本記事は、渡部清二氏の著書『プロ投資家の先を読む思考法』(SBクリエイティブ)の中から一部を抜粋・編集しています。
数字を押さえておくと「真実」が見えてくる
大きな数字を押さえておくことのメリットとして、情報に惑わされず自分の頭で判断ができるようになるということがあります。
たとえば私は、原油の減産のニュースが報道され、「さあ、大変だ!」というような話の運びになるたび、「わかってないなあ」と感じます。
サウジアラビアが1日あたり100万バレルの追加減産を発表したのを、さも石油危機が起こらんばかりに騒ぎ立てるのを見ると、鼻白むほどです。
ちゃんと日経新聞を読んでいれば元データが書いてあるのですが、実は現在の日量は1億バレルなのです。そうすると100万バレルということは、たった1%の減産に過ぎません。
そのため、100万バレル減産したところでさほど影響はないのです。
それにもかかわらず、そのような事実を知らないため、減産の発表があるたびに相場は大きく荒れます。そして石油関連株など一部を除き、相場は下がるわけですね。
でも元データを押さえていて、こうした事実を知っていればそんな騒ぎが起きて株価が下がったとき、買いを入れることができます。
だってたったの1%の減産で、実際はほとんど影響がないのですから。
もう1つ私が重要と思っている数字に、粗鋼生産の量があります。
世界鉄鋼協会の2023年1月23日の発表によれば、2022年の世界粗鋼生産量(速報値)は前年比4.2%減の18億7,850万トンだったとのこと。
このうち日本の生産量は、前年比7.4%減の8,920万トンとなっています。
この数字が日本の産業の中でどのくらいの割合を占めているのか、年ごとにどう変化しているのかを見ることで、その産業の重要度やポジショニングが見えてきます。
世界の時価総額を巨視する
株式投資をする上で、時価総額も避けて通るべきでない数字です。
時価総額とは、現在の株価(時価)に発行済株式数をかけて求める数字で、企業を評価する上で重要な指標となります。時価総額が大きいほど企業価値が高いと評価されます。
世界の時価総額=世界中の上場企業の時価総額の総和ということになります。その金額は、2023年6月末時点で約105.9兆ドルでした。前年末に比べて8.3兆ドル増え、前年比伸び率は8.5%です。1ドル=147円として円に換算すると、およそ1京5,500兆円となります。
世界のGDPを合計すると日本円で1京3,800兆円になるとご説明しました。それに対して、世界の時価総額は1京5,500兆円です。
つまり、世界が1年間に生み出す付加価値よりも世界の時価総額の方が大きいということになります。
世界の時価総額のうち、トップに位置しているのは米国市場の46.7兆ドルで44.1%を占めています。
日本は中国に次ぐ第3位で5.9兆ドル。全体に占める割合は5.6%という結果になりました。
世界の時価総額はどれくらいなのか、前年に比べて増えているのか減っているのか、そのうち日本は何%を占めているのかなど、大きなデータを押さえておくようにしましょう。
日々の保有銘柄の値上がりや値下がりに一喜一憂していては、株式投資の本当の面白さはわかりません。
「木を見て森を見ず」ということわざがあります。1本1本の木にばかり注意を向けていると、森全体が見えない(=森本来のダイナミズムが味わえない)ということと私は解釈しています。
株式投資についても同じことが言えるのです。
森全体が見えるからこそ、個々の木の特徴やよさがわかるということもあるでしょう。この森にはこういう特徴を持つこの木が必要なんだな、という理屈もわかってきます。
それと同じことが世界のGDPを知ることと、自分の保有する銘柄が世界全体の中でどういう役割を果たしているのかを知ることの関係についても言えるのです。
大きな視野に立って、大局的に世界経済を見ることができるようになればなるほど、株式投資の意義や面白さがわかってきます。
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