレーバー」「後味」「酸味の質」「口に含んだ質感」「カップのきれいさ」「甘さ」「バランス」「総合評価」をそれぞれ8点満点で評価します。8点×8項目=64点+基礎点36点で100点満点のうち、審査員の評価が平均87点以上となったベスト30のコーヒー豆だけが受賞できることになっています。
審査はかなり厳しく、なかなか狙って受賞できるものではありませんが、この品評会があることで小規模農園の生産者たちも品質向上への意欲が増します。世界から注目を集める可能性があるのですから。
COE受賞豆にはパッケージにロゴがついています。もしもコーヒーショップなどで見かけたら、試してみてはいかがでしょうか。
高校中退後、父が経営するコーヒー屋「ハニー珈琲」を手伝いながらバリスタに。2012年に史上最年少でジャパン・バリスタ・チャンピオンシップにて優勝し、2連覇を成し遂げた後、2014年のワールド・バリスタ・チャンピオンシップにてアジア人初の世界チャンピオンとなり、以後独立。コーヒーコンサルタントとして年間200日以上を海外でコンサルティングに従事し、Brew Peaceのマニフェストを掲げてグローバルに活動。コーヒー関連機器の研究開発、小規模店から大手チェーンまで幅広く商品開発からマーケティングまで一気通貫したコンサルティングを行う。日本マクドナルドの「プレミアムローストコーヒー」「プレミアムローストアイスコーヒー」「新生ラテ」の監修、カルビーの「フルグラビッツ」ペアリングコーヒーの開発、中国最大のコーヒーチェーン「luckin coffee」の商品開発や品質管理など。テレビ・雑誌・WEBなどメディア出演多数。著書・監修に『世界一美味しいコーヒーの淹れ方』ダイヤモンド社、『理由がわかればもっとおいしい! コーヒーを楽しむ教科書』ナツメ社、『世界一のバリスタが書いた コーヒー1年生の本』宝島社など累計10万部突破。
※画像をクリックするとAmazonに飛びます