本記事は、山田順氏の著書『日本経済の壁』(エムディエヌコーポレーション)の中から一部を抜粋・編集しています。
私立大学の約4割は赤字で破綻は確実
文部科学省「学校基本調査」によると、少子化により大学進学者数が減っているというのに、大学の数は右肩上がりに増えている。それにともない、大学の入学定員も増えている。
[図表16]は、日本の大学数の推移グラフである。1980年、大学数は国公立と私立を合わせて446校だったが、2000年に649校となり、2022年には807校となって、40年間あまりで倍増している。圧倒的に私大が激増し、公立大も増加したが、国立大の学校数はほぼ変わっていない。つまり、文科省は大学認可を乱発しまくってきたのである。
となると、教育の質はどんどん落ちる。そのうえ、現実問題として、入学者数が減って定員割れを起こす。実際のところ、2022年度は47.5%の大学(学部)で定員割れが発生していて、そういう大学ではまともな学生生活、授業ができなくなっている。
日本私立学校振興・共済事業団の調査(2020年度)によると、全国599の大学のうち222校で財務状況(事業活動収支差額比率)がマイナスとなっている。つまり、4割近くの大学が赤字となっている。
とくに地方の中小大学の財務状況はひどく、なんらかの援助・補助がないと経営破綻は確実とされている。しかも、赤字大学のなかで、そのマイナス幅が20%以上の大学がほとんどというから、状況は深刻だ。
ところが、政府(文部科学省)は、赤字が大きい大学ほど救おうと補助金をはずんでいる。この政府による補助金があるから、少子化にもかかわらず大学数が増え、赤字なのに潰れる大学が少ないのである。
ここまで、何度か日本は社会主義だと述べてきたが、大学もまた同じだ。日銀がETF(上場投資信託)買いで名だたる企業の筆頭株主になり、多くの企業が公的マネーで存続してきたように、私立大学もまた公的マネーで存続している。
その意味で、日本には完全な私大はないと言える。
ただし、英国やドイツのように、大学はほぼすべてが国公立という国もある。教育に関しては、社会主義システムのほうが、国民がみな等しく教育の機会を得られるので優れているという考え方もある。ただし、日本のように大学数が多く、そのほとんどに公的資金がつぎ込まれているのは、どう見てもおかしい。
財務省の資料によると、赤字大学が2019年度決算の状況のまま今後推移したとすると、その約2割にあたる121の学校法人が将来的に資金ショートを起こすという。
経営破綻を逃れるための生き残り術とは?
経営が逼迫している大学がなにをしているかというと、とにもかくにも学生数の確保と、補助金の獲得である。学校法人経営が多角的経営のなかの一つというところは少ないので、まずは授業料を払ってくれる学生の頭数をそろえることに必死になる。
私が知己にしている大学ジャーナリストは、地方の赤字大学に呼ばれて、「お知恵拝借」を懇願されるというが、もとより、人口減に勝てる知恵などない。いまさら、地方の大学が国際学部、情報学部などつくっても、誰もやって来ない。国際学部、情報学部はいまや完全にオワコン、時代遅れになった。
となると、わざと定員を水増しして補助金をせしめる。仕方なく、受験料や授業料を値上げする。ともかく、受験してきた者なら誰でも合格させる。推薦選抜、総合選抜の枠を増やして合格を連発するなど、なんでもありになる。
さらに、国や地方自治体から補助金がもらえる外国人留学生を増やすなど、いまや大学はなりふり構わなくなった。なにしろ、右翼・保守を
さらにもう一つの奥の手の生き残り術がある。それは私大をやめて、公立へ
しかし、これは、自治体や国に財政負担させるということだから、引き受ける自治体もどうかしている。
奨学金は返済義務のある単なる借金
いまや、受験生はこのような大学に「食い物」にされるために、受験勉強をして大学に進学していると言っても過言ではない。
いっとき、国会で奨学金返済に苦しむ若者たちの苦境が問題になったが、いつの間にか立ち消えになった。しかし、この奨学金というのは、もっともあくどい大学側の生き残り術だ。なぜなら、奨学金とは名ばかりで、「学生ローン」などと呼ばれても、それはただの借金であって返済しなければならないからだ。
奨学金は2種類あると、どんな受験生向けのガイドブックにも書いてある。一つは、給付型の奨学金。成績がいいなどの理由によってもらえる援助金(学費免除など)だ。もう一つは、貸与型の奨学金で、金利が付くものと付かないものがあるが、将来にわたって返済しなければならない。つまり、卒業して働いたら、その収入から返済するわけで、奨学金などと呼ぶのもおこがましい。
この学生ローンは、アメリカでも問題になっているが、日本の場合も深刻だ。なにしろ、返済できない人間が続出しているからだ。
「返す見込みがないなら、借りるな」という意見もあるが、学歴による採用が平然と行われている国で、「おカネがないなら大学に行くな」というのは、酷こくではないだろうか。
日本は実力主義社会ではなく、肩書き社会、縁故社会だから、なおさらだ。
1952年、神奈川県横浜市生まれ。立教大学文学部卒業後、光文社に入社。『女性自身』編集部、『カッパブックス』編集部を経て、2002年、『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長を務める。2010年より、作家、ジャーナリストとして活動中。主な著書に、『出版大崩壊』(文春新書)、『資産フライト』(文春新書)、『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP研究所)、『永久属国論』(さくら舎)などがある。翻訳書には『ロシアン・ゴットファーザー』(リム出版)がある。近著に『コロナショック』、『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)がある。※画像をクリックするとAmazonに飛びます