本記事は、千原せいじ氏の著書『無神経の達人』(SBクリエイティブ)の中から一部を抜粋・編集しています。

笑顔,smile
(画像=olly/stock.adobe.com)

愛される人たちの共通項

日本人のコミュニケーションについては、いろいろと思うところがあります。

これから僕が言うことを読んで、中には「そんなに日本の文句を言うなら、もう日本に住まなきゃいい」なんて思う人も出てくるかもしれませんが、僕は日本が嫌いなわけじゃないんです。

生まれ育った日本が大好きだし、もっとよくなってほしいと思っているから、いろいろ自分なりに考えるところがあるわけです。

この30年間、日本は経済成長していません。こんなに長期間にわたって賃金が上がっていない国は、先進国の中で唯一といっていいほどです。このまま日本が二流国、三流国になっていくのを、黙って見ているだけなのは忍びない。

たいていの物事は、人と人とのコミュニケーションを通して動くものですよね。

30年間、経済成長していないというのは、30年間、物事が動いていないということ。つまりは30年間、日本人のコミュニケーションがそうとうまずかった、いいところがなかったということだと思うんです。

失敗からリカバーするには、失敗していることを認めて、軌道修正しなくちゃいけません。だからこそ、日本人のコミュニケーションを、ここらでしっかり見直したほうがいいのではないでしょうか。

実際、コミュニケーションが下手くそだと、むちゃくちゃ損をすることが多い。

外国に行ったときにも、よく思います。日本が多額の支援をしてつくった空港なのに、日本便の発着口がロビーからえらく遠かったり。現地のレストランなどでクレームを入れると、「日本人は黙って金を払っておけばいいんだ」と言われたり。「なんで今まで、誰も、なにも言わへんかったんや」と憤りを感じることが多いんです。

意見や主張をせず、黙ってやり過ごしてきたことで、不利益をこうむっていることがあまりにたくさんある気がします。

日常的な日本人同士のやりとりでも、「コミュニケーションのうまい下手が、人生を左右するなあ」と感じる場面は多いです。

以前、僕の行きつけの飲食店でも、こんなことがありました。

そこでは、僕の後輩芸人がアルバイトをしています。ある晩、彼が芸人だと知ったイチゲンのお客さんが、「なにか、おもしろいこと言ってみてよ」と、しつこく絡んできた。さらに、酔った勢いなのか暴言まで吐き始めました。どこかの一流企業の社員のようですが、酒の飲み方は最悪。お店のマスターも「お客さん、その言い方はちょっと」「そんなこと言わないであげてくださいよ」となだめていたのですが、一向にやめない。店内の雰囲気が険悪になってきたところへ、別の常連のお客さんが入ってきました。

すると、その乱暴なイチゲンさんは、あとから来た常連さんと話し始めた。しばらく飲んでから、帰る方向がお互い同じということがわかり、「一緒に帰りましょうか」という話になったんです。

自分が来る前にお店で起きていたことを知らない常連さんは、「じゃあ、帰りましょうか」となりかけたのですが、そこで機転を利かせたのがマスターでした。

その常連さんに、サッとLINEで「1杯おごるので、今日はもうちょっと飲んでいってくれませんか?」とメッセージを送ったんです。

それだけの短いメッセージでしたが、常連さんもなにかを察知したのでしょう。「ごめんなさい、やっぱりもう少し飲んでいきます。どうぞお気をつけて」と告げて、そのイチゲンさんはひとりで帰っていきました。

その後、なにがあったのかをマスターが明かした。

常連さんも、「そうだったんですか。それは大変でしたねえ」と納得したあと、僕の後輩芸人に「でも、芸人だったらおもしろいこと言わなきゃ」と軽口を。後輩も「そら、いつもおごってくれる人にやったら、なんぼでも言いますわ」と返してすぐに場は和み、みんなで楽しく飲んだ ―― という顚末です。

マスターは、「あのイチゲンさんと一緒に帰ったら、店のほかのお客さんたちに、『ふたりは仲間だったんだ』『どっちも性格悪いなあ』と思われちゃうでしょ? それじゃあ、気の毒じゃないですか」と言っていました。

LINEを受け取った常連さんも、さすがです。短いメッセージだけで「なにかあったんだな」と察して、さり気なく店に残った。野暮なやつやったら、「え、このLINEなに? なんかあった?」とか口に出しかねないところですから。

人間関係の大半は、ルイトモです。こういうコミュニケーション上手が集まるその店では、実際にいろんな人と人とのつながりが生まれています。一方で、コミュニケーションが下手で、ほかのお客さんの気分を害したり、楽しく飲んでいる場を壊したりするそのイチゲンのお客さんは、この素敵な場に加わることはできなかった。もったいない話です。

そう考えると、売れている売れていないにかかわらず、また先輩や後輩にかかわらず、芸人にはやっぱりコミュニケーション上手な人が多いです。ボケたりツッコんだりして場を盛り上げるときも、さじ加減が絶妙。嫌な出来事も悲壮感いっぱいに語るのではなく、うまいこと笑える方向に持っていきます。

だから、みんな周りから愛されるし、求められる。たとえば、このあとでじっくり話そうと思っている元・ギンナナというコンビで活動していた菊池健一くん。彼なんて、むちゃくちゃ愛されているがゆえに、しょっちゅう「菊池くんの取り合い」みたいなのが起こっているんだから、大したものです。

加えて、芸人の中には「以前は営業職でした」という人が、けっこうたくさんいます。それも、成績がよかったという人が多い。つまり芸人の世界は、お笑いうんぬんよりも、まず土台としてコミュニケーション能力の高い人が集まっているんだと思います。

正直、僕なんかよりも彼らの話のほうが、ずっと、みなさんの参考になるんじゃないかというぐらいです。

彼らの共通点でまず挙げられるのは、「明るい」ということ。

そして、「素直」であるということ。

先輩の言うことをなんでも聞いたり賛同したりする「イエスマン」という意味ではありません。人の話に耳を傾けたり、喜んだり、楽しんだり、感謝したりということをストレートに、自分を飾ることなくできるという意味での「明るさ」であり、「素直さ」です。

明るくて素直。これらを兼ね備えながら、周りに陽のエネルギーを振りまき、ちゃんとコミュニケーションがとれる人たち。だから当然、愛される。そして気づいたら、「なんか知らんけど食えてます」となっている。彼らこそ、まさしく「人たらし」です。

なにがあっても、なんとかなる

コミュニケーションは、基本的に人を幸せにするものだと思います。「ひとりで過ごす時間が欲しい」という人はいても、「一生、誰とも話したくない」という人はいないでしょ。「ひとり」はよくても、「ひとりぼっち」は嫌なはずです。人間の生存本能としても、「孤独を避けたい」という思いがあるといいますしね。

人として生まれたからには、人と交流することなしに幸せにはなれない。ということは、人とうまく交流する能力を磨くことは、そのまま自分の幸せに直結するといっても過言ではない気がします。

みなさんが、人間関係やコミュニケーションのことで悩んでいて「どうにかしたい」と思っているとしたら、「どうにかしたい」と思っていること自体が、すごく前向きでいいことだと思います。

諦めている人、なにも感じない人、考えない人は、「どうにかしたい」なんて思いません。「どうにかしたい」というのは、言い換えれば成長しようとしていることだから、すでに大きな一歩を踏み出しているんだと思う。

そうしたら、次は思いを行動に移す番。ひとつでもふたつでも、この本で参考になることがあったら、まず、やってみてください。

静かな水面に一滴の水を落としたら、サーッと波紋が広がります。

それと同じで、思いは行動を生み、行動は周囲へ影響を与えながら、どんどん広がっていく。その繰り返しの中で、少しずつ自分のコミュニケーションや、周囲との関係性が変わったりしていくはずだと思うんです。

たとえば、企業には「社内政治」というものがあると聞きます。政治の世界のような派閥争いや駆け引きが各企業にもあって、社内の誰に取り入ったら出世できるかとか、スムーズに事を進めるためにこの部署には話をしないでおこうとか。そういうのも時代の変化とともになくなっていくんじゃないかとは思うけど、そんなことを気にしながら日々仕事をするのは、しんどいですよね。「○○さんには気に入られといたほうがいい」とか「△△さんに嫌われたらどうしよう」なんて、考えたとたんにコミュニケーションが苦しくなりそう。

「この人に付き従っていかないと」っていう考えも、もう時代遅れな気がするし、「この一社で定年まで勤め上げる」という考えも、だいぶ薄れていますよね。

だったら、社内外を問わず、いろんな人とランダムに付き合ったほうが、人生の可能性も選択肢も広がりやすくなると思います。

人生、自分さえ投げ出さなければ、なんとかなるもんです。

こんな言い方は無責任に思われるかもしれないし、一人ひとりが置かれている状況が違うのもわかる。でも「たいていは、なんとかなる」というのは、自分自身の経験からも、周りの人たちを見ていても言えることなんです。

無神経の達人
千原せいじ
芸人。1970年1月25日生まれ、京都府出身。1989年に弟である千原ジュニアとコンビ「千原兄弟」を結成。テレビ番組等の企画等でこれまでに70ヵ国以上を訪問し、卓越したコミュニケーション力が話題となる。2018年にメンタルケアカウンセラーの資格を取得。2021年、貧困・就学困難への支援や国際協力の推進等を主な事業とする一般社団法人ギブアウェイを設立、代表理事となる。著書に『がさつ力』(小学館)、『プロに訊いたら驚いた! ニッポンどうなん?』(ヨシモトブックス)がある。

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