◉弱気材料


以下では主な2つの弱気材料について検証していきたいと思います。

①ガバナンス面の不透明さ

サントリーHDは同族経営であり、創業家である佐治家、鳥井家で構成される資産管理会社、寿不動産がHDの株式のおよそ9割を握っています。また、寿不動産はサントリー食品インターナショナルの株式を100%保有している状況です。
本来ならばHDが上場すべきですが、HDの方は同族支配を維持し、創業家の影響力を残すために子会社の上場という形になりました。この上場でサントリー食品インターナショナルは「半公半私」の企業になるのですが、このような手法はコーポレートガバナンス上の問題を含んでいます。

上場後、創業家のサントリー食品インターナショナル株の持ち分は最大で60%となるのですが、過半数を超えているため、経営が一般株主ではなく創業家の利益を重視した方向に傾いてしまうという危険性を孕んでいます。

【参考】

「創業社長VSサラリーマン社長」~アジアの富裕層ビジネスから見えてきたもの~
2013年版フォーブス億万長者トップ20[国内編]~ランキングが語る栄枯盛衰~

②高いバリュエーション

市場では、想定価格3800円というバリュエーションに対して、だいぶ割高であるという印象を受けている投資家が多いようです。
承認当初の日経平均株価(5月29日)は終値14,326円であったのに対し、現在は調整局面に突入しているため6月21日終値が13,230円となっており、当初のような歓迎ムードではなくなりました。海外の反応などを含め、想定価格帯を3000円~3800円とし、下限を広げましたがどの値に決まっても割安感は出ません(今期予想連結PER:22.5倍 - 28.5倍)。

また、当初サントリー食品インターナショナルが希望していた、想定価格3800円のケースについて考えても参考となる情報が得られます。
この株価ですとサントリー食品インターナショナルのPER(想定時価総額÷純利益)は33.5倍となります。同じ酒類・清涼飲料業界のキリンHDの予想PER は17.7倍、アサヒHDは18倍となっており、著しく高い数字といえるでしょう。

また、企業を買収する際に頻繁に用いられるEV/EBITDA倍率についても見てみます。
EVとは時価総額+有利子負債-現金であり、企業価値のことを表します。一方で、EBITDAとは営業利益に減価償却費と暖簾償却費を戻したものです。つまりEV/EBITDAは1年間の現金収入に対して企業価値が何倍あるか、会社を買収した際に何年間で元が取れるかのという指標となります。よってこの倍率が高い方が割高であると言えます。
現在サントリー食品インターナショナルの倍率は10.5倍であり、キリンHDの8.1倍、アサヒHDの7.0倍に比べ、比較的高いと言えます。

(ただし、今回サントリー食品インターナショナルへの投資を検討中の方にとって、上記のような理由があるから公募価格は下限で決まったとしてもそれが良いとは限りません。市場の投資意欲が一気に衰えてしまうため、下限すれすれで決まるのが理想的といえます。)

以上、見てきたように想定価格3800円は割高といえ、海外では相場の悪化も相まって上場延期説が流れたほどす。
しかし、いずれにせよ6月24日の公募価格決定に注目したいと思います。何か参考になれば幸いです。

また、下記のスライドシェアに、サントリー食品インターナショナルの上場関連の話題や企業や株価分析などをまとめ、アップしました。ご参考までに。

(情報提供を目的にしており内容を保証したわけではありません。 投資に関し ては御自身の責任と判断で願います。)

BY S.K