本記事は、山田順氏の著書『日本経済の壁』(エムディエヌコーポレーション)の中から一部を抜粋・編集しています。
なぜ少子化なのに大学を減らさないのか?
つくづく思うが、いまの日本の大学に行く価値があるだろうか? 日本の学歴、肩書き社会が今後も続き、年功序列・終身雇用制度が崩壊しないという前提でしか、日本の大卒の肩書きは意味をなさない。
「THE」(タイムズ・ハイヤーエデュケーション)の世界大学ランキングでは、東大、京大のみがトップ100に入るだけで、早慶ですら200位以下。また、大学を出ても世界共通語の英語が話せないのでは、海外の高額給料企業などに入れる見込みなどゼロだ。日本人の給料が上がらない、経済が長期低迷を続けているのは、大学教育が原因でもある。日本の大学を出ただけでスキルのない若者に、まともな給料を払う企業はない。
もう見飽きたと思うが、[図表17]は「THE」の世界大学ランキングトップ20校(2023年版)だ。ここに、日本の大学の名はなく、日本の大学の最上位は東大の39位で、毎年順位を落としている。同じく、日本二番手の京大は68位で、順位下降が止まらない。順位と点数が詳しく公表される200位以内に入った日本の大学は、この2校だけだ。
ちなみに、100位以内を見ると、アジア圏では中国が7校もランクインしている。清華大16位、北京大17位で、東大、京大より上位だ。韓国は3校、香港は5校、シンガポールは2校がランクインし、いずれも日本を上回っている。
すでに欧米圏の大学、いやアジアでも大学教育はリベラルアーツを終えると、デジタル社会に適合した実学教育に移行している。それを日本では、いまだに単なる教養を身に付けるだけのアカデミック教育をやっているのだから、進学する若者たちがかわいそうだ。
それにしても、少子化で進学する者が減るのに合わせ、なぜ大学を減らさなかったのだろうか? 経営が成り立たないのなら、資本主義なのだから自然
小手先の入試改革など意味なし
2023年1月25日、文部科学省は中央教育審議会大学分科会で、今後の受験科目の見直しや英語民間試験活用などの改善を求める指針案を示した。
その内容を見ると、今回の指針の目的は、高校段階から文系理系に偏らず幅広く学び、大学で文理の枠を超えた能力を伸ばせる大学生の拡大を狙うということのようだ。
現在、国立の入試は原則「5教科7科目」だが、私立は受験生を集めやすくするため、科目数を減らしている。たとえば、慶應義塾大学の経済学部(B方式)などは経済学を教えるというのに、入試必須科目に数学がない(但し、「A方式」は数学あり)。
文科省はこれを是正すると言う。早稲田大学の政治経済学部は2021年度から数学を入試必須科目にした。だが、私大文系入試に数学を科す動きは広まっていない。
また、高校では2年生から、文系、理系にコース分けてしまって受験教育を行っているが、これでは教育に偏りが出てしまうので、是正すべきと言うのである。
さらに、英語では、スピーキング力などを問う英語民間試験を活用する大学が2割程度にとどまって普及していないから、これをもっと活用せよと言うのである。
ざっと指針案を見たが、まったくの小手先の話だ。そんなことより、日本を実力社会につくり変え、官庁と企業に新卒一括採用、年功序列、終身雇用をやめさせれば、大学教育もその下の小中高教育もガラッと変わるだろう。
このままでは、日本の若者の将来はかぎりなく奪われる。日本の衰退は避けられない。
1952年、神奈川県横浜市生まれ。立教大学文学部卒業後、光文社に入社。『女性自身』編集部、『カッパブックス』編集部を経て、2002年、『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長を務める。2010年より、作家、ジャーナリストとして活動中。主な著書に、『出版大崩壊』(文春新書)、『資産フライト』(文春新書)、『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP研究所)、『永久属国論』(さくら舎)などがある。翻訳書には『ロシアン・ゴットファーザー』(リム出版)がある。近著に『コロナショック』、『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)がある。※画像をクリックするとAmazonに飛びます